第4話
トイレを出て、オークション会場を探していた。
「ようやく始まるな」
「そうね。今日はどんなものが見れるのかしら」
「2体は絶対に買うからな」
「私は3体だ」
大勢の声が聞こえる。
俺は声のする方へ向かった。すると、さっき見た黒いスーツと露出の多い服を着た女達が居た。そいつらは、全員同じ方向に進んでいた。
こいつらについて行ったら、オークション会場に着く。絶対にそうだ。
俺は黒いスーツを着た男と露出の多い服を着た女達のあとを追った。
――ある程度進むと大きな扉があった。扉付近には、黒いスーツを着た大柄の男が立っていた。男はサングラスをしていて何処を見ているか分からない。
「サバシア・レナルドとナタリー・レナルドだ」
女を連れた男は、大柄の男に言った。
「どうぞ」
大柄の男はドアを開けた。ドアの先には多くの観客席が並んでおり、その奥にはステージがあった。
ビンゴ。思った通りだった。ここがオークション会場で間違いない。
俺はドア前まで進んで、立ち止まる。
「お名前を」
大柄の男が訊ねてくる。
「カルロス・ボンズだ」
このスーツの所有者の名前だ。実在する名前。きっと、大丈夫だ。
「……………」
「どうした?」
あれ?もしかして、ここの従業員だったのか。
「……カルロス・ボンズ様ですね。失礼しました。どうぞ」
心臓が飛び出るかと思った。変な間を作るな。
オークション会場に入った。観客席には大勢の男と女達が座っていた。
俺は緊急出口付近の席に座った。いつでも、逃げられるように。
突然、明かりが消えた。そして、すぐにステージ上だけライトで照らされた。ステージ上にはタキシードを着た男が立っていた。
「どうも、司会のモリアです。いきなりですが、オークションを始めたいのですがよろしいでしょうか?」
モリアが観客席に座っている者達に言う。
「おう。早く始めろ」
「早くしなさいよ」
観客席に座っている者達がモリアに向かって言葉を吐いている。
「では始めさせていただきます。まず、最初はこちら」
舞台袖から透明なケースに入った改造死体が現れる。
「快楽殺人鬼エドガー・スミスを改造した作品。キマイラ。100万ドルから始めたいと思います」
エドガー・スミスと言えば突然姿を消した殺人鬼の一人だ。やはり、死体オークションと失踪事件は関係がある。
エドガー・スミスの身体は改造されていた。頭にはトナカイの角が二本移植され、両肩にライオンの顔が付けられている。胴体はクロコダイルの皮膚、尾骨からはアナコンダの尻尾が生えており、下半身は鉄でコーティングされている。
「250万ドル」
「280万ドル」
競りが始まった。観客席に座っている男達が次々と落札額言っていく。
「300万ドル」
「1000万ドル」
会場が静かになった。これ以上の額は出せないと言うかのように。
「……1000万ドルでよろしいですか?」
観客席から返答がない。誰もうんともすんとも言わない。これで決まりだろう。
「落札決まりました。リカードファミリーのハン様がお買い上げになります」
落札者以外の者達が、落札者に向かって、拍手をした。
俺は拍手をしたくなかったが、怪しまれるのが嫌で仕方なく拍手をした。
「では、次の商品にいきたいと思います」
舞台袖から新しい競売品が出てきた。
「地下異種格闘技のチャンピオン、ゴンザレー・ドントを改造した作品。阿修羅。800万ドルから始めます」
ゴンザレー・ドントと言えば、街で知らない者は居ないと言われる程有名な格闘家だ。全ての格闘技に精通し、人間性もこの街なら上位だろう。彼も1ヶ月前から行方不明だった。
ゴンザレー・ドントの姿は格闘家と言う職業を愚弄しているかのような姿だった。肩から二本、脇腹から二本腕が移植されている。元からある腕二本と合わせて、6本の腕。さらに腕全てが金属でコーティングされている。胴体はダイヤモンド。足はチータの足。生身の肉体で、戦っていた彼の尊厳全てが踏みにじられているようだ。
ここに居るものを全て殴り飛ばしたい。そして、死体を改造した者達を一生出れない牢にぶち込んで、地獄よりきつい罪を背負わせてやりたい。このオークションは全ての面において、超えてはいけないラインを簡単に超えている。
「1200万ドル」
「2000万ドル」
「2500万ドル」
競りが始まった。ここに居る者達には良心がないのか。なぜ、こんなに楽しんでいるのだ。分からない。分かりたくもない。
「4200万ドル」
「5000万ドル」
勢いが止まった。これで決まりのはずだ。俺にはそんな事どうだっていい。早く、ゴンザレー・ドントの死体を見えない所に持って行ってほしい。じゃないと、今にも横に座っている奴を殴ってしまう。
「8000万ドル」
一人の男が言った。会場はざわつき始めた。最初の額から10倍の額が付いたからのはず。
「8000万ドル。8000万ドルで決定です。ザインファミリーのバンケット様がお買い上げになります」
司会のモリアが興奮気味に言う。観客席のざわつきは拍手に変わった。
俺は拍手をしない事にした。怪しまれてもいい。拍手だけはしてはいけない。偉大な格闘家ゴンザレー・ドントの栄光と名誉の為に。
「続いての商品は……」
突然、爆発音が鳴った。それも、一度ではなく、二度、三度と。
「爆発だと」
「誰か助けて」
「ここのセキュリティはどうなってるんだ」
会場内が混乱している。あれだけ、他人の命を踏みにじった奴らが、自分達の命を守ろうと必死だ。滑稽に見えてしまう。
俺は緊急出口のドアを開けて、中に入った。中には地上に出れると思われる階段があった。
「ちょっと、君。大丈夫」
階段の傍に青い髪の女性が倒れていた。服装は会場内に居た者とは違い露出はない。嫌な雰囲気もしない。
「……意識がない」
助けないと。このままにしていたら、どうなるか分からない。
俺は女性を背負い、階段を上り、ドアを開けた。やはり、地上に繋がっていた。
「え、ちょっと待って」
背後から声が聞こえる。けれど、立ち止まっている暇なんてない。早くこの女性を手当てしないと。
外に出ると、マネキンが大量に落ちていた。きっと、廃棄用のマネキンだろう。なんて、勿体無い事を。
俺は自宅に向かって、走る。周りからは変な視線を向けられているような気がする。いや、向けられているのだ。だって、スーツを着た男など、この町にはあまり居ない。それに女性を背負っている。見ないほうがおかしい。
「なんで、マネキンが走ってるんだ」
「ホラーだ。逃げろ」
後方から悲鳴が聞こえてくる。
俺は悲鳴を生み出してるものを確認する為に、少しだけ振り向いた。すると、マネキンが猛スピードで走っていた。それも、こちらに向かって来ている。
ヤバイ。ホラーだ。夢を見ているのか。
俺は怖くなり、走る速度を上げた。
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