07
「毬のことは好きだ。でもな、だからって兄で遊ぼうとするのはやめてほしい」
「だって学人さんが受け入れてくれなくなったから、だったら男の子で頼れるのなんてお兄ちゃんしかいないんだから仕方がないでしょ?」
「るのも見たくないよな?」
東ならいいけど本人が嫌がっているのなら止めるしかない。
内はともかく、少なくとも彼の目の前でぐらいは露骨な差を作りたくはなかった。
「ん-東が嫌ならやめてあげてほしい」
「じゃあるのちゃんにする!」
私なんて化粧をしたところで意味もないと思うけど。
でもまあ、今回も止めたのは私だから受け入れるしかないか。
「おおっ、なんかるのちゃんっぽくない! お兄ちゃんどう!?
「ん-毬が言うようにいつもとは多少違うけどそれぐらいだな、るのに化粧なんかいらないだろ」
「もう、女の子に対してそういうのが一番駄目なんだからね?」
化粧を頑張っている子に対しては確かに駄目だけど私に対しては全く問題はない、それどころか今回も彼ははっきりと言ってくれて助かっているぐらいだ。
前も言ったように痛い人間は卒業したのだから。
「や、私に化粧をしたところで無意味だから東がいまああ言った気持ちがわかるよ」
「るのちゃんも駄目だなあ……」
そうだな、時間がかかっても本当のところがわかってよかったのではないだろうか。
今回は東に誘われてここに来ているから駄目判定を下されても帰ることはしなかった。
「自信が持てないの?」
「いや? 別に自分のことを低く評価しているわけじゃないよ」
「じゃあなんで」
「だってそういうのってお金がかかるんでしょ? 私はそういう消える道具に使うより残る物に使いたいかな」
まあ、細かく使っているから説得力はないのも確かだ。
だからそこを突かれたら言い訳のしようもなかったけど突いてはこなかったからこれ以上は広がらなかった。
「俺はいらないと思っているけどやりたいなら毬がやればいいんじゃないか?」
「んー気になる異性とかもいないからお化粧とかいいかな」
「じゃ、じゃあなんで持っているんだ? あと、どこで覚えたのか……」
「え、それは他の人で遊びたいからだけど。それにいまはネットで調べればなんでも出てくるからすぐにできるよ」
「うんまあ、兄にやろうとしなければいいことだな」
んーやりたいのかどうかはわからないけど他の人が犠牲になるよりはいいか。
「私にしても面白くないだろうけどそれでもいいなら自由にしていいよ」
「えっ、本当にいいの!?」
「うん、毬ちゃんにお世話になっているのは私もそうだからね」
集まったときだけだったら肌へのダメージもそこまではないだろう。
少しずつでもやっていけたらその遊びたい欲もなんとかなるだろうからみんな平和に過ごせる。
「じゃあ毎日だからね! あと、私とも毎日過ごしてよ!」
「え、あ、うん」
「これは冗談じゃないからね、だって学人さんやお兄ちゃんだけずるいから」
私は基本的に誘われる側だから誘われたら付いていくだけだ。
「毬、それでも大事なときは邪魔にならないようにな」
「うん、それは大丈夫。多分あともうちょっとだと思うんだよね、学人さんも色々と頑張っているみたいだからね」
「俺達は応援するぞ」
「そうだよるのちゃん、頑張って!」
うーん……こう色々と終わらせた後に周りが頑張り始めるのは何故なのか。
わからないから考えながら歩いていたらまた自然と学人の家の前に立っていた。
これは昔に二、三回ぐらいあった、用があるときなら便利なやつだ。
ただ? 子どもの頃はもっと考えなしだと思っていたけどあの頃の方が考えていたみたい。
「ぽち――」
「あれ、るのだったんだ」
出てくるまでが速すぎるのもそれはそれで問題だった。
ま、まあ? あくまでこれは急に出てきたことで心臓が暴れているだけだけど!
