第7話 奴等の本性
遠のいていた鳥の鳴き声が聞こえてくる。目にオレンジ色が差し込む。
目を開けて心中呟いた。
「ついに、来ちゃった。」
私は何故林田さん達から軽蔑されてるのか未だにわからない。入部した当初から何かと優しく接してくれた。しかし、1ヶ月経過して優しさは練習中だけに留まった。
それは忘れもしないあの夜の更衣室。
《3ヶ月前》
18時半。練習が終わり、ネットや球、パイプ椅子等を片付け終え私達1、2年生は更衣室へ。一方音湖さんと流菜さん、先生は早めに切り上がり、「引退後の進路をどうすべきか。」別の教室でミーティングへ。
ドアを開け自分の棚に入れた鞄からタオルを取り出し首や額に湿った汗を拭った。
「ねえ、舞美。」
「はい!?」
持ったタオルをそのまま下ろし、背後から林田さんの声がした方へ向ける。5人は楕円形に私を見ていた。
「…な、何ですか?」
あれ?顔付きが違う。先輩達ってこんなピリピリした雰囲気を醸し出せるっけ?
ある者は腕を組み、ある者は腰に手を置いていた。
林田さんが口を開く。
「あんたってさ、虚弱?」
「はえ?きょ、虚弱?」
林田さんの隣にいた田辺さんがクスッと笑った。再び林田さんが続ける。
「正直言って、私達5人に深く友達にならないで欲しいの。」
「えっ?それは、まあ、先輩と後輩ですし。」
い、一体何をいっ…
「ちげーよ!!」
この中で背が1番高く吊り目な田辺さんがいきなり怒鳴った。突然怒鳴ったもんだから足がすくんだ。
「あんたは私達5人の土俵に入る価値がないのか聞いてんだよ!!」
「っか、ど、土俵?」
さっきから言っていることの意味がわからない。
林田さんが述べる。
「そう。土俵。いい?舞美?この女子バレー部は清純で由緒正しき部活なの?つまり、新人のあんたは私達が認める位、バレーボールが上手くなきゃいけないの。」
「…ば、バレーボールを?」
「そうよ。実は私達5人は、小学校に入学してからずっと一緒にバレーボールをプレーしてきた幼馴染。流菜さんは私達が少年団に入る前からバレーボールをしていた。音湖さんは中学からの助っ人とはいえ上達速度と人間性が一級品。だから2人には何も手を出していない。けど、あんただけは違う。あんただけは今のところ価値がない。」
変わり果てた彼女達は、まるで黒い霧に包まれた影そのものだった。緊張して口が乾く。6分前に拭いた汗が額からまた正面の頬へ滴る。私は何とか言葉を紡いで答える。
「それはつまり、私が、バレーボールが下手だからですか?」
「そうそう。よくわかったわね。」
どうしてこんなに偉そうなんだ?必死に頭を巡らせ恐怖と意見に抵抗する。
「でも、それは当然じゃないですか?私はまだ始めて1ヶ月しか経っていません。下手なのは当たり前じゃないですか。これから上手くなって試合では迷惑かけませんから。」
「はっ。ごもっとも!それに迷惑かけません、かぁ。本当にそうなるかしら?いいわ!今日からあなたは私達と深く友達になることを許可する。でも、秋の新人戦まで私達が認める位上手くなかったら、どうなるかわかってるわね?」
「は、はい。」
今彼女達は、訳もわからない私を出汁に使って遊んでいる。許可する?全く理解不能だ!でも、言い返せない。何故なら彼女達は本当に悪さをしてきた者の目をしているから。今言い返して殴り返したら更に酷いことをされる。
間違いない。
そんな予感が一切疑問を持たずにできるのは昔ある人を見てきたからだ。
あの最低な父親を。
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