第14話

闘技場内に入った。中には大勢のマフィア達が居た。何人かはこの前の死体オークションに居た奴だ。

「おい、アヴァー。お前、そんな奴がファイターなのか」

 タキシードを着た男がアヴァーに近づいて来た。きっと、どこかのマフィアのボスなのだろう。そうじゃないと、マフィアのボスにこんなにフランクに接してくるはずがない。

「……気安く話かけてくるな」

「辛い事言うなよ。ベービー」

 タキシードを着た男はアヴァーの肩に腕を回して抱こうとした。

「触るな」

 アヴァーは手で男の手を払った。

「冷たいな。でも、本当にそんな男がファイターでいいのか。俺は心配だよ」

 この男、俺の事をかなり馬鹿にしてる。一発殴ってやろうか……いや、殴らない方がいい。アヴァーにも立場ってものがある。一応、依頼者だ。依頼者の顔を立てないと。

「……大丈夫だよ。この男が負けるはずがない」

「そうかい。自身ありげだね。じゃあ、賭けをしないかい?」

「……いいね。しようじゃないか」

 アヴァーはニヤリと笑った。

 ……何を賭けるんだ。て言うか、ちょっと、俺の同意はなしかよ。でも、ここで「ちょっと待ってください。俺の意思は」とか言っても無視されるだろう。仕方ない。何も言わないで、どんな賭けをするか聞こう。

「じゃあ、俺のファイターが勝ったら君を俺の妻にする。ないとは思うが、俺のファイターが君のファイターに負けたら、俺の全てを君にあげよう」

「……いいだろう」

「え?ちょっと待て下さい。ボス」

「そうですよ。それはやめてください」

「二人と同意見です」

 三人衆はアヴァーの発言に慌てふためている。

 ……おい、こいつら。俺が負けるの前提で言ってないか。お前らが俺に戦うように頼んで来たんだろ。ふざけるなよ。もし、ここが地上なら一発殴っているかもしれない。

「うるさいよ、あんたら」

 アヴァーが三人衆を睨む。

「すいません。ボス」

 三人衆はアヴァーに頭を下げた。俺にも頭を下げてもらいたい。

「ねぇ、アンタ。負けるわけないよね」

 アヴァーが俺に視線を送ってきた。

「えぇ。負けません」

「いいね。アンタのそう言うところ嫌いじゃない」

「どうするんだい?アヴァー」

「……賭けは乗るよ」

 アヴァーはタキシードの男に言った。

「じゃあ、賭けをするのは決定だ。あー早く、君のウエディング姿を見たいね」

「……言ってろ」

「じゃあね。また」

 タキシードの男は上機嫌で去って行った。

「絶対に負けるなよ」

「そうだ、そうだ」

「二人と同意見」

 三人衆が俺に詰め寄ってくる。

「……勝つよ」

 本当にこいつらは……まぁ、いいや。結果を残せばいいんだ。そうすれば何も言わなくなるだろう。強い者だけが生き残る街・ヴァルトヘルトなんだから。

「それじゃ、ここで一度お別れだ。観客席でアンタの勇姿を見届けてやるよ」

「……あぁ」

 俺はアヴァー達と別れて、ファイターの控え室に向かう。

 

 黒服の男に案内されて、控え室の前に着いた。

 周りを見ると、似たような部屋が数部屋ある。憶測だが、一選手一部屋なのだろう。

「時間になったら呼びに来るので、それまでこちらで待機を」

「了解」

「では」

 黒服の男は去って行った。

 俺はドアを開けて、控え室の中に入った。部屋の壁面には鏡が備え付けられており、部屋中央にはテーブルが置かれている。テーブルの上には水が入ったペットボトルや食べ物がある。

