第4話

聖飛達は階段を降り切った。そこには薄暗くて見えづらいが地下室があった。

 聖飛は壁面を手探りで触り、電気を付けた。

 電気で部屋中が照らされる。部屋の大きさは上の部屋の二倍ほどあり、5人で使うなら余りあるほどだ。部屋の中央には上の部屋にあった以上の長さのテーブルが置かれており、周りには人数分の椅子がある。

 壁面近くには、本棚や遊び道具などが置かれている。

 壁面には2mほどのダイオウイカの魚拓が飾られている。まさに隠れ家のような部屋。

 聖飛達はテーブルの周りにある椅子に座り、各自自由に行動を始めた。

「……やっぱり、圏外か」聖飛がスマホを操作しながら呟いた。

「見てくださいよ。これ」賢斗はノートパソコンを聖飛に見せた。

「なんだ?」聖飛はノートパソコンの画面を見た。画面には仙石総一郎に関する記事が表示されている。

「仙石総一郎市長。15年を振り返るか」

「たぶん、これからも、この人が市長なんですよね」

「仕方ないだろ。この島の企業の99%は仙石市長のグループなんだから」

「まぁ、そうですけど。僕、昔からこの人好きになれないんですよ」

「分かる。なんか。胡散臭いよな」

「そうなんですよ。聖飛さん分かってる」

「そんな事よりさ。なんで、お前のパソコンは電波繋がってるんだよ」聖飛は賢斗のノートパソコンを指差した。

「SSグループの製品と違う回線を使ってるからです。あと、ここら周辺はなんかSSグループの電波が届かないみたいなんです。昔から」

「意味わからねぇ」聖飛は納得していない。

「聖飛。ユートピアに今度行かねぇか?」直哉は言った。

「ユートピア?なんだそれ」

「あんた知らないの?今度、中央区に出来るアミューズメント施設よ」紅礼奈が話に割り込む。

「そんなの出来るんだ」

「日本一の規模を誇るんだって」葵桜は紅礼奈が言った事の補足説明をした。

「なぁ、行こうぜ」

「どうする?賢斗」

「聖飛さんが行くなら行きます」賢斗は笑顔で答えた。

「じゃあ、行くか。で、いつオープンなんだ?」

「あさってよ」

「それじゃ、あれだ。あさって行こうぜ」

「よし、決まりだな」

 

 日が沈み、夜になった。

 聖飛は4人と別れ、自宅の玄関のドアを開けて、家の中に入った。

「ただいま」聖飛は、玄関の鍵を閉めた。

 リビングの方から、聖飛の母の海野佳奈美が眉間に皺を寄せながら聖飛に歩み寄る。

「あんた、どこ行ってたの?」

「まぁ、そこら辺をぶらぶらと」聖飛は適当に答えた。あの場所を言うのは嫌だし、何よりこのやり取りが面倒で仕方がない。

「嘘でしょ。GPSに表示されない場所に居たのは分かってるんだから」

「GPS?もう、俺、高二だぜ。そんな事して居場所を特定しようとしないでくれよ」聖飛はきつめの口調で言い放った。

「心配だからに決まってるでしょ」佳奈美は声を荒げた。

「大丈夫だよ。俺、もうガキじゃないんだからさ」

「お母さんからしたらまだ子供よ」

「うるせぇな」聖飛は反論した。返す言葉がそれしか浮かばなかった。

「うるさい?親に向かって、その口の利き方はなんなの?」佳奈美の顔は、紅潮している。

「すみませんでした。悪かったです」聖飛はわざとらしく、火に油を注ぐように謝罪した。

「本当に反省してるの?」

「してるよ。してます」

「なんだ。騒々しい」リビングから、聖飛の父・海野卓が現れた。

「貴方、ちょっと聖飛に言ってやって」

「親父助けてくれよ」

「何よ。母さんが悪いって言うの?」佳奈美は聖飛を睨みつける。

「まぁまぁ、落ち着いて。あとで俺が叱っとくから。なぁ」卓は、興奮している佳奈美の肩を優しく叩いた。佳奈美の顔の赤みが徐々に消えていっているのが分かる。

 突然、インターホンが鳴った。

「はーい」

 聖飛は明るい声を出して、ドアを開けた。この嫌な空気を換気出来る。それに人前だったら怒られる事はないだろうと思った。

「どうも」

 外に居たのは発砲スチロールの箱を持った漁師姿の男だった。男の見た目は決して、若くは見えない。おそらく、30代ぐらいだろう。着ている服のせいで、分かりにくいが筋肉質のように見える。

「琥鉄さん」聖飛は、漁師姿の男に向かって、笑顔で言った。とても、嬉しそうだ。

「おっす、聖飛。元気か?」

「うん。どうしたの?」

「今日も大量だったから、御裾分けに来たんだよ」琥鉄と呼ばれている男は、持っている発泡スチロールの箱を地面に置き、蓋を開けた。箱の中には大量の大小様々な魚が入っている。

