02

「私があなたに守ってもらいたいことは二つね。それはちゃんと休むことと、元気良くいること、これだけを守ってくれればそれでいいわ」

「うん、いまのところは大丈夫だと思うよ」


 これは常に言ってきていることだし、なにも難しいことではないからありがたいことだ。

 私が母に望んでいることもそのまま同じで元気良くいてほしい。


「そうね、あとはもう少し言うことを聞いてくれるとありがたいわね」

「いま三つに増えた」

「そうね」


 親なら寧ろ手伝えと言いそうなものなのに私の親は違う。

 遅いからあまり話すことができていない父も同じような感じだから困ってしまうときもある。


「あ、いま大丈夫だった?」

「おう、どうした?」


 はっきり言ってくれるからこういうときは自然と東を頼るようになっていた。


「いやーそれがさ、お母さんが休め休めって言ってきて困っていてね」

「それなら俺よりマシだろ、俺の母さんなんて『ごろごろしていないで勉強でもしなさい』ってしつこいんだぜ?」

「ん-十分休めているのに休めと言われるよりは親っぽくていいと思うけど」

「実際に経験してみたらわかるぞ」


 まあ、全く干渉してこない親よりもいいのだろうか。


「いまから会えない?」

「暗いのが怖いくせに無理するなよ」

「な、んの話?」


 あ、まんま同じ反応をしている。

 そんなにわかりやすかったのだろうか? 暗闇に対してひゃあ!? とか驚いてみせたとかでもないのに何故なのか。

 一人で怖がっているところをたまたま見てしまってなんてことでもないだろうし……。


「気づかれていないと思っているのはるのだけだぜ。まあいい、いまからいくから待ってろ」

「うん」


 離れているわけではないから五分ぐらい経過した頃にやって来て「外は寒いな」なんて言っていた。

 気が利く女だから彼の好きなブラックコーヒーを渡しておく、私からしたら砂糖が入っていないなんてありえないけど彼はこれが大好きだから仕方がない。


「む、なんかちょっと汗臭い」

「ああ、さっきまで走っていたんだよ」

「シャワー浴びる? 別にいまなら溜まっているから普通に入ってもいいけど」

「でも、着替えがないしな」

「冬だからそのままじゃ駄目?」


 夏と違ってそこまで吸収はしていないだろうからと提案してみたものの……。


「そ、そんなに臭うのか?」


 と、不安にさせてしまったみたいだった。


「そこまでじゃないけど……」

「じゃ、じゃあ入らせてもらうわ」


 うーん、これは失敗したかもしれない。

 頼んで来てもらっておきながらこの対応は失礼ではないだろうか。

 それなら多少は汗臭くても我慢をしなければならなかった、だけどもう言ってしまったからどうしようもない。

 とりあえずは出てきた彼に自己満足の謝罪をしておいた。


「そういえば今日の午前に友達と喋っているときるののことを出してきたんだ、なんか興味があるっぽいぞ」

「え、それはすごい話だね」


 同じクラスでもない限りは認識すらされずに終わりそうなぐらいなのに。


「いいところもそれなりに話して興味があるならいってみたらどうだって言ってみたら『だけど東が怖いからやめておくわ』って流れになったけどな、なんでだろうな?」

「はは、私の側にはいつも東と学人がいてボディガードのように見えているんじゃない?」

「俺としてはるのが色々な人と話すのは大歓迎だけどな」

「私も拒絶しているわけじゃないけど二人以外は来ないね」


 友達だから一緒にいるだけなのに侍らせているように見られて敬遠されていたらどうしようか――って、その場合でも二人と安定して一緒にいられるなら十分か。


「もうこのまま泊まっていきなよ」

「それなら学人も呼んでいいか? あ、先に言っておくけど仲間外れにしたくないんだよ」

「いいよ、君は学人が大好きだもんね」


 まあ、あの気弱な少年も後は寝るだけの状態ならお世話になりすぎているとか狂言を吐き出したりはしないだろうから構わない。

 寧ろこれだと東にだけいてほしいみたいに勘違いをされてしまうかもしれないから彼の方から言い出してくれて助かった。

 いやほら、一人といるときに積極的に片方のことを出していたらそれこそ、ね。


「学人のことを好きなのはるのだろ?」

「別にそこまで差はないけどねー東みたいにはっきり言ってほしいというのはあるけどね」

「あーそれは難しいだろ、だから学人に期待するより自分が頑張った方がいいぞ」


 そのときがきたら変えればいいか。

 こちらも待っていたら「やあ」と少年が現れた。

 既に入浴済みみたいだから丁度いい、リビングでもいいけど寝転んで喋りたいから客間に連れていく。


「丁度集中が途切れたところだったから助かったよ、寝るにはまだ早い時間だったから尚更ね」

「また勉強か」

「うん、やっておかないと不安になるからね、それにテスト週間がきたときに二人に教えられるようにしないといけないから」

「「その点についてはお世話になっています」」

