第40話 ストライカー

ミノタウロスの両腕がナタのような形状になったモンスターが目の前に現れ、横では倒されて身体から血が流れ出ているレイさんが横たわっていた。

フー、フー…と鼻息を荒くして俺との距離を少しづつ縮めてくる。


こいつが────ストライカーなのか。


対峙した瞬間に分かる。

今の俺では100%死ぬ。

だが目の前で対峙した途端、足が震えて動く事もやっとの威圧感を放たれ、どうする事も出来ない。

そんな俺に関係無く少しづつ近付き、そして────駆け出してきた。


「っ!」


勘で屈み、ナタの腕が俺の頭上を横切る。


ドォン!!!!


何の音か分からなかったが横を見ると崖の表面に横一文字に切られた跡が残っていた。

咄嗟に後ろへ飛び退き、距離を取る。

正直走っても追い付かれるだろう。

なら安全な距離を取りつつ高ランクの冒険者が来るまで耐える事しか出来ない。

握る剣を中段に構えるが十分な距離を取る。

ストライカーが近付いても後ろに下がる。

これらを繰り返せばいい。


一歩近付いてくる。


こちらも一歩退き、距離を取る。


また一歩、こちらも一歩、と一定の間隔を何がなんでも空けていた、が────


ダンッ!!!!!!!!


一気に迫り、腕を再び横に薙ぎ払う。

俺は咄嗟に後ろに飛び退きながら剣を縦にして直撃を避けるもその行動は最早、意味を成さなかった。


ゴッ───!!!!!!!!


ミシッ────!!!!!!!!!!!!


嫌な音を出した後で容易く宙を舞い、手から剣が離れた。

5mは飛ばされてメガネも外れ、転がりながら全身を強打する。


キーーーーーーーン。


直撃は避けられたものの、斬られた衝撃で耳鳴りが酷い。

すぐに起き上がろうとしたが全身を襲う激痛で身体が言う事を聞かない。

嘘だろ…たった一撃でこんなになるのか…

これは確かにゴールドランク何人かは必要だ。


「─────!!!!!!!!」

「──?────!!!!!!!!」


ボヤけた視界には誰かが写り、何かを叫んでいる。

黒い何かも蠢いている。


やっぱ思い通りにはいかないもんだな…


俺はゆっくりと目を閉じて気を失った。



◇◆◇◆◇◆



冷たい地面の感触が無くなり、代わりにフワフワで暖かい感触が伝わる。

少しづつ目を開ける。

最初に映ったのは木造の天井だった。

右を見ると窓、左を見ると頭に包帯を巻き、俺と同様に横になってる誰かがいた。

ゆっくりと起き上がり、ボヤける視界を駆使してメガネを探すと真横に小さなテーブルがあり、そこに曲がったメガネが置いてあった。


「…そりゃあさすがに折れるよな…」


そりゃあストライカーの重い一撃をこの細い身体に受けたんだ。

剣で直撃は防いだとはいえ地面を何度も転がった拍子にメガネは外れて傷が沢山付いていた。

だが俺は試しに…とボロボロになったメガネに手を翳し、魔力を手のひらに集める。

そして───


「【物質回帰】」


物質の時間が巻き戻るイメージをしてメガネに魔法を掛ける。

俺が試しに使ったこの空間回帰の魔法でメガネ自体に傷も曲がりも折れも無い時間にまで遡らせた。

するとメガネにあった傷、折れ、曲がりは忽ち無くなり、元の綺麗なレンズがはめ込まれたメガネへと元通りになった。

試しに掛けるが気になる所は見当たらない。

魔法は成功したようだ。

再び辺りを見回してここがアイルミロクの病院か治療室である事は分かった。

だが気になる事がある。


あの作戦からどれ程の時間が経った?


少し考えていると治療室のドアが開き、テイラーギルド長と、杖を付いた何処か宗教団体の教祖のような真っ白い服装をした老人が入ってきた。

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