「マジで。琥鉄さん、神」

「いつもありがとうね。でも、こんなに気を遣わないでいいのよ。お父さんが亡くなったのは貴方のせいではないんだから」

「今の俺があるのは親父さんのおかげなんで。それに自分がしたいからしてるだけですから」琥鉄は、屈託のない笑顔で答えた。

 星野琥鉄は、聖飛の祖父・海野克彰が船長をしていた轟丸の船員の一人だった。

「本当に?」

「はい」琥鉄は、家の前に停めてある車に戻り、ドアを開けて、何かを手に取った。

「どうかしたの?」聖飛は訊ねる。

 琥鉄は車のドアを閉めて、玄関に戻って来た。小さい長方形の箱を右手で持っている。

「ほれ、聖飛。これやるよ」琥鉄は手に持っている箱を聖飛に渡した。

「何これ?」

「開けてみな」

「うん」聖飛は、琥鉄に言われた通りに箱を開けた。

「……ネックレス」箱に入っていたのは、本の形をしたネックレスだった。本の部分は、ヴィンテージ加工されている。

「おう。本の形してて洒落乙だろ」

「うん。マジでもらっていいの?」

「当たり前だろ。」琥鉄は得意げに答えた。

「ありがとう」聖飛はとても嬉しそうにしている。

「ちゃんと、大事に持っとけよ」

「うん。分かった」

「それじゃ、俺はこれで失礼します」琥鉄は佳奈美と卓に向かって、軽く頭を下げた。

「もう帰るの?」聖飛は、残念そうに訊ねた。

「おう。俺も色々と忙しいからな。佳奈美さん、卓さん失礼します」

「気をつけてね」

「またお酒呑みにいこう」

「はい。では」琥鉄は、ドアを閉めた。

 外からは車が去って行く音が聞こえる。

「それじゃ、聖飛。お魚をキッチンまで運んで」

「分かりました」

 佳奈美はリビングに向かった。

 聖飛は靴を脱ぎ、発泡スチロールの箱を持って、家に上がった。

「あとで父さんが母さんのご機嫌とっとくから気にすんな」卓は聖飛に耳打ちした。

「ありがとう。親父」

「おう。でも、何処か寄るなら連絡はしろよ」

「……うん。わかった」

 卓は聖飛より先にリビングに向かった。聖飛は発泡スチロールの箱を持って、リビングに向かった。


 琥鉄から貰った魚をふんだんに使った料理を食べ終えた聖飛と卓はリビングにあるソファに座って、テレビを見ていた。流れているのはニュース番組だ。若い女性アナウンサーと、中年の男性アナウンサーが画面に映っている。

 佳奈美はキッチンで、皿などを洗っている。もう少しで、洗い終わりそうだ。

「あさってから、アミューズメント施設ユートピアが開園します。ユートピアでは若者だけが楽しめるのではなく、高齢者の方々でも楽しめるように世代に沿ったアトラクションもあり、老若男女誰でも楽しめる施設になっているようです。是非皆さん、足を運んでみてはどうでしょうか」女性アナウンサーがユートピアの良さを説明した。

 男性アナウンサーの座っている椅子の前にある長机にスタッフが急いで、原稿を置いた。

 男性アナウンサーは戸惑った様子で、原稿を手に取り、内容を確認し始める。その姿を女性アナウンサーが横目で見ながら、場を繋いでいる。

 男性アナウンサーが内容を確認し終え、険しい表情でカメラの方に視線を送る。

「臨時ニュースです。テロリストによって、海外から人体に害を与える細菌兵器デノイが日本本土に持ち込まれたようです」

「……マジかよ」聖飛は、口を開けて驚いた。信じられない。映画のような事が実際に起こるなんて。それも、自分達が住むこの国で。

「もう一度、お伝えします。テロリストによって、海外から人体に害を与える細菌兵器デノイが日本本土に持ち込まれたようです」男性アナウンサーが同じ文言を復唱した。すると、またスタッフが男性アナウンサーの前の長机の原稿を置いた。

「速報です。仙石市長が細菌兵器デノイについて緊急会見を開くようです」

 テレビの画面が切り変わり、仙石市長が画面に現れた。

「市長の仙石です。テロリストによって、デノイが持ち込まれた事は大変残念な事です。しかし、我々、SSグループはもしもの時の為に極秘裏にデノイのワクチン開発をしていました。そして、つい数週間前にワクチンが完成しました。ワクチンは市民全員分あります。市民の皆さんには無料で予防接種を受けてもらいます。だから、安心してください。そして、みんなでこの脅威を乗り越えましょう」仙石が市民に対し、語り終えると、画面が再び切り替わり、アナウンサーが居るスタジオに戻った。

「市長ありがとうございました。予防接種はユートピアや様々な場所で受けられるようです。予防接種の日程はSSグループのホームページなどで知らせるようなのでご確認よろしくお願い致しますと言う事のようです」男性アナウンサーが落ち着いて、原稿を読んでいる。

「さすがね、仙石市長は。クリティアの誇りね」佳奈美は、皿洗いを終えて、ソファの近くに座り、テレビを見ながら言った。

「そうだな」

「……え?」聖飛は両親の発言を聞いて、困惑した。違和感がありすぎる。あまりにもタイミングが良すぎる。誰もその事に対して疑問を抱いていない。意味が分からない。でも、両親に違和感を言っても、同意を得られない事だけは理解できる。だって、違和感を証明する証拠がない。

 聖飛はどうする事も出来ず、黙り込んでしまった。

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