第2話
【Episode 1-2:森でポーズしてステータス確認】
どうやら異世界?なのか何処かに飛ばされた様だがその環境は、彼が想像していた「勇者の冒険」のような輝かしいものではなかった。
だ。
先程とは音も、景色も空気もと、何もかも違う。肌に感じる蒸し暑さ。まるで熱帯雨林地域の雨季の日本の如く、湿度90%のような肌の不快感。
周囲は薄暗い森。木々が天高くそびえ立ち、その間からわずかに差し込む陽の光は、まるで夕暮れ時のように頼りない。
湿気が肌をべっとりと包み、土はぬかるんでいる。木の間から漂ってくるのは、新鮮な木の香りだけでなく、発酵したような何とも言えない植物臭と、湿った土の匂いだ。
そして――
「うっ、なんだこれ……」
耳元ではブーンという音が絶え間なく響き渡っている。
視界を横切るのは、目に見えない小さな虫たち。時折、奇妙に発光する虫がふわふわと漂い、その羽音が不気味に響く。
足元は足を取られるようなぬかるみ、靴が何度も軽く沈み込む。
鷹志は、湿った地面に座り込みながら心の中でため息をついた。
あまりにも現実感がない。ただただ、「異世界」感だけが漂っている。
体の変化など確認すると衣服は居残り残業中の格好である見慣れた汚らしい白衣。鏡の様な自身を確認する様なものもないがいつもの見慣れた手足である事から
残念ながらこの身は転生しても見た目はくたびれた中年らしい。どうせなら子供がよかった。お金持ちのイケメンな子供に転生して可愛い美少女の巨乳な女の子とイチャイチャな素敵な恋をして結婚したかった人生を望んでいた。
「……で、なんだっけ……ステータス、だっけ……?」
異世界っぽい森の中。
ブサイクな中年男が一人、ボロボロの白衣を着て、木に囲まれてつぶやいていた。
ふと、脳内に先程までこだましていたロリ女神(ロリ見た目)のお声を思いだす。
「あ、そうだ忘れてたー。能力確認したいときは、『ステータスオープン!』って、変なポーズしてね〜! えへっ!」
三島鷹志、41歳。
異世界転生1時間目。誰もいない森の中で、仕方なくそれをやった。
「ステッ……ステータスオープン!!」
バッ!!
両腕をクロスし、胸元で力強く開き――
その瞬間、目の前に青白いウィンドウが出現した。
⸻
【ステータス画面】
名前:ミシマ・タカシ(転生者)
年齢:41
種族:ヒト(外来種)
職業:見習い医療事務員
状態:腹やや出てる/髪の毛前線後退中/精神疲労中/性病(詳細不明)
称号:
• 女神に嫌われし者
• 社畜亡霊
•
転生特典:
1. 【汚れた白衣】
防御力:皆無。汚れによる臭性あり。耐久性G。胸ポケットに上司がゴミ箱代わりに押し込められ丸められた領収書と口紅のついたタバコの残骸が入っている。
2. 【電マ(医療用)】
攻撃用途には極めて不向き。やや柔らかい
3. 【ステータスオープン】
※発動には毎回ポーズが必要。周囲に人がいても容赦なし。キャンセル不可。
⸻
「……マジかよ、これが俺の能力か……」
目の前に表示されたステータスを見て、鷹志は頭を抱えた。
「電マ」とは、いったいどんなチート能力だ?
それと性病とはこれ如何に?女性との交わり合いなぞ41年生きてきて全くの皆無。そも性病には種類によるが生命の効きに直結するタイプもある。抗生物質なんて物がこの世界にあるのだろうか。割と心配になってくる。
そして、ステータス魔法もあの変なポーズ決めながらじゃないと使用不可だと。使っていく度にこれが快感に陥ったらどうしてくれようか。
人の多い街中でだと頭の可哀想な人と思われる事だろう。
他に何もないのか? ポケットを探るとくしゃくしゃに丸められた見知らぬ領収書と吸い終わったタバコの残骸が入っていた。上司様が突っ込んでくれたのだろう。どれも非常に香水が強く写った代物だ。
ため息をつきつつ、少なくとも今はこれが自分の力だと受け入れるしかない。
「……俺の運命、これで決まったな」
あまりにも冴えない謎な特典たちに、鷹志は顔をしかめた。
けれど、かすかに残るやや年のいった上司のキツめな香水の香りをポケットから感じると――
「……っふふひ……悪くない……」
と、ニヤついてしまった。
(※その表情は確かに気持ち悪かった)
一応特典の一つに電マと書いてあるではないか。電マ?なんだそれは。
地球の某アダルトなグッズなのかそれともただ単に肩などの筋肉をほぐす健康促進グッズなのかどっちなんだろう。
それともこの世界では電マという何かの魔法事象でも存在するのか。まぁ物は試しだ、此処は何処とも知れない鬱蒼とした森だ。周囲には誰もいない。状況を打開すべく今こそ試す時だ。
集中して心の中で出よ電マと称える。すると目の前に電マがポコんと現れた。あっさりとした参上ぷりな事であったので電マはぼとりと質量のある音をたてつつ地面に落ちた。すると落ちた衝撃でなのだろうスイッチが入ったのか途端その場は爽快な振動音に包まれた。
割と強力なタイプの様で振動で地面をガシガシと生きの良い魚な如く跳ねまくっている。かなりうるさい。壁の薄いアパートで使うと苦情待った無し。
やがて管理を承った不動産に連絡が行き他住民からの苦情と警告文のお手紙が届きやがてはご退去命令がくださる事だろう。