 テーブルを囲うように椅子が4足置かれている。

 憶測通り、個室だった。これだったら、リリアと会話しても怪しまれない。気が少しは楽になる。

 俺は椅子に腰掛けた。

「よかったね。個室で」

 身体の中に居るリリアが話しかけてきた。

「そうだな。これで何も気にせず会話出来る」

「あのさ。エレンさんの事とかも気になるんだけどさ。まず、この大会で優勝しないといけないでしょ。どう戦う?」

 リリアは聞いてきた。

「……うーん、ちょっと待って考える」

「わかった」

 リリアの能力を使うのは前提だけど、いきなり武器とかが出てきたら怪しまれるかもしれない。何だったら変化させても怪しまれない……

「……靴」

「靴?」

「あぁ、靴だ。靴をドゥーフさせる。何でも破壊出来る靴に。それだったら、周りにも怪しまれない」

「……た、たしかにそれはいいかもしれない」

「じゃあ、それで決定だ」 

「……負けないでね」

 身体の中に居るリリアは心配そうに言った。

「負けないよ。絶対に」

 俺は力強く言った。リリアの心配をかき消す為に。

「うん。ごめん。変な心配した」

「いいよ。一緒に頑張ろう」

「うん。頑張ろう」


 数分が経った。ドアをノックする音が聞こえる。

「はい」

「ジェイム・フォークス。時間だ」

「了解」

 俺は椅子から立ち上がり、ドアを開けて、廊下に出た。

「では、こちらへ」

 黒服の男に案内され、ステージに向かう。

 緊張はあまりない。目的が決まってるからだ。優勝。勝てばいいんだ。勝てば。

 ある程度、歩くと鉄格子の前に辿り着いた。

 鉄格子の間からステージが見える。ステージの奥にはここと同じように鉄格子が付いた入り口が何個か見える。きっと、それぞれの入り口にファイターが居るに違いない。

 ステージを見下ろすような作りの観客席も見える。大勢のマフィア達が座っている。

「ここで待機お願いします。後もう少しで、こちらのモニターでガルイ様がルール説明などされるのでご覧ください」

 黒服の男は壁面に設置されているモニターを見るように促してきた。

「了解」

「では、検討を祈ります」

「どうも」

 黒服の男は去って行った。

「もう少しだね」

 身体の中に居るリリアが話しかけてきた。

「そうだな。じゃあ、今のうちにドゥーフしとこっか」

「そうだね」

 俺は目を閉じた。そして、靴がどんなものでも破壊出来る靴をイメージした。

「……ドゥーフ成功だよ。目を開けてみて」

「わかった」

 俺はリリアの指示通り、目を開けた。

 靴は全く姿が変わっていない。普段と変わらない。

「あれ、変わったのか」

「うん。変わったよ。見た目が変わったら目立つでしょ」

「……たしかに」

「大丈夫。戦えば分かるから」

「……わかった」

 だいぶ不安だ。でも、リリアが大丈夫と言っているんだ。信じるしかない。

 壁面に設置されているモニターの電源が突然付いた。モニターにはガルイ市長の姿が映っている。

「本日お集まりの皆さん。お集まりいただきありがとうございます」

 モニターに映るガルイ市長が話し始めた。

「待ってました」

「今日はどんな楽しい戦いを見せてくれるんだ」

 観客席の方からは醜い人間の声や拍手が聞こえる。金を持っている奴らの下劣な道楽。その為にどれだけの者が犠牲になっているか。本当ならこいつらを殴ってやりたい。でも、それをしたら他の犠牲が生まれる。だから、今は我慢するしかない。我慢するしかないんだ。

「温かい声援やお言葉ありがとうございます。いきなりですが、本日の戦いのルール説明をしたいと思います。本日の戦いのルールはバトルロワイヤル。トーナメント制ではなく全てのファイターにステージ上で一斉に戦ってもらい最後に残った一人が優勝者とします。それ以外のルールはございません」

 モニターに映るガルイ市長は言った。

「最高なルールだ」

「負けたら許さねぇからな。俺が雇ったファイター」

 観客席に居るマフィア達が沸く。それはあまりにも下品な歓声だった。

 ……どっちなんだ。今さっきまではエレンさんがジャルト・デアボロだと思っていた。しかし、これを見ると、ガルイ市長がジャルト・デアボロにも見える。このガルイ市長の姿を見て、

