第21話
控え室に戻り、数分だけ休憩した。そして、闘技場のステージに向かっている。
緊張からか心臓が皮膚から突き抜けるのではないかと思う程に強く脈を打っている。落ち着くんだ、俺。自分なら出来る。いや、自分達なら出来る。リリアが身体の中に居る。一人じゃない。仲間が居る。
「緊張してる?」
身体の中に居るリリアが訊ねて来た。
「うん。なんで、分かったの?」
「え、それはね……私も緊張してるから」
「……そっか。リリアも同じ気持ちなんだ」
「うん。まぁ、あと、ジェイムが無口になったのもあるかな」
「それはリリアも一緒だろ。何も話しかけて来なくなったくせに」
「うるさい……気を遣ってあげてたの」
リリアはちょっと怒りぎみで言った。
「ハハハ、冗談だよ、冗談」
つい、リリアの言葉に笑ってしまった。
「笑うって酷くない」
「ごめん、ごめん」
「本当にごめんって思ってる?」
「思ってるよ。思ってる」
「なら、いいんだけど」
なんだろう。リリアと居たら心が落ち着く。それに今さっきまで、もの凄く緊張していたのにいつの間にかリラックスしている。不思議な感じだ。
……もう少しでお別れか。ふと、思ってしまった。なぜか、リリアとはまだ一緒に居たい。そんな感情が心の中で芽生えている気がする。こんな気持ち初めてだ。こんな感情を普通なら何て言葉に表すんだろう。
……まぁ、今はそんな事を深く考えなくていいだろう。今は目の前の事だけに集中すればいい。
「絶対に妹さん助けよう」
「うん。ガルイ市長やエレンさんもね」
「そうだな」
ステージの入り口に着いた。入り口の近くには白い布が掛けられた檻を乗せた台車が置かれていた。
俺は白い布を剥がした。檻にはジャルト・デアボロの身体が入っていた。
ボーさんがここまで運んで来てくれたのだ。感謝の言葉しか浮かばない。
「……ボーさん」
「さすが。ボーさんだね」
「だな。次は俺達が頑張る番だ」
「うん。頑張ろう」
鉄格子の間からステージや観客席を見る。
ステージは綺麗に整備されている。観客席は試合開始時刻に近づくにつれ、ざわつきが大きくなっている。
「それでは決勝戦を始めさせていただきたいと思います」
アナウンスが会場中に響く。
「待ってました」
「早く始めろ」
観客席は異様な盛り上がり方をしている。
鉄格子が上がり、ステージに出れるようになった。
対戦相手側の鉄格子も同じように上がった。
「それでは選手紹介をしたいと思います。ガルイ・ホーキンス様の最強にして、最悪のファイター。リ・エンド選手です」
相手側の入り口からファイターが出てきた。
ファイターは甲冑のように様々な武器を身に纏っている。攻撃は最大の防御と言わんばかりだ。きっと、改造死体だろう。
「続きまして、パルヴァーファミリーのゴダル・フォー選手です」
俺はジャルト・デアボロの身体が入った檻に白い布を掛けた。そして、台車を押して、ステージに出た。
「なんだ、あれ」
「マジックでもするのか」
「決勝なんだからちゃんとやれ」
観客達がざわつき始める。
俺はエレンさんの身体に入っているジャルト・デアボロを見る。
ジャルト・デアボロは何食わぬ顔で居る。今から何が起こるかも知らずに。
「……お静かに」
俺は左手の人差し指を口に当てて言った。
先ほどまで騒いでいた観客達は静かになった。思った以上に事が上手く進んでいる。少し怖いぐらいに。
「今から面白いものを見せてあげましょう。行きますよ。3・2・1……」
0になったタイミングで白い布を取った。そして、檻の蓋を開けた。
「この檻の中に入っているのは剥がし屋ジャルト・デアボロの身体です。今からこの身体を消します。……そう、この世からね」
俺は観客に向けて言い放った。
「マジか、やれ」
「あのジャルト・デアボロか」
「楽しみが一つ増えたって事だな」