「はは、いいんだよ、それ以外では僕がお世話になっているんだからね」


 んー東が肉食動物なら学人はやっぱり草食系だ。

 でも、結構熱くなるときもあってそういうときは強い男の子に見えるかもしれない。


「ん? なにかついているとか?」

「ううん、学人は学人だなって」

「それはそうだよ。それより……よかったの?」


 なにを聞きたいのかは表情を見ればわかる、だけどまたこれかと呆れたくなる自分もいる。

「二人きりに拘りとかないからな」と東が答えてくれてよかったけど二人きりだったらどうなっていたのかはわからない。


「そっか、ならいいんだけど」


 いやでもだってと広げていこうとしないところはいいところだけどね。


「あと今日はるのがちゃんと服を着てくれていてよかったよ」

「痴女じゃないんだから当たり前だよ」

「じゃ、じゃあいつものるのは痴女……ってことなの?」

「いや? すぐに制服から着替えたい人、だね」


 洗濯物に関しても私がやっているのに母がいちいち部屋に戻してしまうから取りにいくのが面倒くさいのだ。

 それになにも全裸になっているわけではないのだからこれも慣れてほしい。


「なるほどな、つまり刺激が強いってことなんだろ」

「私の体で? こんなんだよ?」


 母が大きい方ではなかったから娘の私だってそれに似通るのは当然のことだった。

 重いとかなんとか、肩がこるとかなんとか、そういうデメリットも多いみたいだから私的には十分ではあるけど。

 ただ、男の子からしたら違うと思うから? 実は隠れ巨乳でしたとか、もうそもそも普段からばかでかいことがわかっている子とかに頑張ればいい。

 東はストレートすぎるけど学人はむっつりスケベだからね、こんな体では物足りないだろう。


「異性ってだけで違うんだろ」

「やめちゃったとはいえ、東の友達ぐらい稀有な存在だね」

「それは自己評価が低すぎだ」


 大したことがないのにまるであるかのように振る舞うよりはいいはずだった。




「雪だ」

「本当だね、かなり珍しいね」

「このまま積もってくれないかなあ。はは、学人にぶつけてひーひー言わせたい」

「えぇ……なんで意地悪をしようとするときだけ楽しそうなの……」


 実際はそこまでになるなら滅茶苦茶寒いだろうから少し降って終わるぐらいが丁度いい。


「雪といえば昔の冬に似たようなことがあって凍った地面ですっ転んで学人に笑われたんだけど」

「あー……あの頃の僕はちょっと調子に乗っていたから……」

「逆に東が心配してくれたぐらいなんだけど」

「そうだね、あの頃の東は本当に別人って感じだったよね」


 なんでこうなった。

 試しに俺と言ってみてよと頼んだら「え、俺は似合わないよ」とすぐに否定してくれた。

 いいから早くと畳みかけていく、押していけば続けるかどうかはともかく彼は試してくれる人間だ。


「その頃のことをお、俺は……申し訳なく思ってるよ――戻してもいい?」

「ま、いいよ」

「やっぱり僕は僕だよ」


 まあ、私も私だからそうなる。


「でも、若い頃に戻れたみたいになっていい気がするんだ、だからぶつけるとか云々はどうでもよくて学人とまたあの頃みたいに盛り上がりたい」


 東は元に戻ってしまうけどあの大きさでおどおどしていたら逆に可愛いだろうからそれでも飽きないと思う。

 いまはもうしなくなった鬼ごっことか、意味もなく探検とかをすれば三人で仲良くできるはずだ。


「別に雪が降っていなくたって僕らは僕らしく盛り上がれているでしょ?」

「そうかな、学人は遠慮ばかりするようになっちゃったけどな」

「え、どこの僕の話?」

「そうやって話を逸らそうとするのは嫌い」


 これも彼の悪い癖だ。

 なかったことにして話を進めようとする、一応嫌いとかなんとか言って吐き出させようとするけど効果はなかった。


「いやいや、本当にわからないんだって、遠慮なんか全くできていないんだけど……」

「てい」

「痛っ、なんで攻撃されたの……」

「さあ吐きなさい、吐かないとお母さんに協力してもらうからね?」

「そ、それはやめてよ、なにかが出たりもしないけどさ」


 東を呼んだところで延々平行線になるだけだから今回、これ以上はなにもできないことが確定した。

 こうなったら違う女の子の友達を作ってもらうことで私に対してはなんでもかんでも言っていくようにしていかなければならないか。


「学人、女の子の友達を作ってよ、それでその子を好きになって。そうすれば私に対しては遠慮をせずに物を言うようになるでしょ」

「それでも変わらないと断言できるよ、他に特別ができたからってこれまでお世話になっていた子に悪く言うぐらいなら消えた方がいい」

「つまらない」

「許してよ、本当に我慢をしているとかじゃないんだ」


 矛盾しているかもしれないけど意地悪がしたいわけじゃないしなあ。

 ここで終わらせておいた。

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