自然ばかりの中に育ったウミド。
山羊と暮らし、家族もおり、特に父親の言葉、『心(しん)』を自身の信条として生きてきた。
向こうが野蛮だと思うほどの火で、なにもかもを失ったが、仇はとるとレオニスが頭らしいと追いかけると、彼は凄腕の剣闘士だった。
生活環境の異なる地で、如何に生き抜いてやり、如何に敵を倒すか。
ギラつく鼓動が視線になる思いだ。
世話人のアリサと知り合い、敵地をよく観察し、若いウミドは真綿が沁みるように、作戦を練って鍛練して体を守り、生き甲斐としてはダークだが、奴を墜とすことにかける。
様々な世の道理を知る中でウミドが選んだ、より『心』なる術はなにか。
是非、若き者の旅を見守ってほしいと思う。
何から何まで素晴らしかった。凄まじい傑作です。
最終回を見届けて、これほどまでのロスに陥るとは思いませんでした。
いわゆる「村焼き」から幕を開ける本作。
集落が敵襲に遭い、一人生き残った遊牧民の少年・ウミドは、家族や仲間を殺した男・レオニスの命を狙います。
見知らぬ闘技場の街へと連行されたウミドは、レオニスが「百人殺し」の二つ名で呼ばれる最強の剣闘士だと知るのです。
まず、ウミドとレオニスの関係性があまりにも最高です。何度悶えて床を転げたことでしょう。
ウミドの父親を手にかけておきながら、彼を「息子」と呼んで飄々とした態度で面倒を見るレオニス。
ウミドにしたら不本意すぎる奇妙な「親子」関係が始まります。
レオニスは闘技場で戦う身。彼が試合で負ければ、誰かがウミドの仇を殺してくれることになります。
しかしそれが叶いそうな局面、ウミドは叫ぶのです。
「オレが殺すまで死ぬなバカ野郎!」
思わず全私がスタンディングオベーションしました。
ウミドにとってレオニスは、紛れもなく生きる意味となるのです。
それが物語の最後までを貫く、唯一無二の尊きクソデカ感情です。
ウミドの生を支えてくれるもう一人の存在、アリサのことも忘れてはなりません。
闘技場で下働きする明るい少女は、まっすぐな善意でウミドを迎え撃ちます。
全てを失ったウミドを照らす光。恋愛になりそうでならない絶妙なラインが小憎いです。
闘技場の試合シーンが、またすごい。
一切無駄のない的確な描写、毎度一捻りある展開で、ショーの観客になったような臨場感を味わうことができます。
登場する剣闘士たちのキャラ立ちも抜群。私の脳内では、原哲夫先生の作画で再生されました。
本作には、大きな展開の波がいくつも用意されています。
王道をしっかり踏んでいるので、「こういうシーンが見たい」という期待感が生まれるのですが、毎回それを大きく上回る情動が湧き起こります。
物語の中盤以降、ウミドは精悍な若者に成長し、闘技場の外での話になっていきます。
世の情勢。レオニスの抱える事情。アリサの秘密。仲間たちの運命。
やがてウミドは、全ての元凶である真の仇敵と対峙することになるのです。
クライマックスが本当にすごい。
毎回毎回見せ場があり、更新のたびに激しく情緒を揺さぶられました。
成長したウミドの強さ。少年期を知っているからこそ、熱いものが込み上げるのです。カッコ良すぎました。
幾重にも畳み掛けてくる展開、それを描き切る筆致が、本当にお見事です。
こんな名作が埋もれてはいけません。
今から読み始める方が羨ましいです。あの途轍もない感動を味わうことができるのですから。
一人でも多くの方に結末を見届けていただきたい作品です。どうか読んでください。お願いします。