強い決意をもって贄となる少女の物語

本作は、雰囲気のある語りで始まる。
陰鬱でいて、何かが始まりそうな予感を強く感じる。

どうやったらこんな文章が書けるのかと思う。
想像力・知識量の凄さに圧倒されるのだ。
漢字の使い方ひとつを取っても、それは現れている。



こちらは「猫魔岬變」の主要人物・富子(本作では富)の、在りし日の姿の物語。
(「猫魔岬變」ではすでに、今生の者ではなくなっている。)

戊辰戦争の戦禍の中、父と兄を失い、祖母・母・妹弟と共に内地の親族を頼って逃げていく。

そんなとき、内地へ逃げる際に助けてくれた遠縁のものから文が届く。

 魚が全く捕れなくなった。
  海の神に捧げる贄となってほしい、と──。

贄というものに、本人の意思に反して捧げられてしまう犠牲のイメージを持っていた。

しかし、富は“犠牲”ではない。
既に固く決意し、自らの意思でそこに向かっていく者なのだ。


魔物の「お前が身を捧げたとて 只、それだけだ。」という言葉。
その言葉に反して、富は“それだけ”にはならなかった。(それは「猫魔岬變」のほうで描かれる)


素晴らしい短編として十分に成立しているが、「猫魔岬變」の途中か読後にぜひ読んで欲しい。

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