第18話

博物館の前に着いた。博物館の壁は至る所破壊されており、入り口付近ではH&Dコーポレーションの人やランソの会社の人達が倒れている。

 ……何かがあったんだ。何か恐ろしい事が。

「……何よ、これ」

 ランソはただ呆然としている。当たり前の反応だ。俺たちが居ない数分の間にこんな事になっているなんて信じられない。

「テルロ……くん」

 倒れているH&Dコーポレーションの人が俺を呼んだ。

 俺は倒れているH&Dコーポレーションの人に駆け寄った。

「何があったんですか?」

「黒い羽の……天使が……突然現れたんだ」

 H&Dコーポレーションの人は声を必死に搾り出している。

「黒い羽の天使?」

 ……あ、覚え出したぞ。二刀流で、中年男性が話してた噂。あの噂は本当だったんだ。

「……そして……ミロナの人形と……ソウル・エッグ……を」

「ミロナとソウル・エッグをどうしたんですか?」

「……盗んで……どこかへ……飛んで……行った……」

 H&Dコーポレーションの人の身体の力が抜けた。

「だ、大丈夫ですか」

 急いで、H&Dコーポレーションの人の左胸に手を当てる。心臓は動いている。どうやら、意識を失ったようだ。

「シュトラとランソはここに居る人の状態確認。あと、全員治療が必要なはず。救護班の要請を。そして、もうすぐしたら野次馬が来ると思うからその対応をする為にそれぞれの会社に連絡を頼む」

「言われなくてもそのつもりよ」

「了解しました」

 ランソとシュトラは行動を始めた。

「アーサー、俺達は中に入るぞ」

「承知しました」

 俺とアーサーは博物館の中に入る。館内は凄惨な光景が広がっていた。H&Dコーポレーションの人やランソの会社の人達が怪我を負ったり、血を流して倒れている。展示物も殆どのモノが破壊されている。

「まずはどうしますか?」

「地下に行こう。事実確認の為に」

「はい。行きましょう」

 俺とアーサーは関係者通路に入り、階段を降りて、地下へ降りた。

「……噓だろ。おい」

 ……なんだよ、これは。上の階も酷かったが、この階はそれ以上だ。盗むだけならこんなに荒らさない。意図的に破壊している。何かに対する怒りを感じる。

「やはりソウル・エッグがありませんね」

 アーサーは冷静に状況判断している。

「そ、そうだな」

 たしかにミロナの漆黒のソウル・エッグが置かれていた場所には何もない。でも、どうやって運んだんだ。表面に触れたら火傷する。重さもかなりある。火傷対策した大人数人がかりでようやく運べるものだぞ。それをどうやって1人で運んだ?説明出来ない。

「金庫室へ行きますか」

「あぁ、行こう」

 ムゲンとクイが手も足も出ないなんて想像できない。あの二人を同時に倒せる奴は今この街には居ない。でも、上の階で聞いた話ならそれが現実に起こっている。確かめないと。

 俺とアーサーは走って、金庫室に向かう。

「お、おい。大丈夫か二人とも」

 金庫室の前で身体中に傷を負ったムゲンとクイが倒れている。

「私はクイ殿を見ます」

 アーサーはクイに駆け寄り、無事を確認している。

「分かった。俺はムゲンを見る」

 ムゲンの腕の脈を確かめる。……大丈夫だ。ちゃんと脈を打っている。

「クイ殿は大丈夫です」

「こっちも大丈夫だ。あとはこっちに向かっているはずの救護班に頼もう」

「了解です」

「それにしても、これをどうやって」

 金庫室の鉄扉は破壊されている。どんな化け物なんだ。この鉄扉はどんな破壊力のある武器でも傷一つつかない強度だし、耐火性能もある。……誰か説明してくれよ。

「説明できませんね」

「……それにミロナの人形がない」

 金庫室の中を見た。部屋中央にあったはずのミロナの人形の姿が見えない。

「中に入って確認しますか」

「そうだな。入ってみよう」

 俺とアーサーは金庫室の中に入る。

「ミネルさん?」

 部屋の端でミネルさんが倒れていた。なんで、この人がここに居るんだ。

「俺はミネルさんを見る。アーサーはミロナの人形を探してくれ」

「了解しました」

 アーサーはミロナの人形を探し始めた。

「ミネルさん、大丈夫ですか」

 俺はミネルさんに駆け寄り、脈を測る。……脈はある。生きている。よかった無事で。

「う、うぅ」

 ミネルさんが意識を取り戻した。

「だ、大丈夫ですか?」

「……あぁ……私は大丈夫だ……だが、ミロナが黒い羽の女に盗まれた」

 黒い羽の女?……天使か。

「……そうですか」

「あぁ……私の全てが……今まで築いてきた信頼が……全てなくなった。もう、終わりだ。

もう何もかも終わりだ」

 ミネルさんがうな垂れている。

「そんな事ないですよ」

「お、お前に何が分かる。お前達のせいだ。お前達の会社のミスだ。お前らの会社を潰してやる。私から全てを奪ったお前らの会社をなぁ」

 ミネルさんは激昂して俺を突き飛ばした。そして、自分の力で立ち上がり、ふらふらとした足取りで、金庫室から出て行った。

「……えぇ」

 何かも飲み込めない。なぜ、俺達がここまで言われないといけない。それにミネルさん

がこの部屋に居た理由はなんだ。今、俺は何をすればいい。……分からない。いや、頭がパニックになって考える余裕がない。

「だ、大丈夫ですか」

 アーサーが駆け寄ってくる。

「あぁ、大丈夫だ」

「あれがあの人の本性なんでしょうか?」

「分からない。でも、まずは母さん達に報告しよう。やらないといけない事がたくさんある」

「そうですね。それが正しい判断だと思います」

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