第3話

午後4時15分。空は茜色に染まりつつある。

 聖飛達は学校を出て、北区の方に向かっていた。

「なんかワクワクする事ねぇかな」

「あんた馬鹿じゃないの」

「なんだと」

「何よ」

 聖飛と紅礼奈は立ち止まって、睨み合っている。普段からこの二人は衝突が多い。周りが迷惑になるほどに。

「紅礼奈!」葵桜が強い口調で、注意した。

「ごめん、ごめん」紅礼奈は葵桜を見て、軽く謝った。

「僕は聖飛さんのおかげで、いつもワクワクですよ」賢斗がニコッと笑う。

「嬉しい事言うじゃねぇか。このやろう」聖飛は満更でもない顔で答えた。ただただ嬉しいのだ。普段回りが出来すぎる人達が多いから、褒められる事が少ない。だから、こう言う小さいことでも褒められると表情に出てしまう。

「だって、聖飛さんが僕に頼む事って、基本違法スレスレですから」

「ごめん。ガチガチ違法だわ」聖飛の顔から笑顔が消えた。賢斗はたまに恐ろしい事を平然と悪気もなく言う。この美少年のような屈託のない笑顔で。その笑顔が狂気の様に見える。

「そうなんですか。まぁ、ハッキングの練習になってるんでいいんですけど」

「賢ちゃんさ。聖飛の無駄なお願いよりも、世の中の為にその才能を使った方がいいわよ。才能は間違いなくあるんだから」

「無駄ってなんだよ」聖飛は紅礼奈に反論した。

「そうでしょ。おかしな事言ってるかな。あんたの悪行みんなに言うわよ」

「……言ってません。言わないでください」聖飛は返す言葉を失った。あまりにも学校での立場が弱すぎのだ。学年一の美女双子姉妹の片割の言葉の方が影響力が強いに決まっている。それに成績も上だからなおさら。

 聖飛はこの一瞬で、スクールカーストの恐ろしさを感じたのだった。

「紅礼奈、知らないの?」

「何が?」

「賢ちゃん。この前、海外の企業からセキュリティソフト開発のオファーがきてたのよ」

「え、マジ?」紅礼奈は驚いた顔のまま、賢斗を見た。

「はい。でも、断りました」

「なんで?勿体無い」

「だって、だるい。かったるい。面倒くさいですから」

「なにそれ」

「そんな事よりも、聖飛さんと一緒に居た方が楽しいんです。だって、聖飛さん。後先考えずに思いつきだけで行動するんですよ」賢斗は嬉しそうに言った。

「……ちょっと待って。俺の事貶してるよな」

「ばれちゃいました?」賢斗は聖飛に何もされないように走り出した。

「このやろう」聖飛は賢斗を追いかける。

「賢ちゃん。やっぱり、少し変わってるわね」

「そうね」

 紅礼奈と葵桜は走っている二人の後をゆっくりと追う。

「捕まえた」聖飛は30メートルほど進んだぐらいの所で、賢斗に追いつき、肩を掴んだ。

「すいません。許してくださいよ」

「仕方ねぇな。データコピーしてもらったしな」

「……よかった」賢斗は胸を撫で下ろした。

「今回だけだからな」

「分かってますって。あ、聖飛さん。この店知ってます?」

 賢斗は目の前にある小汚い店を指差した。入り口の上に設置されている看板には、何でも屋コロンブスと書かれている。店先には様々なガラクタが並んでおり、余程の物好きじゃないと立ち寄らなさそう店だ。

「知らん」

「知らないんだったら教えますね。ここの店、無茶苦茶面白いんですよ。SSグループの製品を全く置いてなくて。店に並んでいる商品全部本土のものなんです。基本中古ですけど。市長に喧嘩売ってますよね」賢斗は目を輝かせながら熱弁している。

 その間に葵桜と紅礼奈は、聖飛達に追い着いた。

 クリティアで流通している食品や電化製品などの様々な物のほとんどがSSグループの商品である。だから、この店のようにSSグループの製品を扱っていない店はクリティア内では珍しいのだ。

