第3話 魔術士は一日にしてならず Ⅱ
しかし、その国が火の雨に焼かれた日に彼は導きを捨てた。
試験日まで残り五日。アルター家、その裏山。
痛む腕を押さえ、アレイスターは荒い息を吐く。
辺りには木々や大きな
「出力は問題なし。構築、展開についてもクリア。となれば残る問題は_」
だらりと、左腕と左目から血を流す。ユリウスの肉体が術式の負荷についてこれていないのだ。
とはいえ、撃てただけでも幸運な話である。それも一度や二度ではなく数発も。これなら調整にも十分余裕があるだろう。
火、水、土、風の四大元素の術式についてもほぼ問題なく動作することが分かったが、正直どの術式も実践で足るほどのスペックかというとかなり怪しい。それに火の魔術に関してはどうやら使えないようだ。
前世でもそれは同じだった。おそらくユリウスと同じで自分もまた呪われているのだろうとアレイスターは考える。
だがそれは大した問題ではない。
無論試験の内容によっては一概にそうとは言えないが、<ショット>などのエーテル魔術が使用できれば魔術士同士の戦闘ではあまり困ることはない。
それに、まだ不完全とはいえ虚数魔術もある。これを完全に慣らせれば魔物との戦闘も問題ないだろう。
あくまで目的はあの紙束の解読であって
「...あの黒コートのこともあるからな」
かつての死。理由も目的も、男か女かさえもわからない存在。それが再び彼の前に現れる。そんなことを考え、そしてその考えを振り払うように首を横に振る。
「用心するに越したことはないが、あまり考えたくはない話だな」
もうすぐ日が暮れる。彼は荷物をまとめ山を下りる。
アルター家の領地から学院のある王都までは馬車で二日かかる。前日までには王都入りして
_同日夜。
食卓にはアレイスターとルイスの二人のみ。二人に特に会話はなく時折食器の音が響くのみだった。
_____.
ユリウス・アルター。ルイスにとって彼はかわいい弟であると同時に、
彼女とその兄、アレクシスは金色寄りの髪に紫系の瞳なのに対してユリウスは灰銀の髪に黄金にも似た琥珀の瞳をしている。
アレクシスとルイスはそれぞれ父または母によってこそいるものの、おおよそ二人の要素を受け継いでいるのに対して彼、ユリウスだけは母親の要素のみが反映されている。その髪もその瞳も、その顔立ちさえも。まるで生き写しかのように。
彼女には彼のその生誕の裏には何か後ろ暗いものが
生まれつき
それだけではなく、彼は時折何もない空間に話しかけたり、霊が見えるなどと言ってきたこともある。さらにはそのやせ細った体では想像できないほどの怪力で暴れたことも幾度かあった。
医者の話では精神的な疾患だろうという話だ。
これをアレイスターに相談してみたこともあったが_
「おそらく感覚器官の問題だろうな。俺もあまり詳しくはないから大部分は省くが、主に視覚と聴覚の異常によって本来認識できないものが認識できるときがあるそうだ。まあ、そういったやつらはその大体が死に近しい者だな」
_とのことだった。
確かにあの子は虚弱で、目を離したらすぐにでも消えてしまいそうなほど
手のかかる子ではあった。だがそれ以上に大切で、かわいい家族の一人だった。
あの日だってそうだ。あたいつもと変わらない日常が過ごせるものだと思っていた。
だからこそあの一言が
_____.
早朝。支度を終え、ルイスとアレイスターが馬車へと乗り込む。
いよいよ出立である。
ウィザード・リライヴ 八坂アオヰ @Aoiyasaka_222
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