観客達は俺の思惑通りにざわつき出した。あとはジャルト・デアボロが怒り出す為に煽ってくれればいい。
「やれ、やれ、やれ」
観客の声が一つになって煽り出した。
煽れ。もっと、煽れ。ジャルト・デアボロを怒らせてくれ。
「やめろ」
エレンさんの身体に入っているジャルト・デアボロが叫んだ。
突然の事で観客達は静かになってしまった。
「貴様何をしようとしてるか分かっているのか」
「はい。分かってますよ。ほら、行きますよ」
俺はジャルト・デアボロの首を掴もうとした。
「やめろと言っているのが分からないのか」
怒号が聞こえた。そして、エレンさんが崩れ落ちた。きっと、ジャルト・デアボロがエレンさんの身体から出たのだろう。
俺はそれを瞬時に判断して、ジャルト・デアボロの身体から距離を取った。
「貴様、俺を怒らせたな」
ジャルト・デアボロは自分の身体に戻っている。
「ガルイ市長逃げてください。エレンさんの身体からジャルト・デアボロが出ました」
「分かった。これを君に」
ガルイ市長は俺に向かって小さい木箱を投げてきた。
俺はその木箱を受け取った。
「その木箱の中にはプシュケーの女の子の魂が入っている。その魂をもとの身体に戻してあげてくれ」
「分かりました」
ガルイ市長はエレンさんの身体を担いで、去って行った。
俺は木箱を開けて、目を閉じる。すると、身体の中に何かが入って来た。
「ありがとうございます。見知らぬ人」
優しい女性の声が聞こえる。きっと、ユリアさんだろう。
「どう致しまして」
俺は身体の中に居るユリアさんに向かって言った。
「ありがとう。ジェイム。やっと、妹に会えた」
リリアの嬉しそうだが震えた声が聞こえる。ずっと、必死に頑張って妹を探していたんだ。泣きそうになるのは仕方が無い。
「お姉ちゃん、久しぶり。ちゃんとご飯食べてる?」
「うん。いっぱい食べてる」
「それならよかった。私も早く自分の身体に戻ってご飯食べたい」
姉が姉なら妹も妹。天然だ。ベクトルは違うが。よくこの状況でこんな話が出来るな。それも人の身体の中で。
「お取り込み中申し訳ないんだけど、まずは目の前の奴を倒さないと」
「そうだった。ユリア、この人、ジェイムって言うの。いい人だから力貸してあげて。ユリアを助ける為に頑張ってくれたの」
「ジェイムさんですね。分かりました。まずはジャルト・デアボロを倒すって事ですね」
「話が早い」
俺はジャルト・デアボロに視線を送る。今の状態ならすぐに倒せるはずだ。裸だから自分を守ってくれる盾もない。
「よくもやってくれたな。お前はこの場で殺す。いや、お前らだな」
ジャルト・デアボロはリ・エンドの背中を手で貫いた。そして、身体の中から魂を取り出して、魂を喰らい始めた。
リ・エンドの身体はその場に崩れ落ちた。
「この魂はお気に入りだったんだがな。まぁ、いい」
ジャルト・デアボロの全身の筋肉が急に発達し出した。今さっきより、身体が大きくなっている。
「どう言う事だ」
「分からない。まず、魂を食べるなんて初めて聞いたよ」
身体の中に居るリリアは言った。
「お前らには地獄を見てもらわないとな」
ジャルト・デアボロはリ・エンドの身体を掴んで目を閉じた。すると、闇がジャルト・デアボロを包み込んだ。
……何が起こっているんだ。今から何が始まる。
ジャルト・デアボロを包み込んでいた闇が消えた。そして、リ・エンドの身に纏っていた様々な武器の鎧を装着しているジャルト・デアボロが現れた。
「そ、そんな」
「驚く事はないだろう。お前もプシュケー一族の力を使っているのだから」
威圧感が凄い。これが剥がし屋ジャルト・デアボロ。一筋縄ではいきそうにない。
「なんだ、あれは」
「こんな話聞いてないぞ」
「いや、この方が面白いんじゃないか」
観客達は騒ぎ始めた。
「……黙れ」
