09
「久しぶりに私の登場だよ」
「うん、いこっか」
「服とか可愛い小物とか、今日はとにかく見て回るつもりだからそのつもりでね」
止めてこなかったから一応は誘ってみたけど東は参加することを選ばなかった。
私と毬ちゃんで遊びにいくだけだから空気を読んだりしなくてもいいのに頑なに受け入れなかったから少し複雑だったりもしたものの、もう切り替えるしかない。
「うーん、だけどびびっとくる服がないなあ」
「冬用はもうあるもんね」
まだ着られるのに頻繁に買って帰る人はお金持ちだ。
よれよれとか恥ずかしい状態でもなければ周りの目なんか気にせずに着続ければいい。
そうすれば愛着も湧いてくるものだろう。
「うん、あと夏の物に比べてそう劣化したりもしないから変える必要がないのもあるんだよね」
「はは、その冬に覗きに来ておいてそれを言うの?」
「人間、非効率的なことをしたくなるものなのです」
それは確かにそうだ。
お金も用もないけどちょっと見てみる、なんてことを繰り返して生きている。
ただ、そういうときに限っていい物を見つけてぐぬぬとなることも多かった。
だから目の前にいい物があるのに離れなくて済むようにしっかりお金は貯めておけよと自分に言いたい。
「服を見るのはやめにしてなにか食べよう」
「がっつりいく?」
それでもこういうときは仕方がない、友達といるときにけちけちしすぎるのも問題だ。
まだ言葉で刺されたことはないけど付き合いが悪いと誘われなくなるかもしれないから合わせておくのが一番だった。
「クレープとかソフトクリームとかそういう軽い感じでいいかな」
「任せるよ」
「それならソフトクレープで」
「はは、毬ちゃんならどっちも狙うと思ったよ」
ま、まあ、これだという服を見つけて買ってしまうよりかは安いからオーケー。
約千二百円程失ってしまったけど美味しいから気にしないようにしよう。
「な、なんてことなの……二つも食べてしまったことでお腹がいっぱいになってしまったわ……」
「私達のお腹じゃ大体そんな感じだよね」
「これじゃあ映画を観ようとしたところで気づけばエンドロールになってしまっているところが容易に想像できるわっ」
「私、一回だけそうなったことがあるよ、地味にするから損した気分になるんだよね」
自業自得だとしてもそう考えてしまうものなのだ、うん。
「はは、こうなったら学人さんを呼ぶしかないね」
なんで?
よくわかっていない内に彼女が学人を呼び出し、そして学人もあっという間に来てしまった。
「るのが弱っているって言われて慌てて来たけど……大丈夫そうだね?」
「うん、私のお財布以外は元気だよ」
「よかった……」
「ちょ、流石に大袈裟すぎない? 毬ちゃんも『るのちゃんが死んじゃう!』みたいなメッセージでも送ったの?」
「ううん、ちょっと微妙そうなんだって送っただけだよ?」
うーん、心配してくれるのはありがたいけど少し恥ずかしくなってくるぐらいだ。
「はいはい、ここでやっていると迷惑になっちゃうからとりあえず――」
「座れるところがあるから座らせてもらおっか」
「休憩もできるから丁度いいね」
今日は休日でも混んでいないから三人でそれなりの時間座っていても迷惑にはならない。
ただ限度はあるからまあニ十分ぐらいでどこかにいこうとは考えているけど。
「ほら落ち着いて、私なら大丈夫だからさ」
「うん」
「よし、学人は普通にしていればいいんだから」
よかった、本当になにもないのに過剰に不安になられてもこちらがそうなってしまうから。
「ありゃりゃ、るのちゃんのためを思ってしたのにるのちゃんが支える側になっちゃっているね」
「僕らなんか基本的にこれだよ、るのがいつも僕に優しくしてくれるんだ」
まだ駄目だったらしい。
なんでここで「そうだよ、るのには僕がいないと駄目なんだ」などと乗っかっていけないのか。
それこそどこの世界の私なのと聞きたくなるような内容ばかりで付いていけなくなる。
「違うよ、そりゃたまにはできているかもしれないけど基本は学人が優しいだけなの」
「ははは、仲良しだねえ」
はぁ、毬ちゃんがいたからいいものの、そうでもなければここで延々平行線になっていたところだった。
頑なに認めようとしないところが気に入らない。
「んーお兄ちゃんが参加しなかったからだけどこれだと仲間外れにしている感じがするよね」
「毬ちゃんがどうしてもと誘えば来てくれるんじゃない?」
「いや、るのちゃんがそうやって頼んでみて」
朝、目の前でそうしたのに振られた人間がここにいるわけだけど……。
とはいえ、恥ずかしい気持ちにはならないし、なにより私も気になるから学人のことを出して誘ってみた。
そうしたら、
「よう、わかりやすいところにいてくれてよかったぜ」
すぐに来てくれて助かったのにやっぱり男の子に負けて複雑な状態になった私がここにいる。
