第3話

ストーンショップ・ルメルドの前にパトカー数台が停まっている。

 パトカーから警察達が降り、店のドアを開けて、店内に入って来た。

「失礼します。通報があってきました。皆さん、ご無事ですか?」

 警察の一人が店内に居る人達に訊ねた。

 店内に居た人達は無言で頷く。

「犯人はこいつらです」

 俺は紐で縛った覆面を被った男二人を指差した。男達はまだ気絶している。

「……ありがとうございます」

 警察達は覆面を被った二人のもとへ歩み寄り、男達の覆面を剥がした。露わになった男達は強面だがどこか抜けている顔をしていた。

「今日は本当にありがとうございました」

 ふくよかな男が頭を下げてきた。

「いえいえ、こいつのお手柄ですよ」

 俺はエマが被っている赤色のベレー帽を撫でた。このベレー帽の正体はキッキ。

「この狐さんのおかげもありますが、貴方が身体を張ってくれたおかげでもあります。本当に感謝しきれないほどです。もし、よろしければお礼をしたいのですが」

「お礼なんていいですよ」

「いえ、させてください」

 ふくよかな男はスーツのチケットポケットから名刺入れを取り出した。そして、名刺入れを開けて、中から名刺を一枚手に取り、渡してきた。

 俺は咄嗟に名刺を受け取った。ここで受け取らないのは相手に悪い。

 名刺の表側にはボイド・ムーアと言う名前が書かれていた。

「……ボイドさん」

「はい。後ろには電話番号とメールアドレスが書いてあるので何でも連絡ください」

「……はぁ」

「お名前をお聞きしてもよろしいですか?」

「……ジェード・ドレイクです」

「ジェード様ですね」

「様はやめてください。そんな大層な人間じゃないんで」

「命の恩人ですから」

 どうしよう。こう言うのは苦手だ。どうすれば話を終わらせることが出来るんだ。

「ねぇねぇ、ジェード」

 エマが俺の服の袖を掴んできた。ナイスタイミングだ。わが娘よ。何か後で奢ってあげよう。

「どうした?」

「……じかん、だいじょうぶ?」

「……じかん?」

 俺は時間を確認する為に腕時計を見た。腕時計の時刻は10時30分を示している。

 ……ちょっと待てよ。電車の発車時刻は10時50分。あと、発車まで20分しかない。

急がないと電車に乗り遅れてしまう。

「行くぞ。エマ、キッキ」

「……うん」

 俺はエマの手を掴んだ。

「すいません。あとでご連絡させていただきますので」

「どうしたんですか?」

「行かないといけない場所があるんです。それでは」

 俺はボイドさんに頭を下げ、ドアを開けて、外に出ようとした。

「ちょっと、君、まだ事情聴取が残ってるから外に出ないでくれ」

 警察の一人が呼び止めてきた。

「なんだと?」

 こっちは急いでいるんだ。止めるなよ、このやろー。こんな事、元警察が思ったら駄目なのは分かっている。でも、昔は昔。今は今。俺は今、記者をしている。そして、発車時刻が刻一刻と迫ってるんだよ。

「はぁ?」

「仕事から帰って来たら何時間でも事情聴取受けてやるから」

「何を言ってるんだ」

「急いでいるんだ。こうしてる間にも発車時刻が迫ってるんだよ」

「そんなわがまま聞けるわけないだろ」

「……あぁ、埒が明かない」

「……ジェードさん?あ、やっぱり、ジェードさんじゃないっすか」

 言い争っている警察ではない警察が近づいて来た。

「……もしかして、ダレスか?」

「はい。ダレスです。懐かしいっすね」

 近づいてきた警察は俺が国際警察になる前の警察時の後輩だった。15年ぶりの再会だった。

「懐かしいな……てっか、それどころじゃなかった。今すぐ、駅に向かわないと電車に乗り過ごしてしまうんだ。頼む。行かせてくれ。あとで、事情聴取は何時間でも受けるからよ」

「いいっすよ。行ってください」

「……本当にいいのか?」

「はい。大丈夫です」

 ダレスは軽く頷いた。

「ダレスさん。困りますよ。勝手な事されちゃ」

 俺を呼び止めようとした警察がダレスに言った。

「うるさい。俺がいいって言えばいいの」

「そんなのありですか?」

「ありなの。ありなんです」

「えーそんな無茶苦茶な。おかしいですよ」

「だまらっしゃい。ジェードさん行ってください。後の事は俺がどうにしとくんで」

「そうか。悪いな。じゃあ」

「仕事頑張ってください」

 ダレスはニコッと微笑み、サムズアップしてきた。

「ありがとう」

 俺達はドアを開けて、駅に向かう。

 全速力で行けば発車時間にはギリギリ間に合うはずだ。頼む、もってくれ。俺の足腰、そして、体力。

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