187
Nora_
01
学校が終わったらやらなければいけないことはささっと家に帰ることだ。
家に着いたら制服なんかも脱ぎ散らかしてすぐにソファにダイブすることが必要だった。
これを繰り返してなんとか毎日学校に通えている形になる。
「ここは私のだー」
「痛いよ、なんで僕は攻撃されたの?」
「そんなの私の場所なのに邪魔をしてきているからだよ」
「ここ、僕の家なんだけど……」
細かいことはどうでもいい、それに誘われたのであれば自宅と同じようにしていいに決まっている。
「そ、それよりさ、服装を……なんとかしてよ」
「別に裸とかじゃないんだから大袈裟すぎでしょ」
「し、下着が見えそうなんだけど」
「今日は体育なんかもなかったからズボンとか履いていないのは仕方がない」
ま、こうして矛盾している状態だけど上がらせてもらっているからご飯ぐらい作って帰ろうか。
「今日はなににしようかなー」
「あ、当たり前のように冷蔵庫を開けるよね」」
「そりゃ君しかいないからね、流石にご家族がいる実家では無理だけどここでならいいでしょ」
同級生でもどちらかと言えば私の方がお姉さんで基本的にお世話をしてあげている状態だった。
でも、最近は反抗期みたいで結構ちくりと言葉で刺してきて可愛くなくなってしまった……。
「じゃ、じゃあ今日はあるやつ全部使っていいからそれでお願い」
「任せて」
必要なことだけやって他の時間は休むことに使うことが多い私だけどこういうことも結構やっている。
彼のことが好きだからではない、こういうことをしておけばいざ自分が困ったときに相手が動いてくれそうだからだ、つまり計算高い女ということだ。
そうとも知らずに彼は柔らかい笑みを浮かべて「いつもありがとう」なんて言っていた。
くくく、ちょろいぜ。
「じゃ、食べ終えたら送ってね、それまでは……すやあ」
なんて、某アニメに出てくるキャラみたいに速攻で寝られるのなら苦労はしないのだ。
寝られはしないし、単純にこんな中途半端な時間に寝てしまうと夜中に起きてしまうから天井を見て時間をつぶしていた。
うん、言っていないけど実は暗闇が苦手なのだ。
だから一人では帰ることができない、そうなるとせっかく貯まっているはずのポイントも送らせることで消費してしまっているわけだから意味がなかった。
矛盾ばかりの人間、それが私――
「美味しかったよ」
「んー」
「送るよ」
これは私が女の子だからということで毎回してくれているみたい。
弱いところを突き付けられてうぐっとなりたくないからそう片付けてくれているのは好都合だと言える。
「あ、一応るののことを考えて言わなかっただけで怖がりなのはわかっているからね?」
「な、んの話?」
馬鹿者がと自分に叱ってももう遅い。
「ははは、気づいていないと思っていたの? 僕らが最近出会ったばかりならわからないかもしれないけどずっと昔からいるんだから丸わかりだよ」
「だ、だったらわからないふりを続けてよ」
「だけど無理をさせるのも違うかなって、わかっておきながらそれだと意地悪でしょ?」
「で、でもさ、今日まで私のことを考えて言っていなかったわけだから結局は反応を見て楽しんでいたのと同じじゃない?」
「確かに、ごめんね?」
謝るなっ、謝られてしまったらいま以上にどうしようもなくなるからっ。
「僕と同じように一人というわけじゃないから家では心配しなくていいのが大きいよ」
「ま、まー送ってくれてありがと、また明日ね」
「うん、また明日ね」
彼にだけ特別にやっているわけではないからこっちでもやっていく。
作り終えたタイミングで偶然帰ってきてくれたなんてことはなかったものの、三十分もしない内に帰ってきてくれたのはいいことだった。
「今日も学人のところでご飯を作ってきたんだ、こっちは自分のためにやっているだけなのになにか勘違いしているみたいで面白かったよ」
「ふふ、嘘をつかないの」
「ほ、本当のことだからっ、自分が困ったときに助けてもらえるようにポイントを貯めているだけなんだよっ」
「そう、それならそういうことにしておきましょう」
あー母のこのわかっているけど細かくは言わないようにしているときの顔が苦手だ。
こんな顔をされるぐらいならさっきみたいに嘘だとかなんとかしつこく言われた方がマシだった。
「あとご飯を作ってくれるのはありがたいけどあなたは休みなさい」
「それなら誰が作るの? 仕事でもっと疲れているお母さんとか言わないよね?」
「お父さんは帰ってくるのが遅いんだから私に決まっているじゃない」
「駄目だよ、そうやって頑張りすぎて体を壊したことがあるんだから認められないよ」
