第118話 ギデオン・ブラックムーアの信念

鮫島と三雲をギデオンのもとに転移させたスキルホルダーは、すぐに元の場所に戻った。それを見届けた後辺りを確認した鮫島は、なるほどなと思う。


「これは、ダンジョン丸ごと所有している感じですか。さっきまでは管理されたダンジョンの中に、秘密の場所をつくった様なイメージですが、ここは全く隠していない。そのうえ、組合に管理されているような形跡も見当たらない。ここがどこかわかりませんが、もし誰にも把握されていないダンジョンを拠点にしているのなら探し出すのは困難でしょうね」


「そういう発言には気を付けるんだな、場所を探りに来たスパイだと思われた瞬間にお前の命はないと思え」


「おや、心配してくれるのですか?お優しいですね」


「ふざけるな。お前がスパイだったらここまで連れてきた俺の立場が危うくなるから言ったまでだ。その時は俺がお前を殺すから肝に銘じておけ」


そんなやり取りをしながら、三雲に連れられるように進むと目の前に大きな建物が見えてきた。


大きな塀に、洋風の建築。ちょっとした城壁のようなもので、周りに建物がないため遠くからよく見える。


建物に近づくと、入口に女性が立っていた。


「(三雲。よく戻りました。なんだか知らない手土産も一緒の様ですが)」


「(説明する。ボスに会わせてくれないか?)」


そんなやり取りが英語で行われる。鮫島も話すことができるので、問題なく聞き取れているが、ここはそもそも日本ではないのかもしれない。


短いやり取りの後、鮫島のことを鋭い目線で睨んだ女性だったが、次の瞬間笑みを浮かべ案内してくれた。


中に入ると、広々としている。そんな中鮫島は驚いた。空からドラゴンが振ってきたのだ。


「おい!ここって何階層だ!俺は戦闘力はそこまでないんだ!」


あせって三雲にそういう鮫島。しかし三雲は何も答えない。そうしてあたふたしている目の前に勢いよくドラゴンが着地した。


攻撃を受けるものだと思い、目をつむっていた鮫島だったが、風圧のみで何も攻撃を受けないのを感じ、目を開ける。すると目の前に大きなドラゴンの顔があった。


これは少なくとも地下80階層以降だと思われる。そんなことを知識をもとに判断した鮫島が、冷や汗をかいていると、ドラゴンの背中から声がした。


「(やぁ。君が鮫島かい?さっきそこのジュリアから念話で大体のことは聞いたよ。で、日本ダンジョン組合からA.B.Y.S.S.に鞍替えしたいんだって?)」


声の主を確認した鮫島は、ついに邂逅したその人物に息をのんだ。そこにいたのはA.B.Y.S.S.のリーダーかつ、最強の探索者ギデオン・ブラックムーアだったのだ。


いきなりの出会いに面を食らったものの、元々出会うことを望んだのは鮫島自身だったので覚悟はできていた。なので、そのギデオンに対しそのまま英語で返す鮫島。


「(これはこれは、ボス直々のお出迎えありがとうございます。伝わっているようで何よりです。今回は私も仲間に入れていただきたく、面会をそこの三雲にお願いした次第です)」


そう話す鮫島に、今度は日本語で返事をするギデオン。


「日本語で良いよ。こっちも話せるし。で、本題なんだけど君にその価値はあるの?」


そう尋ねるギデオンに鮫島は自身の価値をプレゼンする。


「私のスキルは契約の☆5スキルです。このスキルで契約を交わすとどんな内容でもその契約は必ず守られます。相手がその契約を破るということ自体が起きないような強制力が生まれるというスキルです。かなり便利なスキルで、いろいろとお役に立てると思っております。」


そういう鮫島。その説明を聞いたギデオンはあまり興味なさげな反応だった。


それに対し若干の焦りを感じた鮫島が追加でアピールをする。


「それにこのスキルの良い部分は相手がどんなに格上でもスキルの強制力が働くというところになります。本来こういった支配系統のスキルは相手とのレベル差があったりすると効きづらくなりますが、私のスキルは違う。契約さえ交わせてしまえば相手がいかに格上でも問題ありません。」


そういうと少しは興味を示したギデオン。


「なるほどね。でもなんでそんな便利なスキルを持っているのに、わざわざ鞍替えすることになったんだい?君の性格上僕たちの考えに共感したわけではないでしょ」


そういわれた鮫島は、図星だったため冷や汗を垂らす。しかしここでごまかしても仕方がないと思い、本音をさらけ出すことにした。


「いやぁ、ごまかせませんね。実はドジを踏んでしまい居られなくなってしまったのですよ。そこでお尋ね者になるなら、いっそのことそっちで大成してやろうかと一念発起した次第です。自分で言うことではないかもですが、私はかなり優秀ですよ。少なくとも人手不足のあなたたちにとって便利で使い勝手のいい駒には成れると思いますが?」


