第30話 【閑話】妖刀・鬼丸国綱(2)

 私と天野クラマは一時協力関係を結び、妖刀・鬼丸国綱を奪取することとなった。私たちはその後細い道を体をよじりながらなんとか進んでいった。そしてしばらくすると、先ほどまでいた場所の何倍も開けた空間が現れた。その中央には明らかに意味ありげな小さな祠が一つある。



「ゲンヨウ…あの祠…」


「ああ、恐らくあれだろうな…いや、それよりも…」



そう、私はあの祠に見覚えがあった。この祠は私の旧友である早太郎とその一族が何よりも大事にしていたものだ。どうやらそれ以前は天野クラマの先祖が管理していたらしい。



(何百年の時を経て…ようやくお前の憂いを晴らせそうだ…ここにある妖刀は、私が何とかする)



「ん?どうかしたのか?」



天野クラマは不思議そうな顔でこちらをうかがってくる。



「…いや、ただこの祠は私にも無関係じゃなくなったって話だ」


「…そうか…なら早いこと…」



そう言って天野クラマが祠に近づいた時、突然祠は赤く光りだし、地面の大きな揺れと共に強い妖力を放つ全身に赤い鎧をまとった鬼のような姿をした何かが姿を現した。



「…これは…!」


「これが葛木殿の手記に書かれていた鬼…恐らく妖刀が生み出した精霊のようなものだろう。こいつは手強い…ゲンヨウ、いけるか?」


「当然だ。ここまで来て引くわけにはいかない!」



私は妖力で練りあげた刀を、天野クラマは槍を取り出し、同時に精霊に飛びかかった。



妖迅風ようじんぷう飛来ひらい!」


八重雷やえいかずち!」



私の鋭い風の妖術と天野クラマの宙を舞う花のような雷の妖術が精霊に降り注がれた。精霊は直前まで何もする様子がなかったが、一瞬ぴくりと体が動いたかと思うと、次の瞬間にはその場から姿を消していた。



「消えた…!?」


「気を付けろゲンヨウ。どこから来るか分からない…」


辺りには異様な空気が立ち込める。何もいないはずの空間から誰かが見ているかのような気配がしてくる。そしてその気配は次第にまとわりつくように私たちを包み込み、それが最高潮に達したと同時に私たちの目の前には刀を振り下ろす精霊が姿を現した。



(…!?見えなかった…まずい…!)


死影断しえいだん!」



刃先が私に当たるすんでのところで天野クラマは凄まじい速さで精霊の刀を跳ねのけた。



「何してるんだ!気を抜けば死ぬぞ!」


「ああ、助かった。…さて、そろそろ反撃と行こうか…こいつが強い妖力を放ってくれているおかげで、俺の妖刀の邪気は中和されている。この場だけならこいつも使えるわけだ」



私は背中に背負っていた将門の太刀を木箱から出し、柄を妖力で練り上げた。元々放っていた邪悪な気配は精霊の強力な妖力に押しつぶされ、最適化されている。



「ゲンヨウ…それは…」


「将門の太刀の一部だ。いろいろあって手に入れた。今度話してやるから、今は見ていてくれ」



私は剣先をゆっくりと精霊の方へ向ける。



幽羅倶ユウラク



私がそう唱えると、剣先から妖力が無数の触手のように伸び一瞬にして精霊を拘束した。



 「邪流じゃりゅう覇竜旋はりゅうせん赦露シャロ!」



 私は間髪入れずに精霊に近づき、脳天から妖術で八つ裂きにした。



 「…これが…将門の力なのか…?」



 天野クラマはそう言って唾を飲む。



 「将門の本当の力はこんなもんじゃない。私はこの身で経験したんだ。あれは別格の強さだった…」


 「それはいいとして、精霊は倒したわけだし、早速ブツを拝見するとしようか…」



 天野クラマはそっと祠の扉を開ける。随分手入れされてなかったせいか、ぎしぎしと音をたてていて今にも崩れ落ちそうである。そうして中から現れたのは、異様な気配を放つ一本の刀だった。祠の様子とは裏腹にこちらはなぜか新品同然の輝きをしている。



 「これが…鬼丸国綱…えっと、どうする…?」


 「どうするって…ああ、そういうことか…俺がここに来た目的は、先祖である葛木殿の気品を回収するためだ。当然この刀も例外ではない…だが、この刀は葛木殿を殺した。そんなものを持って帰っても、縁起が悪いだのなんだの言われて結局どこかに置いてくる羽目になるに違いない。だからこいつは好きにしろ」


 「え、いいのか?」


 「ああ、ただし条件がある。その刀を、どうか大切にしてほしい。葛木殿が守り抜いていたものが、誰かを傷つけることが無いように」


 「…ああ、任せろ。私が必ず葛木の意思を守ってみせる」



 私のその言葉を聞くと、天野クラマは安堵した表情を浮かべ、そっと元来た道を戻っていった。



 「…ゲンヨウ、その刀、鬼丸国綱は、天下五剣に数えられる名刀だ。天下五剣は表向きには現存するものとされているが、博物館にあるもののすべてが偽物だ。俺が知る限り、五本すべてが何者かの手に渡っている。その一本はこうしてここで守られていたわけだが、残り四本はどうなったのかわかっていない。妖刀は同じ妖刀に引かれ合うと聞く。妖刀を持つお前が、残りの天下五剣の動向を確認してみてはくれないか」


 「それは構わないが…なんでわざわざそんな…」


 「俺だって天下五剣のような名刀が悪用されてほしいとは思わない。妖刀が妖刀であり続けることに意味はないんだ」


 「お前もそういうこと思うんだな…ああ、わかった。機会があれば動向を調べてみよう」



 そうして私も天野クラマの後を追い元来た道を戻っていった。天下五剣…名前は聞いたことがある。様々な逸話が残されている五本の名刀だ。これからそれらの刀を集めてみてもいいかもしれない。

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妖魔のたいしょー様が現代文化に振り回される話 八泉タマ綺@YaizumiTamaki @tamagokunnanoda

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