「せっかく学校もお昼で終わって、しかも今日はクリスマスだというのに僕らはなんで暗くなっても外にいるの？」

「東も毬ちゃんも無理になったんだし、二人きりならこういうのもありかなって」

　どちらもご両親が一緒に過ごしたいと言ったことで起きたことだった。

　でも、いつまでも一緒にいられるわけではないのはご両親に関してもそうだから優先してほしいということで終わらせた形になる。

「でも、るのは暗いの苦手でしょ？　いまだってちょっと震えているよね？」

「それは寒いからです……」

「なら戻ろう――駄目なの？」

「まあまあ、別に家に戻ったところで美味しいご飯があるわけでもないんだから付き合ってくださいよ――あれ？」

　今更だけど一緒に過ごそうと誘ったわけでもないのに当たり前のようにいてくれているのはいいことなのか悪いことなのか。

「うん？」

「そもそもなんで学人は一緒に過ごしてくれているの？　男の子の友達とクリスマスのことで盛り上がっていたからてっきりそっちと過ごすのかと思っていたけど」

　カラオケいこうぜとか、大量に食べ物を買って盛り上がろうぜとか、〇〇ちゃんを呼ぼうとか話し合って楽しそうだったのに結局彼はここにいる。

「え、そんなの僕らがずっと一緒に過ごしてきたからでしょ。いや逆にいまので不安になってきたんだけど、るのは僕がいて大丈夫だったの？」

「当たり前じゃん」

「そ、そう」

　母は私と過ごすとかなんとか言っていたけど父が珍しく早く帰ることができて嬉しそうだったから出てきたのだ。

　学人と私達家族で過ごすつもりは微塵もなかった、父が無理で母が一人だったとしても彼がいたのなら話は別だ。

　ただ放置も可哀想だから学人母に付き合ってもらうように頼んでいたと思う。

「だ、だからつまりさっ、僕がるのと過ごすのは当たり前でしょって話だよ！」

「しーあんまり大きな声を出すと怒られるよ？」

「はい……」

　いつもと少し違うのもあって感情のコントロールに苦労しているのだろうか。

「お店がそこそこある方までやって来たけどどこかお店にでも入る？」

「そうだね、もういい時間だからね」

「それならファミレスでいいか」

　正直料理のレベルとかはどうでもよかった、いまの私の中にあるのは微妙な状態で終わらせないという気持ちと、早々に解散にさせたりはしないという気持ちだ。

　早めに帰ることになるとこの少しふわふわした状態がすぐに終わってしまうから。

「混んでいるね」

「ちょっと寄って」

「ち、近いよ」

「我慢をして」

　ただの平日に利用するのとは違って混んでいるから寄らないと迷惑だ。

　私からすれば知らない人相手に学人を盾みたいにできるからいい。

　でも、なんか少しずつ変わり始めたところで案内されることになって救われた。

「どこもこんな感じなんだろうね」

「混んでいるのがわかっているのにクリスマスにお店にいくとか物好きだよね」

「はは、僕らもツッコまれる側だね」

「お昼の間になにか買ってきたりはしていなかったし、事実家にはなにもなかったんだから仕方がないでしょ？　人間はなにもしていなくたってお腹は減るんだからどこかで食べなければ駄目なんだから」

　好きでも嫌いでも誰だってそこかはら逃げられないのだから仕方がない。

「でも、僕の家でよかったと思うんだ」

「クリスマスに家に連れ込んでなにかしたいことでもあったの？」

「え、それはいつものようにご飯を作って二人で食べられたらいいかなって思ったけど」

「抱きしめたいとかないわけ……？」

　なんかもうゲームみたいに自分の魅力度が数値でわかったらいいのに。

　そうすれば期待してしまうこの残念な思考だってしなくなることだろうし、それをぶつけられずに済んで彼みたいな存在もいいと思うのだ。

　なのにこの世界ときたら自分の顔すら道具を使わなければ見られない、都合良くどうすればいいかなんてヒントなんかも出てこない、行動すれば行動するほど悪い方に傾いていく――のは私だけだとしても本当に上手くいかないからがっかりする。