ジャルト・デアボロは観客席に掌を向けた。その瞬間、掌からビームのようなものが発射された。
ビームのようなものが観客達に当たった。
……消えた。跡形もなく消えた。人間がいとも簡単に。
「……噓だろ」
「た、助けてくれ」
「死にたくねぇ」
観客席に居た者達は混乱し出した。自分が助かる為に必死に逃げ惑う。前に居るものを殴ったり、銃で撃ったりしている。まさに地獄絵図だ。
「ははは、静かになんねぇな」
ジャルト・デアボロは高笑いをした。
どんな神経をしているのだ。こんな状況を見て、笑い出すなんて。狂っている。狂ってやがる。この男は。
「まぁ、いい。お前達を殺せるなら」
ジャルト・デアボロは俺を睨んだ。そして、次の瞬間。俺の身体が壁に打ち付けられていた。身体全身に激痛が走る。
何が起こったんだ。訳が分からない。
「これで死なないか。タフだな。すぐに死なれても楽しくないからいいか。お前らには苦痛を味わって死んでもらわないとな」
俺は壁に手を当てて、立ち上がった。今にも痛みで倒れそうだ。何本か骨は折れている。
「大丈夫、ジェイム」
「大丈夫ですか。ジェイムさん」
身体の中から二人の声が聞こえる。
「……大丈夫。なんとかね」
「早く、私達の力を使って」
俺は近くに転がっている壁の破片を掴んで、目を閉じた。そして、どんな攻撃でも防げる鎧をイメージした。
「……なんでだ」
壁の破片は変化せず、まだ手にある。どう言う事だ。今まではこれで変化していたのに。
「なんで変化しないの」
「分からないよ」
身体の中に居る二人も混乱している。
「……なんだ。そんな破片で戦おうってか?俺も舐められたもんだな」
ジャルト・デアボロが高速スピードでこちらに向かって来ている。
避けられない。どうする。どうすればいい。
俺は一か八かでもう一度、目を閉じて、どんな攻撃でも防げる鎧をイメージした。
「……あぁ……あぁ!」
今まで味わったことの無い衝撃が身体を襲う。
………………。
一瞬、気を失っていた。そして、意識が戻るにつれて痛みが全身を襲う。外からも中からも耐え難い痛みが俺を苦しめてくる。気を失っていた方が楽なぐらいだ。
ジャルト・デアボロは俺の胸ぐらを掴んで、身体を持ち上げていた。
殺される。足掻こうとしても、身体が動いてくれない。俺はここで死ぬのか。死にたくねぇよ。くそったれ。
「お、まだ意識があるのか。痛めがいがあるな」
ジャルト・デアボロは俺の身体を向かいの壁に投げた。
俺は受身も何も出来ずに壁に打ち付けられ、その場に倒れ込んだ。全身が痛いせいか今の壁の痛みが分からない。
「ジェイム、死なないで」
「ジェイムさん。死なないでください」
身体の中から二人の声が聞こえる。
「この一発で終わりだな」
ジャルト・デアボロが高速スピードで俺に向かって来ている。次の攻撃が直撃すれば俺は確実に死ぬ。
俺は負けを悟って、目を閉じた。
トムの事が脳裏を過ぎった。死んだら、トムはどうするんだ。トムはまた一人ぼっちになる。それだけは阻止しないと。でも、この状況で勝てる可能性なんてない。
……ごめんな、トム。お前が考えてくれた最強の剣と最強の盾があれば、ジャルト・デアボロなんて楽勝に倒せたのに。
「なんだ、こいつら」
ジャルト・デアボロの声が聞こえる。
……あれ、俺は死んでないのか。
俺はゆっくり目を開けた。
「主、ご無事か」
「我々がお守り致します」
「……お前達は」
目の前に居たのはトムが考えた剣と盾だった。剣と盾が俺を守ってくれている。
「少し休んでいてください。私がこやつと戦いますので」
剣は自身の身体を振って、ジャルト・デアボロを向かい側の壁へ吹き飛ばした。そして、そのままジャルト・デアボロの方へ向かった。
「どう言う事なんだ?」
俺は盾に訊ねた。
「主が我々の事を願ったからです」
「……願ったから?」
「はい。そうです」
