#8

「いらっしゃいませっ!」


 クラスの女子達が丁寧に飾りつけた教室で、黙々と卓上型の鉄板でたこ焼きを焼き続ける僕は、昨日の練習の成果を遺憾なく発揮していた。


 一定温度に保たれた鉄板に油を塗り込み、たこ焼き穴の半分程入るように生地を流し込こむ。


 ジュワァァァ……と音を立てる生地が固まらないうちに刻んだネギとキャベツ、メインのタコと天かすに紅生姜を散らし、外側が固まってきたら穴からはみ出した生地ごと竹串で丸めて穴をなぞるように回す。


 最初は焦げるのが怖くて、生地が固まり切らないうちに触って形を崩していた僕も、コツとタイミングさえ掴めばそれなりの出来栄えになる。


 味付けは王道のソース、あっさりめの醤油マヨ、変化球の塩コショウマヨの3種類で、ふわふわと漂う粉もの独特の香りと湯気が立つたこ焼きは、プラスチックパックに8個ずつ詰めてお値段450円。


 材料費と売り上げのバランスを考えた金額設定だが、文化祭の雰囲気のなかで熱々を食べれることを考えると、僕的にはそれなりにお得だと思う。


「螢君、塩コショウマヨ追加で!」


 クラスメイトの女子が僕を呼ぶ。


「はい!」と元気よく返事を返したものの、僕は彼女の名前すらよく覚えていない。


 別に興味がないわけでは無いが、基本今までの僕の人生に恋愛なんてものは守備範囲外だった。


 そりゃあ幼稚園ぐらいの頃に「〇〇ちゃんと結婚する」なんてほざいていた時期もあったが、それはとうの昔に黒歴史として胸の奥で破棄してある。


 ──そういえば……白、元気にしてるかなぁ?


 何故かふと浮かんだ純白の狐神を思い出した僕は、動揺のあまり竹串を折ってしまった。


 いやいやいやいやいや……!


 アレは無いだろ?!

 あんな自分勝手で傲慢な……それもふわふわで意外と可愛いところもあって、それもキスまで……って、おい!!


 ぐるぐると綯い交ぜになった感情の糸は、こんがらがるたびに僕の脳内に白を呼び戻す。


 ──『あぁ……我の事は好きに呼ぶと良い』


 ──『ふん……っ、まぁ、螢がそれが良いと言うなら構わんが……』


 ──『簡単なことさ!……我の為に雅楽を作ってくれ』


 ──『あれは冗談のつもりだったが、まさか本気にしていたとは……』


 様々な表情で悪態を吐いたり、時々照れてみたり……。


 ──『我は、この社に千年も封印されている』


 あの時そう言った彼女の表情は、酷く打ちのめされている気がした。


 ──そのおかげで僕はメンバーと向き合って、『雅』を作ったんだっけ……?


 結局、何だかんだ言って白の言葉に左右されている自分が悔しくて、僕は苦々しく頭を抱えた。

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