「そんな顔をするなよ、朝とは違って学人がいるからとかじゃないぞ」
「どうだか」
「それよりこれからどうするんだ? もうなにか食べているみたいだから飲食系の店にはいかないだろうけどさ」
「冗談でもなんでもなくこの状態で映画でも観ようものなら寝ちゃうだろうから……鬼ごっこでもしよっか」
「「「はい?」」」
数分後、私達はそれなりに大きい公園にいた。
着替えているとかそういうこともないから運動には向かない服装だけど鬼ごっこはガチでやるみたいだった。
「じゃんけん、ぽん!」
「僕が鬼か。じゃあみんなは逃げて」
こうなったらやるしかない。
大人しく捕まりたくなんかはないからちょっと真剣に逃げ始める。
「なあるの、朝の俺は空気を読んだつもりだったんだ、なのにどうしてこんなことになったんだ?」
「ちょ、いま一応鬼ごっこの途中なんだけど」
でも、あの二人はどうかは知らないけど東の方はその気になれないみたいだった。
参加した途端に暖かい屋内から出て公園で遊ぶことになったのなら熱が入らないのも無理はないかもしれない。
「そもそも毬の相手をしてくれるのは嬉しいけどいまは学人と仲を深めないと駄目なところだろ」
「学人とはちゃんとやるよ」
母からは影響を受けたけど誰かからなにかを言われたからわかりやすく変えたりなんかはしない、その相手がずっと昔から一緒にいる幼馴染の東でもそうだ。
「ま、そっちは余計なお世話か。ただなあ」
「はは、東はシスコンのお兄ちゃんみたいだね」
「るのは毬と同じぐらい心配になる」
「それじゃあ安心してよお兄ちゃん」
「おおっ、るのちゃんがお兄ちゃんに対して頑張っても面白かったかもしれないね!」
なし、とかではなかったのか。
私はてっきり、東のことを取られたくないからだと思っていたけどそうではなかったらしい。
まあ、毬ちゃんの本当のところがわかろうと本人の中に全く気持ちがないわけだから一方通行で終わっていたか。
「ちょ、そっち方面で頑張られると困るからやめてほしいかな」
「「「うわ!? 逃げろー!」」」
みんなのやる気がなさすぎた。
結局、話がしたいからとかなんとかで鬼ごっこをやめて学人の家に移動することになった。
「折り紙か、鶴でも折るかな」
「それなら私は手裏剣を作るよ、それでお兄ちゃんにぶつけるー」
「はは、俺の鶴が守ってくれるから大丈夫だ」
折り紙ガチ勢達は放っておいてとりあえず寝室の掃除をしている学人のところにいく。
「なんで急に掃除?」
普段からやっていることを知っているから尚更気になった。
ここで暮らしているわけだから多少はなにかが落ちていたって気にしなくていいと思う。
私の部屋だって掃除が甘くてなにかしら落ちているだろうからね。
「ああ、もしみんなが泊まったらこっちで寝ることもあるだろうからさ」
「じゃあ私がここで寝るー」
慌ててほしくない私だけどたまにあの反応が気持ちよく感じるときもある。
だからこれはからかいたくて言っている状態で、いやまあ真っすぐに受け止められても困るわけではないとしても「いいよ、ベッドだってちゃんと奇麗にしてあるから」と返されて少し固まってしまった。
「いやいや、そのときは床で学人と寝るよ」
固まったことが恥ずかしくて重ねていっても「たまにはいいかもね」と。
私が彼に求めているそのままになっていっているのに悔しいし、恥ずかしかった。
「学人がいいならベッドでもいいけど!?」
「うん、だから奇麗にしてあるから問題ないよ」
もういい、やるだけ損だ……。
「はぁ……東も学人と寝たいよね」
「流石に借りるわけにもいかないし、床で寝ると寒いから私はお兄ちゃんをお布団みたいにして寝ましょうかねー」
「それじゃあ重いだろ、あ、下の可能性もあるか」
「じゃあ、抱き枕?」
「それならるのを抱きしめればいい。あと、俺は床ならどこでもいいぞ」
うん、彼女が問題ないなら女の子は女の子同士で、男の子は男の子同士で寝た方がいいな。
当たり前のように流されて乙女心を粉々にされるぐらいならその方がいい。
「学人さー――るのちゃんどうしたの?」
「き、危険だよ、いまの学人はもう昔までの学人じゃないの」
若くて可愛い女の子が無防備に近づいたら食べられてしまう。
そうなる前に止めなければならない、この距離にいて見て見ぬふりはできないのだ。
「るのちゃんが相手だから頑張っているだけだよ。学人さん、夜になったら私がご飯を作ってもいい?」
「ありがたいよ」
「もちろん、るのちゃんの手料理の方がいいだろうけどなにもしないのは微妙だからさ」
「るのが作ってくれても嬉しいけど毬ちゃんが作ってくれるのも嬉しいよ」
な、なんか冷めた対応をされてしまった。
ま、まあ、やってくれるなら助かるということであんまり気にしないようにしておいた。
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