あれのおかげと言ったら微妙だけど家事なんかも覚えてできるようになったから助かっている。
とにかく、母がまた無理をしたら嫌だからこれからもやっていくことには変わりはない。
「あなたってやるなと言うとやると言うわよね」
「あ、天邪鬼じゃないし」
「でも、いつも助かっているわ、本当にありがとう」
こういう顔もぐわあ! となるから苦手だ。
でも、自分でコントロールできるようなことでもないからこのままでよかった。
午前中の授業が終わったのに動く気にならない、いつもであればやっとお昼休みだと飛び出していくぐらいなのにそうしようとする自分が現れないのだ。
「るの? 食べにいかないの?」
「んー君はいってきたらいいよ」
「じゃ、友達と食べてくるね」
これもこっちのことを考えてくれているのはわかっていてもなかなかに複雑だった。
もう少しぐらいは粘ってよ、そういう風に感じているわがままな自分がいる。
「ぐぇ――もうなにぃ……?」
「よう」
「うわ出た、学人ならいっちゃったよ」
彼は
それでも凄く仲がいいというわけではなくて彼は少しだけ距離を置いているからこういう反応にもなる。
「そりゃ見りゃわかる、つかだからこそタイミングをずらしたわけだからな」
「はあ? 仲がいいのになにを言っているの?」
「いや、仲が良くてもずっといるわけじゃないだろ? それより飯食おうぜ飯、早くしないと昼休みが終わっちまうぞ」
「それが動く気になれなくてね。というか、冬なのにそんな髪型で寒くないの?」
野球部に入っているわけでもないのに坊主はね。
彼ぐらいなものだ、物好きだ。
「清潔感があるだろ?」
「でも、全く変わらないのも気になるよ」
短く整えているのはずっとそう。
小学生の頃は無邪気さから毎回触らせてもらっていたけど最近はそうしないようにしていた。
拘りがすごいからとかではなくてなんかそうした方がいいかなと考えているだけだけど。
「じゃ、ここでいいか」
「そうだね、残すわけにもいかないからね」
二人きりではないけどそういう感じになっても別に気まずいわけではない。
ちびちびと食べつつ坊主君を見てみてもなにも変わっていない、だからこそ落ち着くのかもしれない?
「な、今度キャッチボールしようぜ」
「いいけどまともに投げられないよ?」
「相手をしてくれれば十分だ、学人も呼んで三人でやろう」
彼だけが違うクラスだからこっちからいかない限りこうして彼が動くしかないわけだけどその度に「学人はどうした?」と聞いてくるタイプだから面白かったりもする。
学人も彼のことが大好きだからね、三人で幼馴染でも二人となんかよくわからない存在の私に別れている感じすらしてくるね。
「はは、結局君は野球と学人が大好きだね」
「もう本格的にはやっていないけどな」
「足、怪我したからだよね」
「そんな重い感じじゃなくて割とすぐに治ったけどあれから怖くなった、あと怪我をすると治るまでが面倒くさすぎる。ただな、一番は二人が部活をやっていないのに自分だけがやっていたら放置されるかもって不安からだ」
見ているだけでも不便だということはすぐにわかったぐらいだから本人からしたら……。
それよりもだ、一番最後のやつは無理やり付け足したように見えてほとんど本音だろうから笑いそうになってしまった。
「えーそんなに私達と遊びたいのー?」
「そりゃそうだろ、他とは違うんだ」
他とは違う、か。
「でもさ? 私達はまだ高校一年生だし、違う子に一生懸命になったりするようになるんだよね」
「さあな、結局昔もるのがそんなことを言っていたけどるのと学人以外で見つけられたりしてないしな」
「君が一番早そー」
「それなら学人じゃないか?」
「学人が他の女の子に一生懸命に……」
想像しづらいけど優しくできる子だからまあ非現実的なことではない。
少なくとも私に彼氏的存在ができる可能性よりもそっちの方が高いぐらいだ。
「お、想像するだけでショックか?」
「ううん、それぐらいでいいんじゃないかな」
「ま、幼馴染だからってコントロールできるわけでもないしな」
「二人の応援をするよ、私は二人専属のチアリーダー!」
ないな、ない。
まずなにより見た目の良さが足りない、あとはあそこまでの運動能力がない。
寧ろ応援するどころかされる側になりそうな自分がこんなことを言っていることが笑えてくる。
「るのには無理だろ、まずなにより体が硬い」
「はは、それな!」
いいねえ、私はこういうのを求めていた。
だから学人にももっとバンバン言うように求めている。
