第2話
ヴァルトヘルトの治安は最悪。ルールはなく無秩序。法律は意味をなさない。毎日、犯罪が多発している。弱い者は強い者に駆逐される。絵に描いた弱肉強食の世界である。
道の両脇には店が何件も建っている。その殆どの店が法外な値段の商品や法律で禁止されている物が当たり前のように売られている。
「おい、兄ちゃん。買っていけよ」
「その背中の女を売ってくれよ」
店先に立っている商人達が言ってくる。自分たちの利益しか考えていないような酷い人間達だ。いや、人間ではない。人間の皮を被った悪魔だ。
俺は店員達を睨みつけた。
「わ、悪い」
「睨むなよ。冗談じゃねぇか」
店員達は怖気づいている。自分の命が惜しいのだろう。情けない奴らだ。
走っていると、前方に男三人組が現れた。風貌からして、チンピラだろう。
俺の行き先を通せんぼしている。
「おい、お前止まれ」
中央に立っている筋肉質の男が絡んできた。きっと、こいつがリーダーだろう。
はっきり言って面倒だ。相手をしている暇などない。
俺は無視して、通り過ぎようとした。
「へいへい、待てよ。兄ちゃん。無視はないだろ」
「そうだ、そうだ。」
ひょろ長とぽっちゃりが俺の前を塞いだ。明らかに挑発しているのが分かる。
俺は立ち止まった。
「おい、金とその女を置いていけよ。命が惜しかったならな」
筋肉質の男が俺の髪を引っ張って、脅してくる。
こんな所で喧嘩を買う暇などない。リリアを早く安全な所に連れて行ってやりたい。
「おい、なんか言えよ」
「そうだ。そうだ。言ってみろ」
ひょろ長とぽっちゃりが煽ってくる。
「…………」
どうするべきか。どうしたら、こいつらを怪我させずにこの場をやり過ごせるか。
「おい、黙ってないでなんか言ってみろよ」
筋肉質の男が俺の腹を一発殴った。痛みは殆ど感じない。いや、痒いぐらいだ。
俺はこの一発で決めた。怪我をさせてもいいと。
「……怪我しても、文句言うなよ」
「はぁ、何だって」
俺は筋肉質の男の腹を蹴った。男は吹っ飛んで、近くの店の壁にぶつかる。男がぶつかった店の壁にはヒビが入ってしまった。力はかなり抜いたんだが。
「おい、なんだ。何が起こったんだ。見えなかったぞ」
「だよな。見えなかった。何なんだ。こいつ」
ひょろ長とぽっちゃりは驚いている。
「……探偵兼人形造形師だ」
「探偵兼人形造形師?」
「……もしかして、お前ってジェイム・フォークスか」
ぽっちゃりが言った。
「正解」
「有名なのか。こいつ」
「有名だよ、有名。捕まえた犯人を人形にして、コレクションにしているって噂の人形造形師ジェイム・フォークスだ」
「……そんな異名で通っているんだ。俺の名前」
なんだが、落ち込む。全然嬉しくない異名だ。イメージがかなり違う方向に飛躍している気がする。俺は捕まえた犯人を人形にはしない、と言うかできない。それに探偵は人を捕まえる事は出来ない。捕まえるのは警察の仕事だ。
「どうするよ」
「戦った方がいいのか。アニキの為に」
ひょろ長とぽっちゃりを蹴り飛ばした。二人は筋肉質の男と同様に吹っ飛んで、店の壁にぶつかった。二人は気を失って、口から泡を吹き出している。ちょっと、やりすぎてしまったか。筋肉質の男よりも力を抜いたんだが。
「……痛ぇ」
筋肉質の男は立ち上がった。しかし、見るからにして、今にも倒れそうになっている。
俺は筋肉質の男に駆け寄った。
「まだやるか。結果は見えてるぞ」
「……ちくしょう」
筋肉質の男はその場に崩れ落ちた。敗北宣言と言っていいだろう。
「頼みたい事があるんだけどいいかな」
「な、なんだよ」
「店の弁償代は君達が払ってね。じゃあ」
俺はその場をあとにした。自宅に戻る為に。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます