異世界作家生活 2話

 鳥の鳴き声がする。

 頬を撫でる風が心地いい。

 天国っていいところだなあ…。


「うわっ人が行き倒れてる⁉︎」


 寝返りをうってまた眠ろうとすると、焦ったような声が聞こえた。


「ちょ、大丈夫ですか⁉︎ 俺の声聞こえてますか⁉︎」

「う、うるさい…」

「あよかった生きてる! て言うかその感じ、もしかして寝てた⁉︎」


 耳元で大きな声を出さないでほしい。ゆっくりと目を開けると、太陽の光に目を射られた。眩しい。何度か瞬きをして明るさに目を慣らしていると、ぬっと視界に誰かが入り込んできた。


「大丈夫ですか? なんでこんなところに……魔物に襲われてもおかしくないんですよ?」


 銀色の髪を風に遊ばせた少年の言葉を反芻する。


「……まもの?」

「? はい。この先の森は魔物の巣になっていて、村の人でも近付きませんし、旅の人にも近付かせません。そんなところで寝てるなんて、正気じゃないですよ!」

「……ここは、どこ?」

「え? もしかして旅人の方? ここはラジエル村ですけど……」


 ラジエル村?


「国的に言うと……?」

「国はエノク共和国です」


 どこそれ。


 聞いたことのない国の名前に頭が沸騰する。

 もしかしてここは、わたしの知る世界じゃないのだろうか。遠くに見える街は確かに、日本ではなさそうだ。しかし、かといってどこの国かと言われればわからない。見たことのない建物。そして、わたしの知る世界にはいない『魔物』という存在。そうすると、わたしは異世界転生をした、と言うことだろうか。


 少年は、そんなわたしの様子に何か気づいたようだった。


「もしかして、別の世界から来たんですか?」

「え?」

「十年くらい前に魔王討伐をした勇者様のメンバーにいたらしいです、異世界からの転生者」

「へ、へえ……」

「お姉さんもそう言う感じでしょう?」

「た、多分……」

「じゃあ家もないですね。とりあえずうち来てください!」


 こんなとんとん拍子で異世界転生が進むことってある?

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