第20話 【閑話】メリーさんと座敷童:覚が座敷童に振り回された時の話(2)
覚さんはもしかしてと思って、その墨汁を掛け軸に塗ってみた。するとそこには大きく、『フデヲツカッテフスマヲカタガワダケアケル』って書いてあったそう。一瞬どういうことか戸惑った覚さんだったけど、覚さんは物理的に筆を使って一つの襖の片側だけを開けて部屋をまたいだ。するとそこは確かに今までいた部屋とは違う部屋だった。まぁ和室には変わりないんだけど、今度は仏壇が置かれてたみたい。そのあと覚さんがこれまで通り探索してみると、奇妙な木製の何かが置かれていた。よく観察すると、底の方に小さく『コケシ』って書いてあった。
「こけし…?…あ、この形どこかで見たことがあると思ったらこけしですか。…一応持っていくとしましょう」
覚さんはこけしをかばんにしまって、今度は仏壇の引き出しを開けてみた。そしたらそこには、古くなった口紅とマッチが入ってたんだって。
「なんでしょう、これ…マッチはわかるとして口紅って…あれ?」
覚さんがふと襖の一つに目をやると、そこには小さく何かの俳句のようなものが書かれていた。そしてそれを見てようやく覚さんはこのマッチと口紅の意味を知ることになるの。
「来ぬ人をまつほの浦の夕なぎに…この俳句…いや、見た感じ短歌のようですね。…あ、もしかしてこれ、百人一首の九十七番目の句の上の句じゃないですか?最近やってなかったのですぐには出てきませんでした。ということは、恐らくこの上の句の横に下の句を書けばいいのですね」
どうやらその俳句、いや短歌は、百人一首にある短歌の上の句だったみたいなの。覚さんは襖に書かれた上の句の横に、この短歌の下の句を口紅で書いた。でもそれだけでは足りない気がしたみたい。
「うーん…一応書いてみましたけど、このマッチは結局何だったんでしょう…そう言えば口紅って油分が含まれているので可燃性があるんでしたっけ。…え、そういうことですか?…ええい!どうなったって知ったことじゃありません!燃えてしまいなさい!」
覚さんはマッチを使って書いた文字に火をつけた。すると不思議なことに火は燃え広がらず、文字だけが燃え上がったの。次の瞬間、目の前の襖は消えてなくなって、次の部屋に続く道が出来た。次の部屋には、大量のこけしが飾られた三段の棚と一緒に、禍々しい妖力を放つ石があったんだって。ちなみにこの石はわらしだよ。
「この石…すごい妖力を感じます。恐らくこれが座敷童…つまり、この部屋が最終ステージになるわけですね」
覚さんは辺りを隈なく探索したけど、この部屋には大量のこけしと石化したわらし以外何もなかった。だから覚さんは目の前のこけし一体一体を慎重に観察してみることにしたみたいなんだけど、そしたら中段の右端の方にこけしがちょうど一体入りそうなスペースがぽっかり空いていたんだって。そして覚さんはここに入るものに見当がついていた。
「ここ…一つだけこけしが欠けてる…多分ここにさっきのこけしを入れるんですよね」
覚さんは早速そのスペースにこけしを入れてみた。でも何も反応はなかった。
「あれ…?違うのかな…でも絶対このこけしを置くはずなんだけど…このこけしと他のこけしの違うところ…あ、もしかして、顔と服?」
覚さんは、このこけしには絵が描かれてないから駄目なんじゃないかって考えた。そこでさっきの筆と墨、それに口紅を使ってこけしを完成させていった。覚さんが言うには壊滅的な出来栄えだったみたいだよ。
「…よし、出来た。あなたの顔を想像して描いてみたのですが…これでどうでしょう」
覚さんはこけしを棚に置いた。すると周りのこけしはすべて消滅して、わらしも元の姿に戻ることが出来たの。
「怨念領域が…閉じた、のでしょうか…あ、座敷童も!」
「…ん?わらし寝てた?…あなたは誰?」
「私は覚。あなたを助けに来ましたよ」
それからわらしは覚さんと一緒に封天寺で暮らすことになったの。なんだかんだでここも悪くないかもね。
……
「で、今に至るわけなんだけど、少し退屈な話になっちゃったかな」
「まぁ、いろいろ大変だったことはわかったわよ。それで、これを私に話して、あなたはあなたの何を私に伝えたかったのよ」
メリーは退屈そうな表情で頬杖を突きながら座敷童を見る。
「いや、わらしが伝えたかったのはわらしの苦痛とかそういうのじゃないよ。わらしは、助けてもらったわらしの罪悪感を伝えたかったの。もしあなたが本当に暴走したならわらしたちは全力で助けるけど、同時にすごく心配になるの。暴走した妖魔は放っておくと甚大な被害を出すとともに、最終的にその妖魔は魂が壊れて二度と輪廻転生できなくなってしまう。だから、赤の他人にそんな心配をかけて、命の危険にまでさらしたことにわらしのような妖魔は少し罪悪感を感じているんだ。だからあんな嘘はわらしからするとあまりお勧め出来ない」
座敷童は厳しい表情でメリーの目を見て言った。それにメリーは一瞬目を合わせるとすぐに目をそらして深くため息をついた。
「…わかったわよ。悪かったわ。あなたのような妖魔の気持ちを考えてなかった。…あ、そうだ、私っていつここから出られるの?」
「え?」
メリーの問いかけに対して座敷童は突然気持ち悪いくらい満面の笑みを浮かべて答えた。
「覚さんが言うにはね、無期懲役、場合によっては終身刑も考えてるってよ!」
「…は!?無期懲役!?終身刑!?って、終身刑の場合私死なないから永遠にこの牢屋に閉じ込められてなきゃいけないってことじゃないの!?」
メリーは立ち上がってわかりやすく動揺した。
「えっとね、もう一つ覚さんが言ってたことがあるんだけど、今後一切わらしに手を出さず、どんな命令でも聞いてこの寺で雑用をこなすのであれば、無期懲役で許してあげるってよ」
「あのクソ女…!…分かったわよ!働く!ずっとこの牢屋の中で引きこもってるなんて出来ないわ!」
「よろしい。…では明日から刑務作業頑張ってねー♪」
後日、私たちが玉藻前を連れて帰宅すると、座敷童を背中に背負って雑巾がけをするメリーの姿があった。座敷童はあぐらをかいて高笑いをしながらポテトチップスを頬張っている。
「はははは!どうしたスピードが落ちたぞー!?もっと早く動くのだー!」
「このクソガキー!!…っなんでこうなるのーーーーー!!」
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