第29話 【閑話】妖刀・鬼丸国綱
「…ゲンヨウさーん、起きてくださーい」
とある休日の朝、私は
「…どうしたんだ?こんな朝早くから集まって…」
「おはようございます、ゲンヨウさん。えっと、こんなに妖魔が集まっていることは気にしないでください…それよりも重要なことがあるんです」
そう言って覚は大きな木箱と共に一枚の紙を取り出した。
「なんだ?それ」
「この木箱に入っているのは、先日ゲンヨウさんが過去の世界から持ち帰った将門の太刀の一部です。何かに使えないかと思って津多さんに相談してみたら、知り合いの霊媒師さんに解析を依頼してくださるとのことでした。それで、その霊媒師さんいわく、この刀は強い怨念が籠っていて、その怨念は周囲のありとあらゆる別の怨念を引き寄せるという性質があるのだそうで」
「なるほど…それはわかったが、その紙は?」
「それを今から説明しようと思ってたんです。この紙は地図です。私はこの刀の一部を利用して、新しい刀を鍛造できないかと思っていたんですが、霊媒師さんによると、この刀の怨念は強すぎるが故に、様々な災いをもたらす可能性があるそうなんです。そこで、この刀の怨念を最適化するためにもう一本強い怨念の籠った妖刀を用意する必要があるとのことでして…いわゆる毒を以て毒を制すというやつですね。怨念に怨念をぶつけると互いに削り合ってなんかいい感じに中和されるんだとか」
覚は頭をかきながらしどろもどろに説明する。覚自身よく理解できてないといった様子だ。私はひとまずその地図を受け取り、じっくりと見てみたが、何度見ても大雑把な位置しか書いていないようだった。
「かなり大雑把だな…どうするんだよ、これ…」
「なのでこの折れた刀を持って行ってください。これがあれば自然と引き寄せられるはずですから」
「なるほどな…なら早速行くとしようか…」
「はい。では私も一緒に…」
「あ、いや…待ってくれ」
そう言って荷物をまとめようとする覚を私は引き留めた。
「今日は…私一人で向かおうと思っているんだ」
「えっ!?どうしてですか?…案内とか…」
「今回は本当に危険な任務だ。将門の怨念に一度触れている私は大丈夫だろうが、お前は何があるか分からない。他のみんなもそうだ。…だから、その妖刀は、俺一人で取りに行く」
「そんな…でも、危険なのは怨念だけとは限らないんですよ?ゲンヨウさんに万が一のことがあったら…私たちは…!」
「覚」
詰め寄ってくる覚の目を私はじっと見つめ、慣れない笑顔で不格好にも微笑みかけた。
「…私を信じてくれ。私は妖魔最強の妖怪だ」
「…!…本当に、行ってしまうのですか…?」
「任せろって。…じゃあ、行ってくる」
そうして私は雲外鏡を通って地図に書かれた場所へとワープした。覚は不服そうな表情で私を見送った後、そっと後ろを振り返るとぼそっと呟いた。
「…私、悟ってましたよ…はぁ…ゲンヨウさん、ほんとは結構怖がってるじゃないですか…本当にしょうがない人です…」
雲外鏡を潜り抜けた先は深い山の奥だった。目の前には小さな洞窟がある。見た感じ人の手が付けられていないもののようだが、奥から確かに妖力が流れてきている。
「行ってみるか…」
私は意を決して洞窟へと足を踏み入れた。するとそこは思った通り全く人の痕跡がなく、ごつごつとした岩が剣山のようにぎっしりと敷き詰められている。それはまるで私が奥へ行くのを阻止するかのようだ。私はそれらをなんとかかいくぐり、さらに奥へと突き進んでいった。
しばらく進むと、急に平坦な地形が目の前に現れた。だがあまりにも不自然なのだ。まるでもともとここにあった何かを無理やり吹き飛ばしたかのような空間が広がっている。…しかし依然として人の痕跡はない…私は気味悪さを感じつつも近くを探索してみると、すぐ近くに古い机と本のようなものがひっそりと置いてあった。ということはかつて誰かがこの場所だけを切り開き、ここで何かをしていたのだろうか。
「…古い本だ…いや、日記か?何が書いてあるんだ…?…延徳二年三月十二日、
日記はここで途切れている。最後の方は読むのも大変なくらいに歪んだ字で書かれている。本当に死の間際に書いていたものなのだろう…私は日記をたたみ、さらに奥へと進もうとすると、突然私の背後に淡い光が現れた。
「…!人魂…!?」
しかし背後にいたのはそのようなオカルトチックなものではなく、見覚えのある半妖の男であった。
「ゲンヨウ、お前…こんなところで何してるんだ…懐中電灯はおろか松明も焚かずに…」
「天野クラマ…!なんだお前か…本当にどこにでも現れるな…俺は暗視の妖術があるから、明かりはいらないんだ」
「…そうか」
天野クラマは不愛想に返事をする。
「それより、今度は何を企んでるんだ?もしかしてお前も妖刀を…?」
「あ?妖刀?なんだそれ…俺はただ葛木殿の遺品を整理しに来ただけだが…」
「葛木…って、この日記を書いた人じゃ…」
そう言って私は天野クラマにさっきまで読んでいた日記を見せる。
「なんだと!?貸せ!」
天野クラマは私から強引に日記を奪い取ると、食らいつくように隅から隅まで読み始めた。
「…なるほどな…ほぼ毎日記録が取られている…妖刀、鬼丸国綱…葛木殿はここでこのようなことを…」
「…なあ…そろそろ教えてくれてもいいんじゃないか?お前とその葛木ってやつは、どういう関係なんだよ」
「…簡単に言えば、葛木殿は俺の先祖みたいなものだ。遠い昔に葛木殿とその息子がかわしていた約束を俺は果たしに来た。それだけだ」
「それが遺品回収…?それだけ…?だとしても、ここに来るにあたってお前が妖刀のことを知らないのは不自然だろ」
「そういうことは父上に言ってくれ。この妖刀は恐らくうちの機密情報だ。…ん?待て、じゃあなんでお前が知ってるんだ…?」
「私は、覚…いや、元をたどれば津多か…いや、その知り合いの霊媒師…?とにかく、知り合いの知り合いが提供してくれたんだ」
それを聞くと天野クラマは急にこわばった表情で震え、拳を握りしめた。
「…まずいな…どこから漏れたのか知らないが、鬼丸国綱の存在が世に知られれば必ず混乱を引き起こすことになる。早く回収しなければ…!」
「ああ。天野クラマ、ここはいったん協力関係を結ぼう。鬼丸国綱をこの場所から奪取する」
「…いいだろう。まだいろいろ時になるところはあるが、一旦は妖刀のことを優先した方がよさそうだ」
かくして私たちは一時協力関係を結び、妖刀・鬼丸国綱を奪取することとなった。私たちはその後細い道を体をよじりながらなんとか進んでいった。そしてしばらくすると、先ほどまでいた場所の何倍も開けた空間が現れた。
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