#3
「最近の先輩達、仲良いですよねー」
早速出来上がった楽曲のお披露目会を開いた新井家自室にて、小さな机を男子高校生4人で囲むと、柳田君が冷やかす様にニヤついた。
「まぁな!」
相変わらず自信満々に答えた昴は誇らしげに胸を張ると、母さんが「どうも〜」と人数分のお茶を運び、それに気付いた岡部先輩が会釈する。
「まさかうちの子が、こんなにもお友達を連れて来るなんて……昴はちょこちょこ連れて来てたけど、螢にもちゃんとお友達がいたのねぇ」
ホホホと笑いながら僕をディスる母さんには悪いが、余計なお世話だ。僕だって友達の1人や2人ぐらい居る……と信じたい。
「昴も螢も良いメンバーです……それは俺が保証します」
淡々と答えた岡部先輩の顔は相変わらず無表情に近いが、その言葉には紛れもなく温かみを帯びていた。
「あら、そうかしら」
岡部先輩の返答を意外そうに笑った母さんは、「ところでどうです、うちの子……足とか引っ張ってません?」と言葉を重ねる。
「「もういいから、母さん!」」
昴と声を揃えて母さんを部屋から追い出そうとする様子を、柳田君は微笑ましそうに眺める。
「あらあら……ごめんなさいね、邪魔しちゃって」
悪びれる様子のない母さんは、嬉しそうに顔を綻ばせながら部屋を後にした。
「っ……たく、螢の事になるとすぐ出てくる」
昴は冗談ぽく悪態をついてお茶を一口飲んで、「本当、過保護なんだよなぁ」と笑った。
「でも、なんか……ちょっと羨ましーな」
優しそうに笑う柳田君は行儀良くお茶のグラスを両手で持って、「いただきまーす」とガラスの淵に口をつける。
「羨ましい?どこがー??」
「多分普通の『お母さん』だと思うけど」
半分批判にも近い声を兄弟揃って上げると、柳田君はグラスを静かに置く。
「僕ん家、離婚してるんですよねー。母は仕事でいつもいないし……だから、なんか良いなーって」
少し寂しそうにグラスを見つめた柳田君は、「まっ、別によくある話ですけどねー」と気丈に振る舞うと、大きく背伸びした。
机の上に置かれた彼のグラスは、背丈の半分程のお茶を孕んでは僕らを睨み返す。こんなにも苦々しいお茶を見るのは、生まれて初めてだ。
「じゃあ、いつでもウチに遊びに来いよ!」
室内の時を動かしたのは、昴だった。
「基本母さんも螢もいるし、練習がてらいつでも来いって!……そしたら俺も楽しいから」
「……お邪魔じゃないですか?」
「おう!」
とびきりの笑顔で親指を立ててグッドサインを送る昴に柳田君は釣られて笑うと、「……ありがとうございます」と小さく吐き出した。
「練習なのか?」
相変わらず真顔の岡部先輩も口元を少しだけ緩めると、昴は「そうです!先輩も良ければッ!」と張り切る。
──あぁ、本当に僕らは『メンバー』なんだな。
辛い時も、楽しい時も。
時間を共にできる仲間。
「じゃあ、明日からウチに集合で!」
勢いよくお茶を飲み干した昴は右手で拳を使って僕らの前に差し出すと、同じように拳を出すように目で合図をする。
4人の拳が軽く触れた時、何モノにも変え難い繋がりを感じたのは──きっと僕だけじゃない。
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