03
「んー漫画の真似をしてロッカーの中に男の子と入ってみたけど狭いね」
「やる前にわかってほしかった、かな」
あと当たり前の話だけど窮屈だった。
「まあまあ、なんでも自分がやってからじゃないとわからないことってあるでしょ?」
「そもそもるのは漫画とか読まないでしょ?」
「それがこの前、一冊だけ買ってみたんだよ、そうしたら中にこんな内容の話があってね」
いつまでも入っていてもアホらしいだけだから中から出て席に座る。
彼も同じように横の席に座ってから「それは珍しいね」と言ってきた。
「表紙の女の子が可愛かったからね」
「はは、男の子みたいな目線で見ているんだね」
「どうせ学人はお胸ばっかり見ているんでしょ?」
「僕はあらすじを見て決めるかな」
「ふーん」
彼の部屋に何回も遊びにいっている私だけどそれっぽい本は一冊もなかった。
学人がお母さんに呼ばれて消えた間にいるときはアクセスできない場所なんかにもアクセスしてみたものの、見つかることはなかったから隠しているとかそういうことでもないのだと思う。
だけど彼はむっつりスケベさんだからどこかで、なにかで欲求を発散させていなければおかしいことになるわけで。
「そうだ、壁ドンとかやってみてよ」
「ああいうのは格好いい男の子がやらないと意味ないんじゃない?」
いいからいいからといつものパターンでやらせようとしてもこれだけはやってくれなかったから不満だった。
でも、途中からなるほどと自己解決できたからすぐに直った。
だってヒロイン並みの魅力がないのだからやりたくならなくて当然だ。
それに誰に見られているのかもわからないこの教室でやっていたらこれからに支障をきたすかもしれないから簡単にできたりはしないのだ。
「うっ、お腹が痛くなってきた……」
ちなみにこれはからかって遊びたいとかではなくて本当に痛かったからだけど「それなら家まで運ぶよ」と言われて固まった自分がいる。
ただそれが好都合だったのかさっさと抱き上げてずんずん歩いていく相棒がいて……。
「嘘かそうじゃないかなんて簡単にわかるからね、いまのは本当に痛い顔をしていたからね」
「……む、昔だったら腕を掴む程度じゃなかった? お、お姫様抱っことかするような子じゃないと思ったけど」
「この方が触れる場所も少なくていいと思ったんだ」
おかしい、一時期一緒にいられなかった、なんてこともなかったのに変わってしまっているところもあるようだ。
「ふぅ、じゃあさ、迫真の演技なだけで嘘だったらどうしていたの?」
「それなら続けさせてもらったかな」
「え、意地悪な男の子じゃん」
「嘘をつく悪い女の子にはそれぐらいでいいんだよ」
え、こわ。
「あれか、それこそ前にあったじゃん、中身が入れ替わっちゃったってやつ。学人と東がぶつかって中身が入れ替わっちゃったんだよ」
「ないよ」
「もう少しぐらいは付き合ってくれてもいいだろー」
いや、こんな状態でうざ絡みをしていても恥ずかしいだけだからやめようか。
あとこれは楽でいい、だから最初はともかく途中からは便利な乗り物ぐらいにしか思っていなかった。
一応言っておくとドキッとしたとかではなないのだ。
「それより僕の家でもいい?」
「うん、それでいいよ、またご飯を作って帰ろうと思ってね。ほら、こうして運んでもらったんだからなにもしないで帰るのは流石に気になるからさ」
だけど色々と気にしている彼がこうして簡単に上げてくれることが意外だった。
「ね、幼馴染だから許可してくれているの?」
「家に上げること? 幼馴染だからとかじゃなくてるのだからかな、それ以外の子だったら簡単に上げたりしないよ」
「好きとか?」
「るののことは好きだよ?」
「な、なるほどね。さ、ご飯でも作りましょうかね」
うん、今日の彼はおかしいみたいだ。
ご飯を作って帰った後から「実は風邪を引いていたんだよ」とか吐かれても驚かない。
「野菜も食べないとねー」
「ま、待って、全部野菜しかないんだけど」
「お肉ばかりの日だってあるんだからたまにはこういう日があってもいいよね? あと、それを狙っているとばかりに野菜ばっかりだったから有効活用したんだけど」
「で、でも、作ってくれたわけだから感謝しないといけないよね、ありがとね」
今日の分はちゃんと返せたから一人で帰ることにした。
当然のように止めてきたけど一人の時間も欲しいと言ったら言うことを聞いてくれた。
「ただいまー」