　まあ、まだがっかりできるだけマシなのかもしれないけど……。

「はは、るのはそれを求めているの？」

「まっ、……少しぐらいは」

「あれ！？」

　一応コントロールされているけど驚いているみたい？

「えーいまの余裕そうな態度を貫けると思ったのにそれ……？」

「だってるのは結構自分のしたいことに正直な子だからさ、これまでこういう話になっても『それよりさー』って話を変えていたでしょ……？」

　紛れもなく自分勝手な女だった、そしてそれを彼から言われていることがやばいと思う。

　あとこれまでこういう話になったことなんてない、いまもそうだけど彼の方からなにかアピールをしてきたりはしていなかったからだ。

　で、私は自分が話したいように話して話題を変えていくわけだから、これまで一緒にいたのに一度も甘い話がなかったことになる。

「なんか虚しくなってきたけど別に学人が悪いわけじゃないから気にしないでよ。お金、ここに置いておくからそれじゃあ――」

「待って待ってっ、まだ料理もきていないよっ」

「ふっ、私は女として終わっているのさ……」

　自分で言ってもっと虚しい気持ちになってきた。

　でも、悪いのは私だからこれ以上表には出さずに黙って運ばれてきた料理を食べておいた。

「じゃ、暖かくして寝るんだよー」

　うん、まああんなのもすぐになくなってもういつも通りの私に戻っていた。

　いつものやつだ、こんなことを繰り返して幸せな状態で最後は死ぬことができればいい。

「今日はるのとずっと一緒にいたい」

「やだもー今日は頑張るじゃん」

　ファミレスのときに出してくれたらもっと効果的に働いたけど戻りすぎてしまったことが問題だった。

　まあ？　泊まってほしいということなら泊まるだけだけど。

「ほら、変えるって約束をしていたから、るのだって守ってくれているでしょ？」

「それなら家に帰ってお風呂に入ってくるよ、こっちで入ると意味深な感じになっちゃうし」

「着替えなんかもないもんね、じゃあ僕も付いていくよ」

「うん、すぐ済ますから」

　春夏秋冬、元々長風呂派ではないから五分もあれば十分だ。

　髪が長いわけではないから乾かすのだって大変ではない、よくあるようなら「全く拭けていないよ」なんてやり取りをすることも全然ない。

「色々見てきたけどまだ両親は帰ってきていないみたいだね」

「顔を見せてからの方がいいかな、るののことを気にしているよね？」

「いやちゃんと連絡をしておけば大丈夫でしょ、もういきましょう」

　あまりにゆっくりしすぎると結局彼がこっちに泊まることになるからこれでいい。

「ごろーん」

「もうどっちも済ませているからるのならそうなるよね」

「うん、学人もしてよ」

「うん、じゃあごろーん」

　なんだ今日の彼は、過去最高で一番ノリのいい日だ。

　少しだけ意識を変えたぐらいでこうなるのならもっと早めにぶつけておくべきだったのかもしれない。

「はっ、もしかして熱が出ていたり――はないな、普通だ」

「うん、熱なんか出ていたらあんなにご飯を食べられないよ」

「なら冷静なふりをしているだけで心臓が滅茶苦茶慌てていたり――わ、すごい」

　なんであくまで普通に寝転んでいるだけなのにこんなに大暴れなのか。

　先程みたいに魔法が解けて「そ、それはずるくない？」とよわよわ学人君が現れてしまっているからこれはチート的な行為だったのかもしれない。

「なら私の方にもすればいい、頭で触れるぐらいなら学人でも余裕でしょ？」

「で、できないよ」

「いいからほらっ」

「ぐべあ！？」

　そうか、壁性能しかないから包まれて幸福な気分に、なんてことにはならないか。

　ここが毬ちゃんにしておいた方がいい理由の一つだ、まあこんなことをやっておきながら言うのもあれだけど。

「クリスマスなのにあの世にいくところだったよ……」

「で、どう？」

「るのは普通だよ、僕といるときに心臓が慌てたりすることはないよね？」

「さっきは結構あれだったけどね」

「さっき――あ、つまり抱きしめてほしいということ？」

　いまから頑張られても駄目になるから答えることはしないでおいた。

　あとは眠たくなってきた状態でなにもかもを済ませているからと任せたら朝だった。

　こうなると当然のように学人は部屋で寝ているとばかり考えていたから隣ですやすや寝ていたときは驚いたね。

「おーきーてー」

「……朝も意地悪をするのは駄目だよ」

「も、ってことは夜になにかしたの？」

「ふぁ……うん、布団を掛けて出ようとしたらるのが抱き着いてきてね」

　そもそも布団を掛けて寝転んでいたのに布団を掛けて、とは。

　私は寝相が悪いと一度も言われたことがないから妄想――彼の顔を見るとそれでもなさそうだ。

「えーじゃあ学人が勇気を出してくれたわけじゃないの？」

「それはそうだよ。前にも言ったでしょ？　僕のことが好きな状態ならいいけどそうじゃないなら止めるってさ」

「ふふ、でも寝たんですよね？」

「……力に勝てなかったんだよ、あれは本当にるのの意思でしていたわけじゃないの？」

「うん、だって気づいたら朝だったから」

　わかった、本能が求めていたのだ。

　差を作っているみたいで悪いけど私の中では東よりも学人なのかもしれない。

