第19話 【閑話】メリーさんと座敷童:覚が座敷童に振り回された時の話(1)
時を戻して私たちが殺生石のもとへ向かっていたころ、封天寺の地下では座敷童と一人の苛立った表情の少女が、鉄格子越しに椅子に座って向かい合っていた。
「…何の用?」
「別に。わらしはただあなたとお話ししたいなって思っただけ。
そう言って座敷童は退屈そうな表情を浮かべる。
「…そう…怒ってないの?」
「あー…んまぁ、怒ってないって言えば嘘になるかな…一時的とはいえあなたのせいでわらしと覚さんの仲が悪くなっちゃったんだから」
「じゃあ、私のことを拷問しにでもきたわけ?今私はろくに抵抗するような気力もないから好き放題できるけど」
「そんなことしないよ。わらしはただ…わらし同様暇そうなメリーさんに世間話でもしてあげようかと思って。わらしが将門の怨念で暴走した時の話…本当に暴走してしまった妖魔の話…聞く?」
「…いや…って言おうとしたけど、やっぱり聞かせてもらおうかしら。私だって知った方がいいでしょう?」
座敷童が無表情で問いかけると、メリーは暗い表情で下を向いて答えた。そして静かに座敷童が話し始めるのを待った。
「わかった。話すね…あれはそう、たいしょー様がここに来る何週間か前のこと…」
……
もともとわらしは、ここからずっと離れた北の地にある廃屋に住んでたんだ。その家の主は妖魔が見える人間で、とても良くしてくれたの。居心地も良くて…だからその主が死んだ後もその家でずっと暮らしてたんだけど、ある日突然体中の妖力が弾け飛ぶような感覚に襲われて、気付いたら暴走してた。ここからは覚さんに聞いた話なんだけどね。…わらしを暴走から解放してくれた時の話…
「…ここですね、津多さんが教えてくれた廃屋…かなり古いみたいですけど、どれくらい人が住んでないんでしょう…入ってみますか…」
覚さんが廃屋の中に入ると、玄関はわらしが思ってたよりもずっとぼろぼろだったみたい。覚さんはそのあと、腐れかけた床が崩れ落ちないように慎重に進んで、なんとか座敷までたどり着いたんだけど…
「何なんですか、これ…部屋が…無限に…?」
座敷の襖はわらしの怨念領域の入り口だったみたいでね…小棚と壺と掛け軸がある一見普通の部屋なんだけど、入り口も含めて三つあるどの襖を開けても今いる部屋に繋がって出られなくなってたんだって。
「どうしましょう、完全に閉じ込められてしまいました…あ、でもこういうのって脱出ゲームで見たことがあります。確か部屋の中で謎を解き明かすんでしたよね。今回のターゲットは座敷童…子供の妖魔なので遊ぶのも好きかもしれません」
…なぜだか脱出ゲームのようにとらえてしまった覚さんは部屋の中を隈なく探索し始めた。まぁ実際この行動が正しかったんだけどね。怨念領域を脱出ゲームと履き違えるあたり覚さんらしいというか…
「この壺は…何もない…この掛け軸は…あら?この掛け軸、なんか変…?」
探索の中で掛け軸に違和感を覚えた覚さんは、目を凝らしてよく絵を見てみた。そしたら、その絵は所々くぼみが出来ていることに気付いたの。他にも何かあるかもしれないと思った覚さんが掛け軸をめくってみると、案の定掛け軸の裏の壁には穴が開いていて、その中には墨汁と筆が入っていた。
「これは…もしかして…」
覚さんはもしかしてと思って、その墨汁を掛け軸に塗ってみた。するとそこには大きく、『フデヲツカッテフスマヲカタガワダケアケル』って書いてあったそう。一瞬どういうことか戸惑った覚さんだったけど、覚さんは物理的に筆を使って一つの襖の片側だけを開けて部屋をまたいだ。するとそこは確かに今までいた部屋とは違う部屋だった。
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