Lesson5
Vocal
#1
夏休みが明けてしまえば、学校で賑わいをみせるのは文化祭の話ばかりだった。
うちの学校の文化祭は土日の2日間、クラスや部活、有志で催し物を行うのが通例になっている。ちなみに軽音部のライブは最終日の夕方で、中庭に設けられたステージで文化祭のフィナーレを飾るのもお決まりだ。
「なぁ螢、何でお前のクラスたこ焼き屋なんだよぉ」
「……多数決の結果だね」
「えーー!文化祭だぞ?ほら、喫茶店とかもっと華やかなのいっぱいあるじゃん?!なのに、たこ焼きって……ははっ地味だわー」
確かに地味ではあるが、僕としてはその地味さに親近感と安心感があるので、張り切って屋台に一票を投じた事は昴には内緒だ。
「でも経営として上手くいくかなんて分からないし……資金の割にリスクが……」
「んなもん、巻き上げるのが実力ってヤツだろーよ」
当たり前のようにそう言い放った昴は、「ま、うちのクラスは喫茶店は喫茶店でも、メイド喫茶だけどな」と苦笑いにも近い自嘲的な笑顔を浮かべる。
「メイドって……男子はどうするの?」
「えぇ?聞こえない」
耳に指を突っ込んで戯けてみせた昴の表情は険しく、苦虫を潰したような表情のまま「何で女装なんだよ」と溜め息混じりに吐き捨てた。
「マジで?!……カメラ持ってこ」
「うっわ、殴るぞ」
「やれるもんならどーぞ?」
ケタケタ笑いながら歩く僕らの後ろから「センパーイ」と呑気な声と忙しない足音が聞こえ、僕らはほぼ同時に振り返る。
「うるせーな」
「どうした?」
声の主は予想を外す事なく柳田君で、肩で息をしながら「なんか天使と悪魔の囁きみたいですねー」と茶化す。
「何で1年がここに居るんだよ」
「そりゃあ僕の通っている学校なので、1年も廊下を彷徨くでしょーね」
「おうおう……相変わらず生意気だなぁ」
「褒め言葉として貰っときまーす」
仲が良いのか悪いのか……僕は2人の軽快なやり取りをぼんやりと見つめていた。
「てか、何の用事だよ?」
「えっ?ほら、文化祭の出し物何になったかなぁーと思って」
「げッ……お、お前は何やるんだよ」
「げッ、って?……僕んところはお化け屋敷でーす」
能天気な口調のまま柳田君は「まぁ、僕は呼び込みしかしませんけどね」と呟くと、昴は「もしかして怖いのかぁ?」とニヤつく。
「ち・が・い・ま・すーっ!……別に暗くて狭い場所が苦手なんじゃ無くて、ただ単に煩いのが嫌いなんですぅ!」
「つまり怖いんだな?」
形勢逆転とばかりに柳田君を嬲り出した昴は、調子に乗ってアレコレと小言を投げ掛ける。
「じゃ、じゃあ!そう言う偽善者ニキはどうなんですかっ!」
「お、俺の事はいいんだよ」
あからさまに狼狽する昴を目尻に、僕は「メイド喫茶だって」と柳田君に加勢した。
「メイド喫茶……?ひゃはははぁ!先輩も人のこと言えないじゃないですかー」
ほんの一瞬、大きな目をパチクリさせた柳田君は文字通り腹を抱えて笑い出すと、息も絶え絶えになりながら昴を揶揄する。
「おい螢!何で言っちゃうんだよぉ」
ブーブーと文句を垂れる昴は僕に縋るように抗議の声を上げたので、僕は「なんとなく?」と吐き出して笑うのを我慢して昴に答えた。
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