第10話 体育祭
ついに、その日がやって来た。
緊張のせいか、朝から顔が強張って居た様である。。
NTがら、
「顔が引きつっとる」
と言われてしまった。
薄々、彼もその原因を感じ取って居たようだ。
「本番前に、手、しっかり洗っとけよ」
グッドアドバイスである。
当の本人はそこまで頭が回らなかったようだ。
二年生のホークダンスは午前中の最後の種目だった。
これは言って居なかった事である。
当時、大方の女子のブルマはプクッと膨らんで居たのだが、我が憧れのMJは違っていた。
わりとピタッとして居て、その稜線が覗える物を履いていたのだ。
流行の先端を行くMJならではのそれである。
遠目であれ、余り長く見つめていると股間が騒がしくなる。
本番には大人しくして居て貰いたいものだが~、こればっかりは先が見通せない。
入場行進曲に合わせ、総勢500名近くが大きな輪を幾つも作り始める。
上空から見れば圧巻であろう。
人の動きが緩慢になり、やがて、みんなが定位置に着くと行進曲が止む。
グランドの四方のスピーカーからオクラホマ・ミキサーが流れ始めると、胸の動悸が早まり出す。
盆踊りは得意だがこればっかり勝手が違う。
まして、女子の手を取るのであるからして、ぎこちなく成っても仕方がない。
一人、一人と相手が替わって行く。
MJの姿も次第に迫って来た。
彼女の手を取り次第、ロボットダンスに成らない様に願うばかりである。
頭の中が錯綜する。
『MJの手を強く握るべきか、それとも、何喰わぬ顔でそっと添えるだけにするべきか?』
『MJの手を握り終えたら、他の子の手には触れないで置こう』
笑わないで貰いたい。
本人は真剣そのものなのだから~。
後二人・・・後一人。
遂にその瞬間がやって来た。
MJの右手を捉え、彼女の体を反転させながら懐に招き寄せる。
背中から抱え込むような形になり、左手を添える。
数歩進むと立ち止まり、MJは又反転しながら僕と向き合う。
首を傾げ、会釈が済むと次の女子と代わる。
この僅か20秒に満たない時間が僕の胸の中に永遠に居続ける事を願わずには居られない。
強く握り絞めることなど、出来よう筈がなかった。
一瞬、MJと目が合ったが、別にこれまでの経緯を気にしている様には見えなかった。
MJは僕に対しては、恰(あたか)も、道路ですれ違った程度の感覚で居たのかも知れない。
それでも、僕にとっては至福の時間であった。
MJは事も無さげに行ってしまった。
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