第5話 流れるような逞しさ
《数時間後》
各々自由に試合観戦しそろそろバスに乗る時間が迫ってきた頃、私達は一度会場の席で集まった。
「あれ?流菜さんは?」
リベロで2年生の林が言う。
「あー、流菜は今とある強豪校達の監督やコーチから推薦の案内されてる。」と遠藤先生がすかさず答える。
「え!!どんな高校ですか?」
セッターで2年生の田辺が答えた。
遠藤先生は思い出すように目線を上に向けて言う。「一応大会前から流菜と私で向こう側から来るスカウトに応じているんだけど、今時点で4校招待されている。で、4校ともインターハイや春高をほぼ毎年出場していて、内1校は昨年インターハイ優勝した上沢学園。」
「げーー!!」「うそーー!!」「ヤバーい!!」「カッコいいいい!!」と一同盛り上がる。私も無言ながら愕然と驚いた。
はてさて。
流菜さんはこれ程の実力を持つのに関わらず試合では何故県大会ベスト8に終わったのか?
〈準々決勝〉
とあるチームと対戦したが、相手は県内トップであった。故に強力なフローターサーブ、同じ女子とは思えない位のブロードを含めたスパイクで守備が完全に機能不全。そもそもバレーボールは球を上げなきゃ攻撃はできない。つまりレシーブが出来てやっとトスを上げスパイクに繋げる。そのスパイクを可能とするトスが一向に上がらず流菜さんは全く飛べなかった。多少ブロックやサーブ、たまに来るチャンスボールでスパイクに転じ点を稼げた。それでも、一方的にやられて点は開いた。流菜さん含め、みんなはどんなに打ってもブロックに阻まれ、避けたと思ったら完璧に拾われる。自分達が飛ぶブロックは天にも届かないと実感させられる程、相手は真上から叩き落とす。来るサーブは速さと変化を兼ね備えた極上ジャンプフローター。アウトと思えばイン。腕に当てたと思えば全く別の方向へ。流菜さんと音湖さんも辛うじて対抗出来たが、結局試合は1セットも取れずに終わった。
これが、スポーツ。
私は今日だけで白熱と残酷の両方を経験できた。外側で観ていたからこそ。
《話は戻り》
遠藤先生は左手首に装着された黒い腕時計を見て「さ、そろそろ会場に出るわよ。」と呼びかけた。
直後遠くを見て「あっ、丁度流菜も終わったみたい。」と続けた。
私達は同時に振り返り、こっちに走って向かう流菜さんを見た。
よく同じ女子からモテると音湖さんから聞く。背は高く、強く、爽やかで意外と内気。走り方だけはとてもそうには見えない。華奢だ。これが今後のバレーボール界トップで戦う者。
北条流菜。
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