#7
頭上で騒ぐ目覚まし時計が煩くてゆっくり目を開けた僕は、八つ当たりにも近い強さで鳴り響く目覚ましを掴んだ。
今日は土曜日。
普通なら学校は休みだか、今日だけは違った。
「おーい、螢……早く起きろよぉ!」
意識の遠くで聞こえる昴の声は、期待を抑えきれないと言わんばかりに弾んでいる。
昨日、帰って早々僕に掴みかかって「お前もパンツ見せろ」などと泣きべそかきながら騒いだ迷惑案件を忘れたように清々しい表情の昴は、居ても立っても居られない様子で支度を済ませていた。
薄目のまま「……ん」とだけ答えた僕は寝返りを打ってあいつから体ごと顔を背けるも、遠回しの拒否に気づく事の無い昴は僕の布団を剥ぎ取る。
「はーやーくー!」
グイグイと腕を引っ張る昴を「わかったってっ!」と払い除けた僕は、ぼんやりとした頭を覚ますために洗面台に向かう。
わざと冷たい方に蛇口のコックを捻った僕は冷水で3回顔を洗うと、顔の冷えと共に冴えた頭で気合いを入れる。
──絶対に成功させてみせる。
今までに無いほど突き上げる気持ちに押されるように深く息を吸い込んだ僕に、後ろで立っていた昴が鏡越しにこちらを見つめていた。
「螢、勝負しよーぜ」
「……勝負?」
程よく草臥れて吸水の良くなったタオルに顔を埋めながら聞き返した僕は、何となく昴が次に言うであろう言葉が分かった。
──多分きっと……「どっちのクラスが稼げるか勝負しよーぜ」、だろう。
「おうよ!……どっちのクラスが稼げるか勝負しよーぜ!」
内心、ほらやっぱりとほくそ笑んだ僕は、僕にしては珍しく昴に振り返って目を細めると、「勝ったらどうする?」と問いかける。
「え、勝ったら?……うーん、アイス奢るとか?」
僕の予想外の反応に少し驚いた昴はその場で思いついたであろう戦利品を挙げると、「まぁ俺が勝つだろうけど」と余計なひと言を付け足した。
「ふーん……分かった、勝負しよう」
悪意はなくても昴の言い草が気に入らなかったのは事実で、売り言葉に買い言葉。エンタメ性も薄い僕のクラスの勝率なんて、月とスッポンぐらい差があってたかが知れてる。
それでも、可能性がないわけじゃ無い。
昴は双子の兄で、同志で、少しだけ憧れの存在で、いつも比較の対象で……。今まで同じ土俵に上がって勝負した事なんて一度もない。
でも、今回は負けたく無い。
やかんの湯が沸ける時のようにフツフツと湧き上がる感情を肌で感じた僕は、これが『闘志』と言うものなのだと痛切に感じた。
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