なのにあの子ときたら……多少強く言われたってそれが正論なら言い訳とかしないけどな。
あと夜は苦手だけどそこまで雑魚メンタルというわけでもない。
関係を壊さないように抑え込むのも場合によっては必要かもしれないものの、もっと出していってほしかった。
「はぁ……はぁ……あーもう! なんで勝てねえ!」
大きな声、それに負けない背の高さ、そういう現実であっても能力によっては負けることだってある。
学人はあくまで余裕な態度で「ふぅ、東だって十分速いよ」と多分いま言われたくないことを彼にぶつけていた。
「はぁ……僕系のくせに俺と身長が五センチぐらいしか差がないのもむかつく!」
「でも、僕は百六十五センチだから、東は百七十センチあるんだからいいでしょ?」
「ギリギリだけどなっ、もっと余裕を持って超えたかったぜ!」
これ――あ、五十メートル走を何回も繰り返している結果だけどよく飽きずにやるなあと思う。
走らなくていいなら走らない人間の私としたらMなのかなと言いたくなる。
「るの、前の勝負から俺って変わっていたか?」
「うーん、寧ろ前よりも遅くなったかもしれない」
「マジか……もうるのが俺を鍛えてくれないか?」
「走ってもいいけどその場合はなにか買ってね」
冬でも変わらずに美味しいアイスとかがいいかな。
自分でお金を出さなくていいのは大きい、なにかがあったときのためにお金は貯めておきたいのだ。
「ならそのかわりにるのは飯を作ってくれ」
「それじゃあ駄目じゃん」
「はは、だな」
なんじゃそれ、いい加減か。
「とりあえず汗をかいたからシャワーでも浴びてくるよ」
「それなら私の家で入りなよ」
「な、なんで?」
「なんでってその方が楽だから? 今日はもうわざわざ学人の家にいって作るのは面倒くさいから食べていけばいいよ」
さっきまでの態度はなんだったのかと言いたくなるぐらいには東も乗っかってきて家にいくことになった。
今日は麺類というわけでもなかったから学人のことも気にせずにご飯を作る。
「へえ、やっぱり上手いよな」
「そうかな、東のお母さんの方が上手だと思うけど」
「そりゃ二倍以上生きているわけだからな、流石に母さんとしても負けたくはないだろ」
彼のお母さんが作ってくれた生姜焼きが本当に美味しくてもう一度食べたかったりもする。
でも、頼むうえに料理を指定するなんてことは流石にできないから一回きりだと片付けていた。
まああれだ、疑うわけではないけどなんでも一回目がいいだけで二回目はそこまで感動しない結果になるからこれでよかったのかもしれない。
「入らせてくれてありがとう、ただ……」
「ん? シャンプーの中身が少なかったとか?」
母は髪が長くて一回の使用時にかなり消費するからそうなぅていてもおかしくはない。
「るののその……服があったんだけど」
「あ、うん、今度着るために洗いに出していたからね」
外はともかく屋内でなら春用の服でも十分だから洗いに出した形になる。
暖房が効いている部屋では半袖でいることも多い私だからその季節用の服なんて決まっていたりはしないのだ。
「そこに……うん」
「どうせパンツでもあったんだろ? るののやつならノーカンだろ」
「そうそう、というかいい加減に慣れなよ」
積極的に見せているような痴女ではないから誤解をしないでほしい。
ただだらしない格好のときもあるというだけだ。
「か、家族でもないんだから慣れないよ」
「ま、パンツはいいから飯でも食おうぜ」
「私はお母さんを待つから二人は先に食べて」
「おう、食わせてもらうわ」
二人がいるときに帰ってきてもらいたいところだった。
そうでもなければまたあの苦手な顔を見ることになる、強くも言えないから部屋で暴れることになるかもしれない。
そうすると家で無駄に疲れることになるから避けなければならない。
「いつもいつもいいのかな」
「じゃあこう考えればいいだろ、るのは練習台として学人を使っているってな」
彼の真似は一生できなさそうだ。
二人きりのときならともかく彼がいようとこうなのだから変わったりするわけがない。
「それでもお世話になりすぎていて怖いんだけど……」
「は? どういうことだ?」
「だってさ、依存しているみたいな状態でるのが急に消えちゃったら僕はやっていけないよ」
「はははっ、大袈裟すぎだろ!」
「お、大袈裟じゃないよ……」
なんでこうなってしまったのか……。
ずっと一緒に過ごしてきたのにまるで違っていて追いつけそうもなかった。
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