振動も大変力強くこんな物を股間当てよう物なら快楽よりも先に苦痛によって股間が壊れてしまうだろう。しかも頭頂部位がぼんやりと発光している。
キャンプなどのムードランプに最適な光り具合だ。これでキャンプの就寝時の癒し空間もばっちし。何て不快なアダルトグッズなのだろう。場違いにも程がある。
とりあえずけたたましい音を立てて目の前で賑やかにしている物を遠くに放り投げるが周囲が静かなので視界から消え失せても未だ遠くから甲高い振動音が聞こえる。
学校周辺等のJKの多い静かな住宅街で放したらどうなるのか少しだけ興味深い事象だ。夏休みの自由研究の題材にしたい。
とりあえず10個ほど電マを召喚してわかったのが少し時間を掛けて丁寧に念じると振動していない電マ。即座に召喚すると即席インスタントな振動電マとなった。Oh、no、まったくの役立たず。灯りのオンオフはなく共に光ったまま。
尚振動した電マは電源を切ろうにも躯体はツヤツヤとした白基調のボディで最近流行りのスイッチがツライチ設計のごとく表面には電源スイッチらしき突起なども無くオンオフボタンの表記も何処にあるかわからない為、と言うよりか自分が電マ自体をここまでまじまじと見るのも初めてである為か停め方が分からずしょうがなく先程に放った方向にまとめて放り投げる事にした。
周囲一帯に散らかして投げると周囲が振動音につつまれて気が狂ってしまうのではと考えた結果だ。
召喚時間がいちおうに微妙に異なっている為に振動音もバラバラで放った場は振動音がヴィヴヴィヴィヴヴヴヴィと共鳴して一種のバイブオーケストラ。とてもカオス。バイバーにはとても心地よい空間の事だろう。
とはいえどうしよう、神様から頂いたチート能力はどうやら電マとステータス魔法のみで他は何も無い。そう何も無い。
。
このまま異世界産小動物のタックルなど受けてポックリ逝ってしまわないよな。
今後の成長に期待したい所だが、下手したら41と言う年齢もあってか異世界一年生ながら、お先真っ暗。初っ端からナイフ使用のRTA以下のベリーハードモードだ。そも電マとは意味がわからない。なんで電マなんだよ。
童貞が異世界で電マなぞ持ってどうすれば良いのだろうか。こちとら異性と付き合った経験がないので使う相手も無いおろか使い所も使い道もまったくわからない。筋肉を癒すツールとして使わざる得ないかな
森の中をさまよいながら、鷹志は汗だくになっていた。
湿気と土の匂いが混ざり、白衣の内側はべったりと濡れている。虫は相変わらず鬱陶しく、頭皮を掻きむしりたくなるほど不快だった。
「こんなとこで何すればいいんだよ……食いもんもねぇし……腹減ったし……」
周囲を見回すが、何の手がかりもない。
とりあえず転生特典のステータスくらいは確認できたが、役に立つスキルは皆無。
汚い白衣と電マ、そして羞恥心を要求されるステータス確認ポーズだけ。情けなさと空腹が一緒になって、思考がどんよりしていた。
――そのときだった。
「……!」
茂みの奥からガサッ、と音がした。
本能的に身を引くと、背の低い影が草をかき分けて姿を現した。
緑色の肌、黄色く濁った目、鋭く裂けた大きめな口――
チャカチャカと音をたてて目の前の背丈より高い草むらから顔が凶悪かつ失礼ながら自分よりめっちゃブサイクな生き物が姿を現した。
コレは俗に言うゴブリンとか言う奴なのか。格好は服をつける習慣は無いとばかりな素裸でコーディネート。
唯一着用しているネックレスであろう首には彼のオシャレアイテムなのか何かの生き物の幾つもの頭蓋骨を紐で繋げたネックレスを着用。チャカチャカと音を立ててたのはコレだろう。
策士なのか剥き出した御自慢のご息子をお披露目。歩く度にボロロンボロロンと揺れる棒状の某とそれに付帯して垂れ下がるキンO Oがモロ見え。
下着の概念すらもないのだろう。メンズの性器なぞ見るのもごめんだ。自然と視線を上方向へ。
こちらの姿を見るやニヤニヤといやらしい顔つきだ。恐らくこちらの見た目が弱々しいカモの様な姿な為であろうか余裕がある標準だ。
手には既に何かをボコしたのだろうか、血の乾いてまもない少しぬらッと半ツヤな跡でドス黒く変色している。初犯じゃ無いだろうことから、この手の輩は相応に手が早いと思う。
こちとら木の棒すら所持はおろか手には石ころすら持ってない。暴力が支配する世界であれば自身は頭の弱い奴かあるいは自殺志願者か。
案の定ゴブリン?はぶっとい木の棍棒の様な物で殴りかかって来た。
襲ってくるのは想定内な為にすぐ様反転し逃げる為に全力で走り出す。
草むらをガサガサとかき分けての逃走は中々厳しく、丁度開けた広い場で直ぐに息が切れた。
「ぎゃびゃああ」
めっちゃ嬉しそうってか馬鹿にしている標準なのかわからないがブサ顔でも顔が笑顔極まりない。
想像よりも汚らしく、生臭い体臭が漂ってくる。生ゴミを一週間放置した臭いを100倍濃縮した臭いみたいだ。
汚らしい棍棒のような物をこちらに向けてジリジリと狙っている。
「おいおいおいおい、待て待て待て……!こっちは.....マッサージ器だぞ!?」
体力的にも敵いそうないからこの場は電マを投げつけてどうにかしのごう。出よ電マァ
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