意味が分からない。突然の事で理解が追いついていない。
「分かるか?」
俺は身体の中にいるリリアとユリアさんに聞いた。
「分かんない。私達の力は物質をイメージしたものに変える力のはずだから」
「…………」
ユリアさんは黙ったままだ。
「ユリアさんはどう思います?」
「……もしかしたら」
ユリアさんは何かを思い出したようだ。
「もしかしたら?」
「小さい頃におばちゃんから貰った本に書いていた事かもしれない」
「どんなことが書いていたんですか?」
「プシュケーの魂が二つ、健全なる魂と交われば願った事が具現化する。でも、そんな御伽話みたいな事って」
「たぶんそれです。だって、俺が剣と盾があればって願ったら、目の前に剣と盾が現れたんですから」
「凄い。そうだったら勝てるかも」
リリアは言った。
0%だった可能性が1パーセント、いや、それ以上になった。
「願えば具現化するって事だよな。じゃあ、試しに」
「何をするの」
「すぐに分かる」
俺は目を閉じて、怪我をしていない状態に戻ってほしいと願った。
痛みがどんどん引いていく感覚。いや、痛みなどなかったかのような感覚がする。
俺はゆっくり目を開けた。
「治ってる。いや、戻ってる方が正しいのか」
俺の身体は怪我一つない状態に戻っていた。凄い能力だ。
「すっご。やばい。最強じゃん」
「勝機が見えてきましたね」
二人の言うとおりだ。このままだったら勝てるかもしれない。
「なんだ。この剣は」
「主の為、貴様を切る」
剣はジャルト・デアボロの上半身を切った。鎧のように身に纏っている武器は使い物にならない状態になっている。
剣が切った部分からは血が噴出している。
ジャルト・デアボロは苦しそうに傷口を手で抑えている。
「……くそ。お前らにこれを使うとは」
ジャルト・デアボロは自身の身体を手で貫き、魂を取り出した。
「も、もしかして」
「もしかしてなんだ?」
俺はリリアに訊ねた。
「あいつ、魂のコーティングを剥がすかもしれない」
「そ、それって危険なやつだよな」
「うん。たぶん、危険な奴」
「お姉ちゃん、違うよ。100パーセント危険だよ」
ユリアさんがリリアの言葉を訂正した。頼むから、今この状況で天然を出さないでくれ。調子が狂う。
ジャルト・デアボロは手に持っている魂の表面を手で剥がし始めた。
「剣、戻って来い」
「承知」
剣は俺の元に戻って来た。
「これでOKだ」
ジャルト・デアボロは手に持っている魂を喰らった。すると、ジャルト・デアボロの身体から禍々しい妖気が溢れ出してきた。
禍々しい妖気は龍の形をしている。その禍々しい妖気は会場内に居る人間を見境もなく食べ始めた。
「助けてくれ」
「嫌だ、嫌だ」
また一人、また一人、食べられていく。
逃げ惑う人々の悲鳴が会場内に響き渡る。悲鳴が耳にこびりつきそうだ。
「愉快だ、愉快。叫べぇ」
禍々しい妖気達がジャルト・デアボロのもとへ集う。そして、ジャルト・デアボロを包んでいく。
「油断したら駄目よ」
「分かってる」
なにが起こるんだ。想像がつかない。唯一分かるのは危険な状況に置かれていると言う事。それだけははっきりしている。
ジャルト・デアボロを包んでいた妖気が消えた。
「……あーまだ食いたんねぇな」
ジャルト・デアボロは九つの首を持った巨大な龍に姿を変えた。
……声が出ない。化け物だ。化け物。この世界一危険な街・ヴァルトヘルトでもこんな化け物は見た事がない。
「俺をこの姿にさせたんだ。ちょっとは楽しませてくれよ」
ジャルト・デアボロは九つの口から火を吐いた。火は会場全てを包んでいく。
「主、私の後ろに居てください」
「ありがとう」
盾が俺の前に立って、火から俺を助けてくれている。でも、この火はいつまで続くんだ。盾のおかげで火の直撃を回避出来ても、時間が経てば脱水症状で死んでしまう。
