第3話 五月晴れの日

 五月晴れの日の下校時に、何を思ったのか、僕はMJの後を付いて居った。

いや、着けて行ったと言うべきである。

 ストーカー行為そのもであったが、当時は、それ程、とやかく言われて居なかった。


 MJは正門を出て左に曲がった。。

 凡その見当は付いて居たので気付かれない様に距離を保って居たが、脇道に逸れた所で感づかれてしまった。

 当時で云う所の文化住宅が左右に軒を並べている。


 MJは振り向いて僕を睨みつけた。

 

「なんで、着いてくるん?」

「えっ、あの~その~」

では、答に成って居ない。


 ふっくらと笑みを浮かべているので、怒っては居ない。


「もう~」

と、一言呟いてMJは歩き出した。


 十歩ほど歩くと立ち止まり振り返る。

 別に不機嫌ではなさそうだ。

 愛くるしい口もとからフゥーと息を漏らし、又、歩き出す。


 又、十歩ほど歩くと立ち止まり、悪戯っ子を窘めるように、

「はい、終点で~す」

と言って笑って見せた。


 一戸建ての住宅となれば、僕なんかと住む世界が違って見えてしまう。

 僕の家と云えば、戦前から有ったであろう古ぼけたアパートだ。

 共同の便所に炊事場。勿論、風呂はなく近くの銭湯にお世話になって居た。


 お恥ずかしい話だが、僕は大の風呂ギライ。

 一週間入って居なくても何とも思わなかった。

 小学校の低学年の頃、見かねた母親が頭から角を出して、

「ええ加減せな、虫が湧いてしまうやろ」

と、どやされた事もしょっちゅうだった。

 僕はと云うと、泣きべそをかきつつトボトボと銭湯に向っていた。



 話が逸れてしまった。


 MJはまるで犬っころを追い立てるように、足下に有った小石を僕に向けて蹴とばした。

 口をムの字にしていたが、それも又、可愛くて堪らない。

 間違ってもMJは、

『アホ、スカタン』

等の言葉は口にしない。


『ワン』と云うべき所だが、


「ほな!」


で、済ましてしまった。

 僕にすれば目的が遂行されたので、それだけで善しだった。


 


 

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