第3章 走査線 :3-10 行き詰まる捜査会議

警視庁捜査一課の会議室では、志村が部下たちを集め、最新の捜査状況について報告を受けていた。部屋には重い緊張感が漂い、捜査員たちの顔には疲労の色が見えた。これまで調査の進展があまりない。志村だけでなく、捜査員からも焦りが伝わってきた。


「皆、これまでの調査で新たに分かったことを報告してくれ。」志村はホワイトボードの前に立ち、全員に目を向けた。


田口翔が資料を手に立ち上がった。「まず、翔太君の事件に関する追加の目撃証言が得られました。当日犯行現場付近で、近くを歩いていた酔っ払いの証言です。翔太君のアパートから二人の人影が出てくる様子を目撃しています。二人の人物はローブを着ていたようで、一人は黒、一人は赤のローブだったとのことです。」


この証言にはチームがざわついた。今まで怪しかっただけの黒いローブの存在が、明確に翔太の事件と結びついたのだ。


「黒と赤のローブか…。今まで黒だけだったが、赤もいるとはな。」志村が言葉を続けた。「何か役割の違いがあるのか。どちらかが指示役か、それとも別の何か…」


風間直子が「赤のローブについて他の事件で目撃情報がないのはなぜでしょう?」と疑問を投げかけた。


「それは特別な人物だからかもしれないし、単に目撃者がいないだけかもしれない。」志村が応じた。「他の類似現場で目撃されたローブの人影についての追加情報はあるか?」


八神真一が手を挙げて報告する。「いえ、こちらは特に進展はありません。赤いローブの目撃情報も入ってきていません。」


「カルト教団とみるべきではないでしょうか。」田口が口を開いた。「儀式的な要素や組織的な動きから見て、カルトの可能性が高いと思います。」


「確かにその可能性はあるが、決めつけるのは危険だ。」志村が反論する。「カルト教団に目を向けさせるための誘導かもしれない。もう少し広い視野で考えよう。」


「しかし、被害者たちに共通点がないのが気になります。」八神が続けた。「どういう組織が関わっているのか、まったく見当がつかない。」


「組織的な犯行であることは間違いないだろうが、その組織の目的がわからない限り、手がかりを掴むのは難しい。」志村が腕を組みながら言った。「もう一度、被害者の背景を洗い直してみよう。そこに共通点が隠れているかもしれない。」


会議室の雰囲気がさらに重くなる中、風間が話題を切り替えた。「宮崎翔太さんの事件現場付近で、同時刻に不審な車が目撃されています。黒のバンで、ナンバープレートは覆い隠されていましたが、特徴的な傷がありました。」


「どんな傷だ?」志村が掘り下げる。


「右前方のバンパーに擦ったような跡があります。黒い車体ですから結構目立ちます。同じ個所を違う方向から2回擦ったようで、向きが異なる傷が残されています」風間が詳細を述べた。


「その車が移動手段かもしれない。特定できれば大きな手がかりになるな。」志村が言った。「周辺の監視カメラの映像から、行き先が特定できないか当たってみてくれ。」風間に継続調査の指示を出す。


「それで、インクの成分については分かったことはあるか?」


杉本洋介が資料を見ながら話し始めた。「興味深いことに、非常に希少な化学物質が含まれていることがわかりました。この成分は通常、特殊な印刷や極秘文書の作成に使われるもので、市場にはほとんど出回っていません。」


「その化学物質の供給元を調べれば、手がかりが掴めるかもしれないな。」志村は腕を組んで考え込んだ。「具体的にどの企業が扱っているのか、リストアップしてもらおう。」


「了解しました。ただ、なにぶんマイナーなものなので、大手はともかく中小まで調べるとなると少し時間をください。」杉本が応える。


「その間に他の手がかりを探しておきましょう。」田口が提案した。


「そうだな、他に何かあるか?」志村が全員に目を向ける。


会議室に重い沈黙が流れる。少しずつ情報は更新されていくが、核心に近づいている感覚はない。黒と赤のローブ、不審なバン、特殊なインク。不気味な存在が見え隠れしているだけだ。


そのとき、志村の携帯電話が鳴り響いた。志村は電話の画面を確認し、少し驚いた表情を見せた。「ちょっと失礼する。」志村は電話を取り、会議室の外に出た。


「もしもし、志村です。」

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