「どうするの。このままだったら持たないよ」
「分かってる。でも、どうすれば」
「私のお任せを」
剣はジャルト・デアボロに向かって行った。そして、一つの首を切り落とした。
「痛ぇ。このやろう」
ジャルト・デアボロは痛みで悶えている。
悶えているせいで火が様々な方向に放たれている。
「次だ」
剣はジャルト・デアボロの首をもう一首切った。
「くそ。この鉄の塊が」
ジャルト・デアボロは火を吐くのを中断して、残っている首で剣を掴み、へし折った。
「……噓だろ」
ジャルト・デアボロはへし折った剣の残骸を俺の方へ飛ばしてきた。
「すみません。主」
へし折られた剣は言った。
「……そんな」
最強の剣がやられた。俺の為に。どうすればいい。
「よくも二本も首をやってくれたな」
ジャルト・デアボロは言った。剣が切り落とした首からは血が滴っている。地面には血だまりが出来ている。
会場内はジャルト・デアボロが吐いた火で火の海と化している。
戦う武器を失った俺はどう戦えばいい。素手であいつを倒せる気がしない。
「次はその盾だ」
ジャルト・デアボロは猛スピードでこちらに向かって来る。
「主、私が守ってみせます」
盾は俺に言った。
ジャルト・デアボロは盾の目の前で飛び跳ねた。そして、盾を踏み潰した。
「すみません。もう守れません」
ばらばらになった盾は俺に言葉をかける。
そんな。最強の盾までもやられた。やっぱり、俺はここで終わるのか。
「……これで終わりだな。どうする?命乞いをするか。そして、俺の手下になるか。いや、お前が手下は胸糞が悪いな。やっぱり、ここで死んでもらおう。死のカウントをしてやろう。10・9・8」
ジャルト・デアボロは俺が死ぬまでのカウントダウンを行っている。
もう終わりだ。ここで全て終わる。
「諦めちゃ駄目だよ。トムが家で待ってるんだよ」
リリアが必死に語りかけてきた。
……そうだ。トムが家で待ってるんだ。ちょっと待て。トムが言っていた武器はもう一種類あったはずだ。なんだ。思い出せ。
「7・6・5」
「ジェイム」
リリアが叫んだ。
「思い出した」
俺は目を閉じて、トムが言っていた最強の武器を願った。それは剣と盾が合体して出来るもの。最強の銃だ。
「4・3・2・1……これで終わりだ」
「ありがとう。リリア」
目を開けた。目の前には龍の形をした銃が具現化して、宙に浮いている。
俺は銃を掴み、引き金を引いた。
銃口から弾丸がジャルト・デアボロに向かって放たれる。
弾丸はジャルト・デアボロの身体を貫いて、向こう側の壁に当たった。
「な、なんだと」
ジャルト・デアボロは驚きを隠せないでいる。
「形勢逆転だ。次の一発で終わらせる」
「やめてくれ。あ、そうだ。俺と手を組まないか。そうすれば、一生楽しく暮らせるぞ。どうだ。悪い話じゃねぇだろ」
「……すまないな。家で大事な家族が待っているんだ」
俺はジャルト・デアボロに銃口を向けた。
「やめろって言ってるだろ」
ジャルト・デアボロが残っている首で、俺を叩き殺そうとしている。
「……終わりだ」
引き金を引いた。弾丸はジャルト・デアボロの身体を貫いた。
ジャルト・デアボロは俺の前で倒れ込み、絶命した。
……終わった。終わったんだ。これで依頼終了だ。色々な感情が沸いてくる。
「やった、倒した。やったね、ジェイム」
「お姉ちゃん、はしゃぎすぎ。でも、本当によかった」
身体の中でリリアとユリアさんが喜んでいるのが分かる。
「依頼終了だ」
突然、身体の力が全てなくなった。そして、その場に崩れ落ちた。
「ジェイム、大丈夫」
「ジェイムさん、しっかり」
リリアとユリアさんの声が聞こえる。けど、その声がどんどん離れていく。視界が暗くなっていく。どうなるんだ、俺は。
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