　ただ、それだって起きて当たり前のことで悪いことではないから気にする必要もないか。

　これが上手くいくかどうかは私ではなく学人次第というところは変わっていないけど。

「学人、急だけど昨日は一緒に過ごしてくれてありがとう」　

「こちらこそ」

「朝ご飯を作るね、あんまり食べていないからお腹が減っちゃったんだよ」

　だけどこういう行為がどんどんゴールから遠ざけていたとしたらどうすればいいのか。

　とはいえ、彼の家でご飯を作ることは普通のことだからやめたくもない。

「手伝うよ、後で買い物にいくつもりだから全部使ってもいいよ」

「それは流石にヘビーすぎるからほどほどに使わせてもらうよ。あと、迷惑なら迷惑とちゃんと言ってね」

「急にどうしたの？」

「別に」

　独り相撲で疲れるのはアホだ。

　こちらがなんでも吐くようにして彼も変わってくれるのを願うしかなかった。

「一つ言っておくと空気を読んだとかじゃないんだ、本当に誘われたんだよ」

「疑っていないよ？」

　翌日に家でごろごろとしていたら東がやって来た。

　どっちであっても来ないとなったら切り替えてやっていくしかないからやっぱりこれは広がってはいかない話だ。

「それならいいんだ。で、楽しく過ごせたか？」

「まあ、ご飯を食べて終わりだったけどね。そっちは？」

　毬ちゃんがいるのだから喧嘩にでもならない限りは楽しめたに決まっている、それでも一応こちらも聞くことが常識だと思ったから聞き返しておいた。

「それぐらいでいいだろ、悪い空気になっていたりしなければ大丈夫だ。俺達の方はな、毬がずっとハイテンションで少し疲れたな、部屋まで運んだぐらいだ」

「はは、優しいお兄ちゃんだ」

「ま、あれぐらいはな」

　いまも寝ているみたいだから今日は彼と二人きりになりそうだ。

「それなら頑張っているお兄ちゃんの肩を揉んであげるよ」

「頼む」

　こういうところは学人と違ってがっしりとしている。

　だから八割ぐらい力をこめていても「おお、いいな」と彼は痛がっていたりはしなかった。

　我慢をするタイプではないから抑えているわけではないし、なんかこれだと私の力が弱いみたいに見えるから鍛えた方がいいのかもしれない。

　結構負けず嫌いなところがあるのも事実だ。

「よし、次は俺だな。るのだっていつも飯を作っていたりするんだからいいだろ？」

「ふふふ、それって私に触れたいだけだよね？」

「違うよ、お返しがしたいだけだ」

「じゃあお任せしようかな――いったっ、なんてこともなくて優しいね」

　なんか優しすぎてぞわぞわする。

　なんで大きいのにこうなのか、子どもの頃の彼も消えてはいないということなのだろうか？

「そりゃあな、やっぱり俺らとは違うからな。ただ、毬よりも硬いな」

「胸もないのにおかしいよね」

「るのも頑張っているからじゃないか？」

　頑張っているかなあ？　そういう感じは全くない。

　頑張っているというのは苦手なことにもどんどん挑戦して苦手ではなくなるように頑張る人達には当てはまっているけど私ではとてもね。

「これぐらいだな」

「ありがとう」

「おう」

　やばい、することがなくなってしまった。

　東もなにも言わずに違うところを見ているだけだから数回目の気まずい時間となった。

「よしっ、追加のお菓子でも出しちゃおうかな――あ、誰か来たっ、ちょっと出てくるね！」

　助かる、そしてこういうときは絶対に、

「こんにちは！」

　そう、毬ちゃんが来てくれるのだ。

　まあ、これは私目当てではなくてお兄ちゃんを取られてしまっているからだけど細かい理由はどうでもいい。

「あれ？　なんか大きくなってしまったような……」

「毬はこっちです」

「おわっ、え、じゃあ誰！？」

　毬ちゃんが来てくれるのだ！　などと考えて出た私はどうすればいいのか。

　あと友達の友達は対象外だから一気にあわあわとしてしまった。

「もうネタバラシをするとね、これは学人さんなんです」

「えっ？　これ学人なの！？」

　そ、そういう趣味があったのか。

　でも、いまは多様性の時代、別に誰にも迷惑をかけているわけではないからなにか言うわけにもいかない。

　その本人の顔が物凄く暗くて、まるで無理やりやられたように見えたとしても触れない方がいいときもあるのだ。

「ん－漫画やアニメみたいに誰が見てもえ、男の子っ？　美少女じゃんっ、というわけじゃないけど似合っていないこともないね」

「……僕はそんなことよりも全部剥かれたことが気になっているよ……」

　私は普段の学人の方が好きだな。

　これは事実だから仕方がない、別になにか変な感情があるわけではない。

「それ学人か？　へえ、結構面白いな」

「東、毬ちゃんは怖いよ」

「たまに暴走するときがあるからなあ」

　なんかつまらなかったから家の中に連れ込んでまた剥いておいた。

　着替えは本人が持ってくれていたから困ることもなかった、顔は赤く染まっていたけど。

「はい、学人はこれが一番だよ」

「えー可愛くてよかったでしょ？」

「ううん、学人はこれが一番だから」

　女装は好きな人だけがやっておけばいい。

　毬ちゃんが何度やろうとその度に元に戻そうと決めた。