「おかえりなさい」
「あれ、今日は早いね? あといい匂い」
「ええ、多少前後することがあるのよ、それにずっと待っておくのも違うから作っておいたわ」
少し心臓が疲れたからこういう日があってもいいか。
久しぶりと言ってしまうと大袈裟だけど母が作ってくれた料理は本当に美味しかった。
「おはよーございます」
一応耳元で喋ってみても起きないからどうしたものかと悩むことになった。
肩を揺らすなりして起こせばいいのはわかっている、だけどそれだとつまらないからなにかもっといい方がないのかと探しているのだ。
「るのちゃん早くっ」
「待って待って、あなたのお兄ちゃんを起こさないと――あ、おはようございます」
「……るのだったのか」
く、妹の
「ん? ゲームセンターにいきたいのか?」
「うん、そうみたい。で、なんかお兄ちゃんにじゃなくて私に頼んできたんだよ」
元気いっぱいな毬ちゃんはもう待ちきれずに外にいるけどこっちは話しておかなければならないことがあるから時間を貰った。
「それ、俺も付いていくわ」
「お願い、やっぱり私だけだとなにかが起きたときに怖いからね」
まあ、あの子ももう中学生だからそう心配する必要もないとはわかっていても、ねえ?
「あれ、なんでお兄ちゃんも付いてきたの?」
「心配だからだな」
「別にただ遊ぶだけなのに、まあいいけどさ」
思春期にありがちなついつい思ってもいないのに悪く言ってしまうなんてこともなくて普通に仲のいい兄妹だった。
ただ完全に上手くやれているわけではなくて、どうしても駄目になってしまうときがあってそういうときはついつい学人と比べてはお兄ちゃんを悲しそうな顔にさせてしまう、それで彼女もどうしようと泣きついてくるからその度に協力をしていたら仲良くなれた形になる。
「これなら学人君も誘ってあげた方がよかったかな? 学人君もるのちゃんといたいよね?」
「遊んでいれば勝手に察知して来るだろ」
「もー意地悪をしないのっ、私が代わりに呼ぶからね」
お兄ちゃんと同じで事あるごとに学人のことを出してくる彼女だけど特別な好意があるとかではないみたいだ。
それどころか恋バナで盛り上がろうとしても「学人君のことが好きなのはるのちゃんでしょ?」と似たようなところを見せてくれていた。
「あれ、今日は反応してくれないや、いつもならすぐに反応してくれるのに」
「ま、遊ぼうぜ」
「そうだね、それに私としてはるのちゃんがいればそれでいいんだからね」
なんでかを考えていたらプリクラを撮りたかったからだとすぐに本人が教えてくれた。
これなら尚更東と二人きりでよかった気がするけど撮りたかったのなら仕方がない。
「はははっ、るのちゃん面白い!」
「はは、でしょ?」
ノリが悪い女にはなりたくないからね、やると決めたからにはちゃんとやるさ。
それ以外は特にやりたいことはなかったみたいだから一人寂しくコインゲームで遊んでいた東に近づく。
「うお――るのか」
「毬ちゃんと私以外がやったら怖くない?」
「確かにな、るのも座れよ」
「うん」
前の話に戻すものの、それこそ東は男の子っぽくなった。
おどおどびくびくしていたあの頃と違って筋肉もすごいし、身長も高いからびびっとくる女の子は結構いるのではないだろうか。
「そんなに俺の顔を見つめたってコインを五枚ぐらいしかやらないぞ」
「コインは狙っていないから安心してやりなよ」
毬ちゃんに付き合っているだけでゲームセンターが大好きではないからそういうことになる、あと興味があるとしてもその場合なら自分でお金を出すというやつだ。
「なあ、いつも毬のことありがとな」
「それは大袈裟すぎ、一ヵ月に二、三回ぐらいしか付き合っていないよ」
断っているわけではなくて元々それぐらいの頻度でしかないというだけだけど。
「いやだってよく『るのちゃんがいてくれるから女の子のお友達なんていらないんだよ!』とか言っているからさ」
「悪影響を与えているじゃん……」
確かに年上の友達がいるとやりやすいときもあるものの、ちゃんと同級生とかの友達を作ってほしい。
私ならいくらでも付き合うから、暇人に全てを賭ける……は言い過ぎだとしてもそこだけを頼りにするのは危険だ。
私だけではなくて学人という友達がいるのはいいことだけどやっぱり学校でも安心して一緒にいられる存在を作るべきだろう。
「そんなことはないと思うけどな、なんだかんだ言って『友達と遊んでくる』って出ていくから」
