第21話 八尺様に振り回される話(1)
季節はめぐり夏のとある暑い日、私たちのもとに一通の手紙が届いた。その内容は、数日前に奇妙な人影を見てから、ずっと何かの視線を感じているというものだった。今回はそんな依頼主を護衛してほしいという。
「ゲンヨウさん、どうかされたんですか?」
「ああ、覚。さっき森の外にあるポストを確認したら、こんな手紙が入っていてな」
「…これは…なるほど、確かに妖魔が関わっている可能性が高いですね。それと、なんとなくなんですけど急いだほうがいいような気がします。すぐに出発しますよ」
「おい、待て覚。封筒をよく見たか?相手の住所東北だぞ。飛行機で東京に行ってそこから新幹線…時間も費用もかなり掛かるぞ」
「ああ、それならご心配なく」
覚はにやりと不敵な笑みを浮かべ、部屋の隅にあった大きな鏡を持ってきた。つい先日覚がどこからか持ってきたものだ。
「これ、何かわかりますか?」
「その鏡がどうかしたのか?…ふむ、このタイミングで鏡となると…さてはそれ、雲外鏡だろ。まだ意識は残ってるのか?」
「はい、その通り雲外鏡です。この間はちゃんと説明していませんでしたけど、この方はこの間たまたま骨董品屋で見つけたんです。多分意識もまだ残ってるんじゃないですかね…」
雲外鏡…映したものの正体を映したり、空間を操ったりと何かと出来ることの多い付喪神の一種だ。一般的には私と同じ妖怪として扱われている。
「…おーい、聞こえるか?空間転移をしたいんだが…」
しばらく待っていると、突然鏡の中にそこそこいい年をした男の顔が現れ、ゆっくりとした声でしゃべりだした。
「ここは…あなたたちは、一体…吾輩は今まで何を…」
「雲外鏡さん、お久しぶりです。私です、覚です」
雲外鏡はしばらく考え込んだ後、はっとした表情を浮かべてにこやかに話し始めた。
「…おお、覚か!いや、二百年ぶりくらいかの。近頃調子はどうだ」
「まぁ、ぼちぼちといったところです。実は最近になって平将門が復活してしまって、今はそこにいるゲンヨウさんやわらし…座敷童、などと協力して暴走した妖魔を解放する仕事をしているんですよ」
「将門…まさかあの怨霊が…うむ、大方事情はわかった。それで?吾輩の力を借りたいのであろう?いいぞ、何をすればいい」
「私たちを…えっと、少し待ってください」
覚はスマホの地図アプリで依頼主の住所を打ち込み、その場所の風景を雲外鏡に見せた。
「ここに転送して欲しいんです。出来ますか?」
「おう、お安い御用だ。任せておけ」
次の瞬間、突然雲外鏡が光りだしたかと思うと、鏡の向こう側に先ほど地図アプリで見た光景が映しだされた。
「さぁ、行くといい。健闘を祈る。帰るときはこの鏡を使ってくれ。この鏡には吾輩の妖力が込められているが故、呼びかけてくれれば吾輩の意識をこの鏡に映すことが出来る」
「はい、ありがとうございます。…ゲンヨウさん、行きましょう」
「…ああ」
私たちは帰還用の鏡を受け取り、雲外鏡の中に飛び込んだ。その向こう側には、確かに先ほど見た景色が広がっていた。
「本当に一瞬で着いてしまった…こんな奴がいるんなら最初から使ってくれ」
「無茶言わないでください。雲外鏡さんは私だってついこの間までどこにいるのかわからなくなっていたんです。本当はずっとこうしたかったんですけど…そんなことより、依頼主のもとへ行かないとです。…確か手紙にこの辺だって書いてたはず…」
しばらく歩くと、田園風景の隅に大きな屋敷が見えてきた。立派な門に広い庭、依頼主はかなりの名家の出らしい。
「立派な家…インターホンを押すのもためらってしまいますね。まぁ押しますけど…」
覚がインターホンを押すと、重厚な音がした後に少ししてから奥から一人の少年が出てきた。見た感じ高校生くらいだろうか。
「はい。どちら様でしょうか」
「依頼を出したのはお前か?私たちは妖魔解放戦線の者だ。身辺警護をしてほしいと聞いて来たのだが」
私の言葉を聞いて少年ははっとしたような表情を浮かべた。
「あ、あなたたちが妖魔解放戦線の…!意外と早かったですね。どうぞ上がってください」
私たちは少年に案内され、屋敷の中へと入った。
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