エレンさんがあんな風に変わったとも考える事が出来る。

「そして、優勝者には景品が三つあります。一つ目は賞金1億ドル。二つ目は明後日、私の家の地下で行う大会に参加する権利。そして、三つ目は他者の身体に乗り移る事が出来るプシュケー一族の娘の身体です」

「……あのプシュケー一族の身体か」

「賞金で買った改造死体で使った金も回収出来るな」

 観客席から様々な声が飛び交っている。

「……絶対に勝とうね」

 身体の中に居るリリアが力強く言った。当たり前だ。こんな奴らに妹さんの身体を渡してたまるもんか。

「勝つさ」

「……うん」

「それでは時間も惜しいので、早速大会を始めたいと思います。ゲートオープン」

 目の前の鉄格子が上がり、ステージに出れるようになった。他のファイター達も同じように

ステージに出れる状態になっている。

「ファイターの皆さん、ステージに出てください」

 ガルイ市長の一声で、ファイター達が続々とステージに現れていく。

 ……絶対に優勝する。負けのイメージは絶対に考えない。勝つことだけをイメージする。勝つ。それが俺に与えられた使命。

「行くぞ。リリア」

「……うん。行こう」

 俺はステージに出た。ステージには大勢のファイターが居る。ざっと、30人近くは居るだろう。ファイターは俺と同じように生身の人間や身体の一部を改造した者やなにかしらの魂を入れられた改造死体が居る。改造死体だけは今にでも暴れそうな状態だ。

「それでは大会を始めさせていただきます。レディーゴウ」

 ガルイ市長の一声で俺以外のファイター達が動き始めた。

 観客席からは歓声が聞こえてくる。

 ……なんだか、負ける気がしない。集中出来ている感じがする。

 正面から両手に刀を持ち、鉄の鎧を身に纏ったファイターがこちらに向かって来ている。

「なに、突っ立ているんだ。このやろう」

 ファイターは右手で持っている刀を俺に振り下ろして来る。殺気に満ち溢れているが、動きが遅く見える。なんとなくだが、刀の軌道が分かる。

 俺は最小限の動きで、刀を避けた。

「よ、避けただと」

 ファイターは攻撃を避けられた事に動揺している。

 俺は靴の威力がどれほどのものになっているか試す為にファイターの鎧を蹴ることにした。もし、これで自分の思う威力ではなかったらまたイメージを再考しないといけない。

 俺はファイターの鎧を蹴った。

「……え、マジで」

 三割程の威力で蹴ったつもりだった。だが。ファイターの鎧は木っ端微塵に崩れ、ファイターはそのまま壁に飛んで行った。ファイターが当たった壁には大型のひびが入っている。

 ファイターは壁に当たった後、倒れて、気絶している。

 ……た、たしかになんでも破壊出来る靴をイメージしたつもりだったが、これほどの威力とは。もうちょっと、易しめにイメージしてもよかったかもしれない。いや、それは駄目だ。相手に失礼だ。これで戦うしかない。

「凄いでしょう」

 身体の中に居るリリアが得意げに言った。

「うん、凄い」

 リリアが敵じゃなくて本当に良かった。

「なんだ、あいつ」

「蹴り一発で鎧を破壊したぞ」

「どこのファミリーのファイターだ」

 観客達が驚いている。ちょっと、目立ち過ぎたかもしれない。

「……目立っちゃったねぇ。どうする?」

 身体の中に居るリリアが聞いてくる。

 ……もう、この状況になったらやる事は一つしかない。

「とことん目立とう」

「そうこなくちゃ」

 俺は深呼吸をした。そして、周りに居るファイター達の位置を確認する。

 ……5分。5分あれば全員倒せる。今の状態なら。

 俺は周りに居るファイターの方に向かった。

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