「い、いま鳴らしたんだけど」
「なんか人の気配を感じて出てみたらこうなっただけだよ」
こわ、それで外に誰もいなかったら彼だって怖くなるだけだというのに。
「家に上がるのはアレ……だからちょっと付き合ってほしい」
「いいよ、それでも靴に履き替えてくるね」
いまは無理とか断ればいいのに、なんで毎回律儀に付き合ってしまうのか。
いや悪いのは私か、自然といってしまっただけで終わらせておけばいいのに呼び出そうとしたのが駄目だった。
「学人はなにをしていたの?」
「僕はごろごろしていたよ」
「だったら参加してくれればよかったのに」
東から誘われたときに当然のように彼も誘ったのに断られてしまったことになる。
東だって「学人なら大歓迎だぞ」と追加で重ねたのに届かなかった、それだけやりたいことがあると思っていたけど結果はごろごろしていたという少し前までならありえないことが起きている。
「確かにね」
「まあ、自由だからいいんだけどさ」
「だけどこれが答えかな」
うん? あ、いまこうして出てきていることに関して言っているのか。
でも、どちらも私が誘ったのに片方は断られたわけだからそれでなにかが変わったりはしないけどね。
「ねえ、なんで家に上がるのはあれ、なの?」
「あのままだと学人にとって邪魔にしかならないから考え直したんだよ」
「そういうのはいらないんだよ、だって僕自身がるのからのそれを求めているんだから」
彼が、ではなく彼も失敗をしたのだ。
あそこで田宮兄妹を誘ってしまった時点でこうなることが決まっていた。
そのときは気が付けないようになっているから気づいたときにはもう遅いけど。
「その気になったときに相手にも動いてもらえないと駄目なんだよ、私はすぐにいつものそれで元に戻っちゃうからね」
「だから僕のせいってことだよね」
「ううん、私が面倒くさいだけだよ」
丁度いい線が現れて足を止める。
「ここでお疲れさんでいいよ」
向こう側とこっち側には距離がないように見えて距離があったというだけの話だ。
なにも友達をやめようとしているわけではないのだから誤解しないでもらいたい。
「それじゃあ嫌だ!」
「え、もう用が済んだから今日のこれを終わらせようとしたんだけど」
こういう風に言っておけば彼相手にはなんとかなる――と前回も同じようにやって失敗をしたというのに学んでいない女がいた。
がしっと掴まれて抱きしめられる、外だというのになにをしているのかと言いたくなる。
「僕は絶対に諦めないから!」
耳が……やばいね?
耳元で叫ぶのではなく囁くぐらいでいいのに彼は過剰だった。
「お、落ち着いて、いまは本当に帰ろうとしただけなんだよ」
やっぱりそこは嘘だけど今日は終わらせたい。
「え」
「それを学人がマジになってこうなっているわけでね? 私の鼓膜がいかれるところだったよ」
小学生の頃に側面を思い切りぶつけたとき――いやあれは本当に酷かったから今回のこれはほぼノーダメージに近いか。
でも、減っていくばかりで回復はあまり期待ができないから守っていくしかない。
「じゃ、じゃあ……僕の勘違い?」
「ま、そうなるね。だって外は寒いから、家で大人しく温かいご飯でも作って食べようとしただけなんだからね」
あとは都合が悪くなったときだけ頼っているみたいになってしまったのも大きい。
固まっていた彼を家の前まで運んで挨拶をしてから一人で歩き始めた。
ご飯を作ってからバタバタと暴れていると「ただいま」と母が帰ってきたからまた聞いてもらうことにした。
「それで結局好きなの? 好きじゃないの?」
「学人のことは好きだけどさーあれで吹き飛んでしまったというかさー」
「それなら吹き飛んでしまったものを回収してきなさい、それができるまではご飯を作らなくていいわ」
またすぐにそういうことを言う。
確かにあっちもそっちもと器用にやれるタイプではないけどなにも完全にやめさせる必要はないだろうと言いたい。
「いまのままだとあなたは相手の気持ちを弄ぶ最低の女よ」
「さ、最低の女……」
それはまた見事に、うん、中央に刺さって抜けなくなった。
だってそうだよな、自分からやっておきながら相手が頑張ったときに冷めていてなかったことにしようとするなんて屑だ。
普通に相手をしてもらえていることが奇跡で、最悪の場合はドラマとかみたいに……。
「今回は自分の決めたことを守ろうとする方が悪くなるからそういうときはすぐに破っていいの、このまま言われ続けたくなかったらちゃんと向き合ってあげなさい」
「わ、わかった。それならいまからいっ――なに?」
「明日にしなさい。今日ぶつけて学人君が本気になったらやばいことになりそうだからね」
「やだなー学人に限ってそんなことはしないよ」
やっても抱きしめるとかそれぐらいだから安心してくれればいい。
私としてはちゃんと謝るのがまず第一で、あとは耳元で叫んでくれなければそれで十分だと言えた。
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