第31話村の防衛戦開始

時間はもう23時になった。

肝心のモンスター達は未だ現れる様子は無い。


「スゥ…スゥ…」


アテナさんに至っては完全に寝ていた。


「まぁだろうなとは思ったけどな…でもさすがに何もしないでただ待つのも確かに眠気が強くなるだけだ」


仕方無い…素振りでもして暇を紛らわせよう。そう思って鉄剣と竜魔水晶剣を腰に差した時だった。


チリン────


「っ!!!!」


鈴が1回鳴った。

鳴ったのは北側───アイル交易道跡地がある方角だ。

緊張が一気に高まる。

もしもこれで2つ目が鳴ったら迎撃開始だ。

俺は急いでアテナさんを起こしに掛かる。


「アテナさん、起きて下さい。迎撃の準備を…!」


アテナさんの身体を揺すって起こそうとする…が…


「ん~…」


起きそうにない…

え、マジで?

いや身体を休めてていいって言ったのは俺だけど寝ろとは言ってないだろ…

え、どうすんのこれ?

アテナさんを起こそうとしながらも仕掛けに注意を向ける。

もしもこれで2個目の鈴が鳴ったら薬品を撒いた所は突破されたという事になる。

その薬品は確か濃縮された薬品だ。

そしてその鈴は────


………


……



鳴らなかった。


(…これは薬品が効いたって事でいいんだよな?)


1つ目の薬品は効果あり。

スマホのメモ機能にはそう書いておく。

鈴は鳴らなかったとしても油断はならない。

そのエリアを避けて別の所からの侵入も考えられるからだ。

アテナさんは未だに寝ている。

俺は仕方無くスマホのアラーム機能を5分後に設定しておいて小屋を出た。



◇◆◇◆◇◆



「さて、どうなってるかな」


俺は試しに別の方角の仕掛けを見に行く。


するとそこには────泡を噴いて倒れている5体のゴブリンの亡骸が横たわっていた。


(ここは確か毒薬の所だ。っていう事はその薬品も効果はあったのか)


再びスマホに効果あり。と書いておくが少し視線を地面にずらすととあるものが目に入った。

ある1つの足跡が右の方へ伸びている。

恐らく、周りのゴブリンの様子を見て入れないと判断し、別の方角に移ったのだろう。

歩いた方向が分かるだけいいがこれはかなり危険な状態にある。

俺の仕掛けは全方角の森から侵入を予測している。


つまり───別方角への移動からの侵入には対応出来ないのだ。


「…っ」


俺は少し焦りを感じ足跡を辿って走り出し、入口の仕掛けの様子を見に行くと柵の蔦が切れていた。

ここの薬品は擬似血液の薬品だ。

その薬品に効果は無かった。

それは分かったからそれでいい、問題なのは既にモンスターは蔦を切って入っている事にある。


(まずいな…)


俺は歩きながら辺りを見回してモンスターを探す。

これで村人達に何かあったら依頼失敗だ。


どこだ。


どこにいる。


少し歩いてようやく見つけた。

ゴブリン3体。

鉄の剣を持ったゴブリンが2体、弓矢を持ったゴブリンが1体だ。

まだ俺の接近には気付いてない。

竜魔水晶剣を抜き、ゆっくりと迫り───そして。


バチン!!!!


横から魔力の弾が飛んで来て弓矢を持つゴブリンに当たった。

アテナさんだ。


「ジェイル君ごめん!完全に寝ちゃってた!けどあれ何!?ずっと変な音鳴っててうるさいんだけど!?」


アテナさんは牽制の為に持っていたスタッフ型の杖を使い、魔法を連発している。

あ、アラーム機能止めてなかったのか。というか知らなくて当然か。


「あの音はいいので応戦をお願いします!」


俺はアテナさんを守るようにゴブリンとアテナさんの間に入り、剣を構える。


「ジェイル君!」


その言葉に俺は何かを察し、ゴブリンに立ち向かいながら横にズレる。

するとその横を炎の弾が飛んでいき、ゴブリンの腹を直撃した。

その様子を見てた最後の1体のゴブリンは怯み、アワアワしている。

その隙を狙い、俺は握っていた剣を振り上げ────その左腕に矢が突き刺さった。


「っぐ……!!!!」


突然痛みが左腕に走るが瞬時にゴブリンとの距離を取る。


(まだ弓矢のゴブリンが仕留めきれてなかったのか…!)


左腕は痛みであまり動かせない。

だが俺にはまだ使える剣道の構えがある。

それが出来るなら問題は無い。

俺は身体の正面をゴブリンに対して横に回す。


中段半身───あまり使われてる所は見た事無いが実際にある構え。

これさえ出来ればある程度は対応出来る。

アテナさんも杖の先をゴブリンに向け、俺とアテナさんでの共同戦線が始まった。

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