「へぇー珍しいな」

「例えばこれとか面白いですよ」賢斗は店先に並んでいる商品を手にとって、聖飛に見せた。

「なんだこれ」

「トランシーバーですよ。映画とかで観た事ありません?離れた場所で連絡取り合う機械です」

「あ、観た事ある」

「他にも面白いものたくさんあるんですよ」賢斗はトランシーバーをあった場所に置き、違う物を見つける為に店先の商品を物色し始めた。

「いいな、この店。気に入った」聖飛も、賢斗と同じように店先の商品を物色し始めた。

 葵桜と紅礼奈は呆れたような顔で聖飛達を見ている。

 ――学生服を着た男が聖飛達に向かって走って来ている。男の頭は両サイド刈っており、中央の髪は後頭部付近に纏めて、ゴムで縛っている。いわゆる、サムライヘアー。そして、かなりのイケメンだ。

 男は聖飛の肩を叩いた。聖飛は振り向く。

「悪い。遅くなった」

「おう。色男の九十九直哉君」聖飛は再び、店先の商品を物色し始めた。

「なんだよ、その言い方」

「モテる男はいいですな」聖飛は皮肉っぽく言った。悔しい。昔から同じように悪さをしているのに直哉だけがモテるのが。

「お前だってモテるだろう」直哉は同意を求めるように葵桜を見た。

 葵桜は顔を真っ赤にして、首を横に振った。

「馬鹿にしてる?まだ一度もモテ期など来たことがありませんが」聖飛は直哉の方を見ないで、不貞腐れながら店先に並んでいる商品を物色している。一度も告白された事はないし、バレンタインだって、母さんと葵桜と紅礼奈がくれる義理チョコしか貰った事がない。それに比べて、直哉は毎週のように違う女の子に告白されるし、バレンタインだって、本命チョコを業者レベルの量を貰っている。はっきり言って、僻んでいるし、羨ましい。

「悪い。冗談」

「冗談は冗談で傷つくわ。で、結果はどうなんだよ?」聖飛は振り向いて、直哉に質問した。

「結果?なんの?」

「告白されたんだろ。4組の八木さんに」

「そう言う事か。振ったよ。タイプじゃなかったから」直哉は当たり前のように答えた。

「あーやだ。タイプじゃないから振るとか。八木さん可愛いのに」

「別にいいだろ。あの子、性格悪いんだよ。お前の悪口とか言ってるし」

「マジか。俺、あの子に嫌われてたんだ。ショック。そして、友達思いの直哉最高」聖飛は直哉に抱きついた。

「抱きつくなよ。気持ち悪い」直哉は抱きついている聖飛の顔を思いっきり掌で押して、離れさせた。

「気持ち悪いって酷いな。俺、自分で言うのもなんだけど顔は中の中だぞ。それに今のは感謝の気持ちを表現しただけなのに」聖飛は言った。自分で中の中って言ったのは恥ずかしいがきっとそうだ。髪の毛もちゃんと毎日セットしてるし、身だしなみには気をつけている。

「うるせぇ。顔の事を言ってるんじゃねぇよ。それに感謝の気持ちを表現するならもっと違う形で表現しろ」

「へいへい。でもよ。お前のタイプってどんな子だ?もの凄くハードル高い気がする」

「え?……面白い子。変わった子かな」

「独特だな。まぁ、いいや。全員揃ったし、早く行こうぜ」

 聖飛達は歩き始めた。


 北区と東区の境にある漁港。現在は殆ど利用されていない。昔、使われていた倉庫が並んでおり、近くには休憩用の小屋が数軒建っている。人影はなく、近くには廃棄場がある。余程の事がない限り、人が寄りつかない場所で有名だ。

 学生服を着た男女5人組みが現れた。聖飛達だ。

 聖飛達は、ボロボロの小屋の前で立ち止まった。

 聖飛はズボンのポケットから、古びた鍵を取り出し、小屋のドアの鍵穴に差して、回した。すると、ドアの鍵が開いた。

 聖飛はドアを開けて、小屋の中に入った。そして、聖飛以外の四人も小屋の中に入る。

 聖飛は全員が小屋の中に入ったのを確認して、ドアの鍵を閉め、その後、電気をつけた。

 部屋の中央には長方形のテーブルがあり、その下には洋風の刺繍が入った赤い絨毯が敷かれている。

 聖飛と直哉がテーブルを持ち上げて、ドアの近くに置いた。そして、賢斗が絨毯を退けた。あらわになった床には隠し扉のようなものがあり、取っ手が付いている。

 聖飛が取っ手を引くと、隠し扉のようなものが開き、地下に通じるであろう階段が現れた。

 聖飛達は普段と何も変わらない表情で、その階段を降り始めた。

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