第19話
H&Dコーポレーション、社長室。
俺とシュトラとランソとアーサーは母さんに今日起こった事を報告していた。
「……そう。全てわかったわ」
「ごめんなさい。社長……いや、母さん。俺達が博物館から離れなかったら」
「謝らなくていい。貴方達はちゃんと任務を全うしたわ。黒い羽の天使はイレギュラーだったのよ。予想なんて出来なかった」
母さんは優しく言った。
「でも……ミネルさんが会社を潰すって」
「……そうね。けど、大丈夫よ。うちの社員とランソちゃんの会社の人達全員ね」
母さんは気丈に振舞っている。会社がなくなるかもしれないのに。それは俺達の事を思って無理してくれているのだろう。
「……おば様」
「もう帰っていいわ。これからの事は連絡するから」
「……分かりました」
俺達はドアを開けて、部屋を出た。
これからどうなるんだろう。会社が潰れれば社員さん達の収入がなくなる。それにもし、
会社が潰れなかったとしても、今回の件で悪評がつく。そうしたら、仕事がなくなっていく。結局、潰れるのと同じだ。
シュトラには先に帰ってもらった。
俺はアンティークショップ・クレイに向かっていた。
夜風がやけに冷たく感じる。それは今の自分の心が落ち込んでいる事を証明しているかのようだ。
店に着いたら、おっちゃんに謝らないと。ソウル・エッグが盗まれたからオルゴールが必要ないと。
足取りが重い。あとたった10メートルぐらいの距離なのに果てしなく遠く思える。
俺は立ち止まり、夜空を見た。
夜空では星達が輝いている。温かそうだな。実際には触れる事はできないけど。俺はそう思った。でも、ミネルさんの飛行船が視界に入り、残酷な現実を思い知らせてくる。
俺は嫌な気持ちを振り払うように走って、アンティークショップ・クレイに向かう。
店の前に着いた。ドアには本日閉店と書かれた看板が張られている。でも、店内は明かりが点っている。きっと、おっちゃんは中にいるはずだ。
俺は深呼吸をして、息を整える。そして、ドアを開けて、中に入った。
「……おっちゃん」
「テルロか。いいところに来たな。オルゴールの修理が終わったぞ」
レジカウンターの前の椅子に腰掛けているおっちゃんが言った。レジカウンターの上には修理を頼んだオルゴールが置かれている。
「……あの、その事なんだけどさ」
「音聞いてみるか」
おっちゃんはオルゴールの蓋を開いた。
オルゴールが優しい音色を奏でる。優しい音色は今の俺に対しては辛く感じる。
「どうだ?いい音色だろ」
「…………」
何もいえない。情けないな、俺は。
「うん?どうした?この世の終わりみたいな顔をして」
「……ごめん、おっちゃん。そのオルゴール必要なくなったんだ」
「必要なくなった?どう言う事だ?」
「ミロナのソウル・エッグが盗まれた。それにそのせいで会社がなくなるかもしれないんだ」
「……お前は何もしないのか?」
おっちゃんは普段では考えられない真剣な表情で言った。
「え?どう言う事?」
「何もせずに全てを受け入れるのか?」
「……それは」
「今出来る事を全部やったのか。落ち込むのはそれからにしろ」
「……おっちゃん」
おっちゃんの言うとおりだ。俺は何もせずに全てを受け入れようとしていた。もがかないと。周りにどんな風に思われても。それに自分でいつも言ってたじゃないか。未来より今できる事をするって。
「そうじゃないと、わしの努力が報われんだろ」
「え、おっちゃん?」
「冗談だよ」
おっちゃんは笑って言った。
「もう。おっちゃん」
「怒るなよ」
「怒らないよ。でも、ありがとう。おっちゃん」
おっちゃんのおかげで目が覚めた。今、出来る事をやるんだ。それが未来に繋がるはず。
「おう。ラルカちゃんの為にも頑張ってくれや」
「うん。頑張るよ。オルゴールもらっていくよ。修理ありがとう」
おっちゃんは頷いた。
俺はレジカウンターの上のオルゴールを手に取り、ドアを開けた。
「じゃあ、行って来る」
「行ってこい」
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