第28話 昔日の赫き炎(3)
「本当の理由……そうだ、今の俺の使命…目の前にいるこの男…!」
私は早太郎を地面にそっと寝かし、将門の前に立ちはだかった。
「無駄話は済んだか?とんだ馬鹿者だな、その男は。逃げていれば助かったというのに」
「確かに馬鹿だったな…せっかく逃がしてやったのに…だが、無駄死にであるかどうか、お前に言う資格はない!」
私は将門に斬りかかった。しかし将門は、人間とは思えない速さで私の斬撃をかわし、私の胴を切り裂いた。
「ぐわあ!」
「その程度か。妖魔とは…それとも人の姿になってから妖力が落ちたのか?」
「くそっ…この程度、造作もない…!妖迅風・飛来!」
私は上空から将門に妖術を撃ち込んだが、刀で軽く払われてしまった。そして将門は一気に距離を縮めて、私に斬りかかった。私は妖術で身をよじって将門の太刀筋をかわし、背後に回り込んだ。そして今出せる限界の妖力を拳に込め、妖術を叩き込んだ。
「…今しかない…この一瞬の隙ですべてを決める!私の体などどうなっても知るか!こいつを倒せるのなら!…
一瞬時が止まるような感覚がした後、凄まじい轟音と共に爆風が将門を包み込んだ。将門は馬と共に地面をえぐりながら遥か先へ吹き飛ばされた。
「…どうだ…?」
その時、遥か彼方の闇の中で一瞬何かの光が見えたかと思うと、凄まじい速さで将門が突進してきて、私の腹部を貫いた。彼は馬に乗っていないが、馬をはるかに超える、光のような速さだ。もはや馬の必要性はあるのかとさえ感じる。
「ぐはっ…!…将門…どうして…」
「甘いな…ぬらりひょん…その程度でこの私が死ぬわけがないだろう…ここで死ぬがいい!」
将門は突き刺した刃をさらに押し込んできた。
「…何の成果もないまま終われるか!私は…絶対にあきらめない…!」
私は将門の刀を掴み、ありったけの力を振り絞りそれを抜き取った。
「貴様…まだそんな力が…!?」
「ぬおおおおぁぁ!」
私は抜き取った刀の刀身を素手で掴み、刀の半分ほどをへし折った。半分とはいえ、将門の太刀の半分は普通の刀と同じくらいはある。
「貴様、私の刀を…!…仕方がない、貴様はもうじき死ぬだろう。よって私たちももう退却することにする」
そう言って将門は兵士の一人に近づくと、凄まじい速さでその兵士を斬り捨て、残った馬にまたがり全軍を引き連れて退却していった。
(…そこまでして馬に乗りたいかよ…あの兵士が可哀想なんだが…)
私は将門に呆れつつもすぐに早太郎のことを思い出し、早太郎の方を見た。しかしもう早太郎はぴくりとも動いていない。それを見て何かが吹っ切れた私は、地面に倒れこみ空を見上げた。
(…私は…何か成果を得られたのだろうか…この時代で死んだらどうなる…?もしもこのまま死んでしまうのなら、私は何も成果が得られなかったことになってしまうが…はぁ、もういい。段々意識が遠のいていく…力が入らない…一旦死ぬことにしよう)
私は静かに目を閉じた。徐々に意識が遠のいていく。そして何も感じなくなってしまい、次に気が付いた時には、見覚えのある天井が目の前に広がっていた。…床が堅い…タイムスリップする前にいた廊下だろう。
「…あれ…私は…生きてる…?いや、死んで戻ってきたのか…よかった…」
「あっ!ゲンヨウさん、今までどこにいたんですか!?」
視界に突然覚が入り込んできた。とてもほっとしたような表情をしている。
「…えっと…なんかとても不思議な体験をした…」
「そうなんですか?まあそれはいいとしてまずは…おや…?ゲンヨウさん、手に持ってるそれは…」
「ん?」
覚に言われて手を見てみると、そこには私がへし折った将門の大太刀の一部があった。
「これ、将門の…!」
「はい?将門…?将門がどうかされたんですか?」
「えっと、実は…」
私はタイムスリップしていた時のことを覚に話した。
「なるほど…多分なんですけど、雲外鏡さんと一緒に潰されてしまったので、時空に歪みが発生してしまったのでしょう。でも…なんで今ゲンヨウさんはここにいるんですか?向こうで死んだんですよね?なのに人間の体で現代に戻ってこれている…」
「…吾輩だ」
私たちのもとに廊下の奥から八尺様に抱えられて雲外鏡が姿を現した。
「雲外鏡!…どういうことだ?」
「あの時代には実は吾輩も行っておったのだ。お前とは違う場所にタイムスリップしてしまったが故、長い間放浪したが…偶然お前が倒れているのを見つけてな。まだかすかに脈があったので回復妖術で回復させてから吾輩の力で現代に送り届けてやったというわけだ」
「あの時…私はまだ生きていたのか!?」
「まあな…本当に運がいいやつだ」
そう言って雲外鏡は鼻で笑う。しかし雲外鏡に時空を超える力があったというのは驚きだ。もうなんでもありではないか…
「何はともあれ、ゲンヨウさんはタイムスリップ中にかなりの成果を出してくれました。この将門の刀の一部はかなり貴重な資料ですよ!ちょっと津多さんに確認してもらいます」
覚が珍しく興奮している。どうやら私が過去で成し遂げたことは無駄ではなかったようだ。こうして、私のちょっと不思議な経験が幕を下ろした。早太郎を救うことはできなかったが、彼の犠牲は無駄にならずに済んだ。私はこれからも彼の分まで生きていく。そしていつか、将門を倒してみせる。
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