「ほ、私のせいで一人の少女が駄目になるところだった」
「前々からそうだけどその評価が低いのなんとかならないのか? 小学生の頃の自分を見ているようで不安になるんだよ」
「いやいや、ちゃんと厳しくしなければならないところは厳しくしないと」
「るのはなにも悪いことをしていないだろ」
駄目になってしまったのは彼の方だった。
あんまりはっきりも言わなくてなってしまったし、どうすればいいのかと悩んでしまった。
「まーなーと君、あーそーびーまーしょー!」
「う、うん、こうして出てきているんだからいちいち言わなくて大丈夫だよ」
あの兄妹と別れてからそのまま来たわけだけどあくまで普通の学人だった。
疲れている感じもない、いまから遊びにいこうと誘っても普通に言うことを聞いてくれそうなレベルだ。
「それより毬ちゃんからのメッセージを無視してさ、なにか用でもあったの?」
「寝ていたんだ、だから起きてから冷や汗をかいたよ」
「や、それは大袈裟すぎ、付き合えないときは付きえないでいいんだよ」
どうしても出かけたいなら今度頼めばいいのだ。
「毬ちゃんはるののことを気に入っているよね」
「私も頼ってもらえて嬉しいよ、学人と東っていう男の子達が頼ってくれないから尚更ね」
「それは同じ結果になるだけだからここで終わらせるとして、これからどうしようか?」
ああ、終わってしまった。
でも、確かにこれは延々に同じところを回ることしかできないからいいか。
「家にいって話すのもいつもやっていて新鮮味もないからどこかに出かけよっか」
さっきまで遊んでいたけど学人と遊ぶのはまた別だから時間を使っても全く問題はない。
「それならたまには食事にいくのはどう?」
「あら、ナンパされちゃった」
「ぼ、僕はただ友達として――」
「はいはい、いきましょうね」
この前少し意地悪になったときみたいに「そうだよ」と返すぐらいでいいのに。
私だっていつでも強気に対応することができないから彼もそうなのはわかっているけど……物足りないのも確かだ。
「水だけどまずは乾杯」
「うん」
「なんかこうしてから飲むといつもより美味しい感じがする」
どうしたって味がある物ばかり求めたくなるからなんでもいいからごくごく飲めるようになってくれた方がいい。
「東とはどうだった?」
「東は、じゃなくて?」
「うん、僕がいないときはどういう風にして盛り上がっているのか気になるんだ」
「三人でいるときと変わらないよ、あと大袈裟で困るかな」
なにも変わらないから安心してくれていい、少なくとも私の方はそういうことになる。
ただ東はあれだ、学人がいないところだとよわよわしい反応になるときもあるのは確かだ。
学人に見られたくないからなのか、心配されたくないからなのか、全てを吐いてくれるのはいつになることだろうか。
「そっか、じゃあ露骨に差ができているとかじゃないんだよね?」
「当たり前だよ、東のことを好きになったらどうなるのかはわからないけどね」
「そうなってもちゃんと教えてほしい」
こちらがなんでもかんでも吐いたとしても向こうからはほとんどなさそうだ。
だけど全てを言わなければならないなんてルールはないのだから仕方がないと片付けて料理を食べていく。
「美味しかったね」
「うん」
「お会計は僕がまとめて済ませてくるから先に出てて」
「わかった」
待っていようかとも思ったけど多少混んでいて邪魔にしかならなさそうだったから出ておくことにした。
温かいところにいただけあって寒いけどまあすぐに家に帰ればいいから気にならない。
「じゃ、お姉さんはこれで帰るからね、暖かくして寝るんだ――お? 腕なんか掴んでどうしたのさ?」
「そうやってすぐに一人で無理をしようとしないでよ」
「なんだ、私と離れたくなくて泊まってほしいとか言われると思ったのにがっかりだよ」
「そういう気持ちは強くあるけど」
「ほほう、なら泊まらせてもらおうかな」
最近はこういうことばかりだけどたまにはこういうこともあっていいと矛盾めいた考えをしつつ中に上がらせてもらうことにした。
東の家や私の家と違って完全に二人きりなのに面白いことをする。
だからといって甘々な雰囲気になったりはしないけど……そう悪くない時間になることはこれで確定したのだった。
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