そう自信満々に言い放った。これは賭けだった。現に案内してくれていた女性は怒り心頭だ。


「(あんた、何よその偉そうな態度。それに私たちを侮辱しているような発言許せないわ!)」


そう叫ぶように言い放つ女性だったが、その横でギデオンは大きな声で笑いだした。


「(いや、面白い!この場面でかませるだけの度胸は僕にとっても欲しい人材だね!)」


ギデオンが笑い出したことで先ほどまで怒っていた女性も不服そうに黙る。納得は言っていないようだがボスの意思を尊重するようだ。


そして、ひとしきり笑ったギデオンは鮫島に対しスキルを使ってみるように頼んだ。


「鮫島。一回スキルを使ってみてくれないか?どんなに格上相手にも使えるということなら僕に対して使用してみてくれ。でもここで欲をかかないことだよ、契約内容はしっかりと確認するし、何かあったら僕の仲間が君の命を奪うからね。」


そういって話を進めていくギデオン。この話を受けた鮫島は欲をかかないようにと言われたものの、少しでも状況をよくしようと思い、契約内容を考える。


そうして出来上がったものは次のような内容だった。


__________________________

鮫島はA.B.Y.S.S.の構成員として従事することと引き換えに

ギデオンは鮫島の命を保証する。

__________________________


これは鮫島なりに自身の命を守るための考えたものだったが、ギデオンはこれを許さなかった。


「これじゃだめだね。君がうちの構成員になったら僕が君を守ることになっちゃうじゃないか。そんな契約にはサインできないね。でもこの一文を付け加えるならサインしてやってもいいよ。鮫島がA.B.Y.S.S.の行動理念に反しない限りって一文をね。あ、あと命を保証するのではなく、命を奪わないにして。君を守るのにつかわれるのはごめんだから」


そういって、あっさりと契約のスキを修正してきた。それを受けて鮫島はあまり自身にメリットがなくなってしまうが、それでもこの最強に命を狙われないだけでも今の自分にはメリットだと思い、その修正を受け入れた。


そして、あれよあれよと準備を済ませ、契約を交わす鮫島とギデオン。


スキルの契約といっても紙にサインした瞬間に一瞬紙が光り、その光が双方の体の中に入っていく以外は特に変わったところがない。


光が吸い込まれていくのを確認したギデオンは、鮫島に向かって思いっきりパンチを繰り出す。


しかし、そのパンチは鮫島の目の前で止まり風圧だけが鮫島のほほをなでる。


「へ~、こんな感じになるんだね。面白い。確かに君を殺すことができなくなった。これで君もA.B.Y.S.S.の一員だ」


そういって楽しそうにするギデオン。しかし鮫島の心臓は今にも張り裂けそうなくらい鼓動を速めている。


本来は考えることらできなくなる自身のスキルの影響下において、実際にパンチを繰り出すことろまで可能なのが恐ろしくてたまらなかったのだ。


鮫島の予定では殺すことができなくなるため、間接的にでも殺そうという考えそのものが生まれなくなるはずだった。それなのに思考自体は縛れていない。これほどまでにレベル差があるということなのだろうか…


そう考え、今にも張り裂けそうなくらい鳴り響く心臓の音色と、額から滝のように滴り落ちる汗で鮫島は一瞬思考力が鈍ってしまった。それが彼の命取りになるとも知らずに。


「鮫島。で、結局君が組合を追われる原因になった出来事ってのは何なの?」


「…へ?ああ。スキルで探索者を操っていたのがばれてしまいましてね」


その鮫島の発言を聞いたギデオンは先ほどまでの軽薄な感じから一気に鋭い目つきに変わった。


「(ああ、お前もそちら側の人間か。じゃあ、契約違反だな。死ね)」


そうつぶやいた次の瞬間。ギデオンが腕を一振りしたのに一瞬遅れる形で、鮫島は肉塊となって周囲に散らばったのだった。



_____________________________________

カクヨムで別作品も公開しております。

よかったらこちらも見ていただけると幸いです。


殺しの天才、才能に気づく〜選べる職業が【死神】だけ⁉〜

https://kakuyomu.jp/works/16816452219266132336

_____________________________________


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る