第39話 スタンピード
冒険者全員が俺の指示した配置に着いた。
俺は跡地の開けた所にいる。
大量のモンスターが押し寄せてぬかるんだ地面に足が捕まり、他のモンスターも迫ってきてギリギリまで引き付けたら俺が壁を作って進行経路を塞いだと同時に魔法使い達が法撃、余った残党は近接の冒険者達が処理するという手順だ。
しばらく待ってると誰かが大声で叫んでいた。
「来たぞーーーー!!!!」
とうとう来た。
冒険者全員に緊張が走る。
崖の上では魔法使い達が草むらの中に隠れている。
試しに、と俺はスマホのカメラ機能を使い、奥の様子をズームして見てみた。
モンスターは案の定ぬかるんだ道に足を取られるもその上を別のモンスターが歩いていく。
だがそのモンスターも着地した先で足を取られるという繰り返しをしていた。
俺との距離は約50m。
俺はスマホ越しにその様子を見続ける。
残り40m。
まだだ。
30m。
もう少し…もう少し引き寄せる。
20m。
その距離あたりからカメラの画面がブレ始める。
気が付けば俺の両手…いや、身体も震えていた。
「…ははっ…」
何故か分からないが乾いた笑みが出た。
スタンピードも、迎撃も、モンスターも────全てが生まれて初めてだ。
にも関わらず笑みが出た。
なんで笑ってんだろうな…?
恐怖で精神が壊れたか?
俺はスマホをポケットに入れてパァン!と両頬を叩く。
しっかりしろ。
この作戦がミスったら大勢が死ぬんだ。
自分で建てた作戦だろ。
だったら今更逃げるのは無しだ。
フウッ!!!!と息をして目の前に集中する。
そして────その時は来た。
距離10m。
俺は両手を地面に押し当てて魔力を全力で使い、土や岩が混じった巨大な壁を作り上げた。
するとその直後に壁の先で激しい音が聞こえる。
ドォン!!!!!!!!
バリバリバリバリ!!!!!!!!
ドガァン!!!!!!!!
恐らく大勢の魔法使いが魔法を使ってモンスター達を倒しているのだろう。
俺は近くの壁をボルタリングのようによじ登り、アーリアさんに戦況を聞いてみた。
「戦況はどうですか!?」
「順調です。このまま行けば全員無傷でスタンピードは終わりそうです」
その言葉に安堵する。
全員無傷で終わるんだ…
死者も怪我人も誰一人出すこと無く終わる事が出来る。
俺の立案した作戦が成功するんだ────
気が付けば小さくガッツポーズをしていた。
◇◆◇◆◇◆
魔法が止み、砂煙が晴れてくる。
そこにはモンスターが死屍累々としていた。
だが一部モンスターは直撃をしなかったのか、少しフラつきながらも進んでいく。
そんなモンスター達を弓矢を持った冒険者達が射止める。
(…俺も行くか)
俺は崖の低い所から降りていき、負傷しているモンスターにトドメを刺しに行った。
何体か終わった所でアテナさんに声を掛けられる。
「いやー、死傷者共にゼロ!さすがギルド長の作戦だったねー」
おいおい、この人普通にフラグな事言ってるんだけど大丈夫か?
そう思った瞬間だった。
「お前らー!!!!逃げろーーー!!!!!!!!"ストライカー"だ!!!!!!!!」
突然奥から男性が走りながら声を荒らげる。
見事にフラグ回収したよ…
だが、ストライカー───確かにそう言っていた。
その声に反応しレイさんが駆け寄ってくる。
「ジェイル君!ここは高ランク冒険者に任せて退こう!」
そう言いながら手を引いて走り始める。
「ストライカーってそんなに強いんですか!?」
「強いも何もゴールドランクの冒険者が5人でようやく相手になるダンジョンのモンスターだ!今の私達じゃ無理だ!」
ゴールドランク5人でようやく相手になるモンスターと聞いて冷や汗が出てくる。
そんなモンスターまでもがダンジョンから出て来たってのか?
それにしてもなんでそんな高レベルのモンスターまで…
するとレイさんが立ち止まり、振り返る。
「レイさん!?」
「私もここで食い止める!君は───」
何かを言う前にレイさんが何かに吹き飛ばされる。
その音に立ち止まって、振り向いてしまった。
そこにいたのは────両腕がナタのような形で体長は2m近く、筋骨隆々で全身は真っ黒、ミノタウロスのような頭部が特徴的なモンスターが立っていた。
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