第30話襲撃に備えよう

「えーっと、もうちょい張って…っと…」


俺とアテナさんは今、俺が考案した仕掛けの配置をしている。

もしもチート級の魔力や広範囲を探索出来る便利魔法があるならそれを常時展開すればいいんだろうけど生憎俺にはそんな物は無い。

今ある物で対処するしかないのだ。

天井から鈴を吊るし、壁と天井の隙間から麻紐を外に出す。

村の四方向にある入口を通り過ぎて森の手前の木に引っ掛け、そこら辺にある長い蔦をその麻紐と結んだら引っ掛けた真向かいにある木にその蔦を伸ばして木に結び付ける。

これで1つ目の鈴の仕掛けは完成だ。

そして森と村の入口の間に薬品を撒く。

巻き終わったら再び小屋に戻って鈴を天井から吊るし、再び麻紐と結ぶ。

こちらの麻紐は村の入口の柵でいい。

これで二方位の仕掛けは完成した。


「ジェイルくーん!こっちも終わったよー」

「分かりました。ちょっと確認して来ます。それとアテナさん、仕掛けがちゃんと動作するか確かめるので小屋で待機しててもらえますか?」


分かったー。と小走りで小屋に戻るアテナさん。

俺はアテナさんの仕掛けを確認しに行く。


「…よし、四方位全部出来たな。後は予想通りに仕掛けが動いてくれれば…」


試しに蔦を切って小屋に戻ってみた。


「アテナさん。どうでした?」

「うん、問題無く鳴ってたよ」


試運転は成功のようだ。

腕時計の時間を見ると18時半を差していた。

…今更だけどこの時計とこの世界の時間って合ってる…よな?まぁ合ってる事にしておこう。

という事で俺らは小屋で一旦休みを取り、襲撃に備える。

すると扉が開き、村長が籠を持って来た。


「お二人とも、お節介ながらお食事の方をご用意しました。宜しかったらどうぞ」


籠に入っていたのはパンと野菜の入ったスープだった。

丁度食事をどうしようかと考えていた所だったのでありがたい。


「ありがとうございます。あ、それと村の方々はまだ仕事の方はされるのでしたら今晩のみはもう終わりにして頂きたいのですが…」

「分かりました。皆に伝えておきましょう」


村長は一礼して外に出た。

さて、これからの事を考えよう。

仮に襲撃に来るとしたら日が落ちてからであると考えていい。

今の時期が分かればいいのだが木の葉がまだ枯れたり落ちてない事を考えると春か夏、あるいは立夏と予想出来る。

となると完全に日が落ちるのは今の時間帯前後であると考えていいだろう。

つまり、そろそろ来る可能性が高いのだ。

そんな中、村の人達が外にいればモンスターの意識がバラバラになり、やりにくくなる。

だからこそ少し早目に作業を終わらせて家に居てほしかった。


「さて、まだ襲撃も無さそうですから軽食にでもしましょうか」

「そうだね。いやー、ジェイル君のあの仕掛けのおかげでこんなにのんびりと襲撃に備えられるなんてありがたいよ」


ハムハム…とパンを頬張るアテナさん。

そういえば…とある事に気付く。


「確か今回は相方がいなかったから俺が呼ばれたんですよね?仮にその人と今回の依頼を受けるのならどういった作戦でモンスターを倒そうと?」

「え?うーん、どうだろう?私普段作戦を考えるのその子に任せちゃってるし、それに私魔法使いと拳闘士の両方で戦ってるからある程度は拳と魔法で倒せるかな…と」


ちょっと待って?この子かなり脳筋だぞ?

え?じゃあ何?もしも俺が仕掛けを考えなかったら行き当たりばったりな方法で迎え撃ってたって事?


「…さすがに行き当たりばったり過ぎかと…」

「えーでも拳で殴ってひるんだ所を追い討ちに思いっ切りドーンってまた殴るの楽しいよ?」


なんだろう…この子とまだ会った事の無い相方、かなりこの子の扱いに苦労してる感じがした…

俺のそんな不安を他所にパンとスープを食べ続けるアテナさんだった。



◇◆◇◆◇◆



軽食を終えて籠を小屋の邪魔にならない所に置き、再び襲撃に備える。

時間はもう21時になっていて軽く外を見てみるが変化は無く、鈴も鳴っていない。


「ん~…」


アテナさんは眠いのか目を擦っていた。


「大丈夫ですか?」

「ちょっと眠いかも…というかジェイル君は夜強いんだね」


まぁ俺は昔から夜は強い上、もう夜勤で23時から8時まで仕事してた時期もあったから既に慣れている。


「鈴が鳴ったら起こすので少し身体を休めてていいですよ?」

「うん…ちょっと横になる…」


ふぁ~と欠伸をしてアテナさんは横になった。

さて、俺も俺で暇になったからネット小説でも…って…


「あ…電波通って無いじゃん…」


て事は動画も見れないって事になる。

マジか…ダウンロードしておいてまだ見てない動画あったのに…


「仕方ない…ゆっくり待つか…」


俺はスマホをポケットにしまい、再び襲撃に備える事にした。

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