第3章 走査線 :3-11 廃工場
剛志、彩音、美咲の三人は北山公園近くの廃工場に到着した。廃墟のような建物は不気味にそびえ立ち、周囲は静まり返っていた。風が吹き抜けるたびに錆びついた鉄扉が軋む音が響き、彼らの緊張をさらに高めた。
「ここか…」剛志は廃工場を見上げながら呟いた。古びた看板には「北山工業」とかすれた文字がかろうじて読み取れた。
廃工場は、年月を経て荒れ果てた姿を晒していた。錆びた鉄骨がむき出しになり、所々崩れかけた壁には黒いカビが広がっている。窓ガラスはほとんどが割れており、風が吹き抜けるたびにガラスの破片がカタカタと音を立てて揺れていた。工場の周囲には雑草が伸び放題で、入り口付近には不法投棄されたゴミが散乱している。
「気をつけて。中に何があるかわからないから。」彩音が警戒心を持って言った。彼女の声は、静寂の中で不自然に響いた。
「分かってる。美咲さん、行きましょう。」剛志は美咲に微笑んで見せたが、美咲は無言で頷いた。彼女の顔には緊張と恐怖の色が見え隠れしていた。
三人は慎重に建物の中に入った。内部は薄暗く、埃とカビの匂いが漂っている。古びた機械や破れた窓ガラスが無造作に散らばっており、長い間放置されていたことが窺えた。壁には不気味な落書きが施され、天井からは腐った天井板が今にも落ちそうになっていた。床には油や何かの液体がこぼれた跡があり、滑りやすくなっている箇所もあった。
「何か手がかりがあるかもしれない。」剛志は懐中電灯を使いながら、細かく探し始めた。懐中電灯の光が暗闇を切り裂き、影を作り出しては消える。その影が動くたびに、何かが潜んでいるのではないかと不安を掻き立てた。
剛志はまず、廃工場の隅にある古びた作業台に目を向けた。作業台には古い工具や部品が散らばっており、彼はそれを一つ一つ確認したが、特に目新しいものは見つからなかった。埃をかぶった古いマニュアルや使い古された手袋ばかりだった。
「こっちには特に何もないわ。」彩音は廃材の山を避けながら言った。彼女も懐中電灯を持ち、周囲を警戒しながら進んでいた。彼女の光が廃材の中を照らすと、ただの錆びた鉄くずや木片が目に入った。どれも廃工場に残された無価値なガラクタばかりで、手がかりになりそうなものはなかった。
「こんなところに何か重要なものがあるとは思えないわね。」彩音がため息をつきながら言った。
「そうだな、見落としがないようにしよう。」剛志は慎重に周囲を見渡しながら答えた。
その時、美咲が突然声を上げた。「剛志さん、彩音さん、ここに来て!」
二人は美咲の元に駆け寄った。美咲が指差す先には、床に描かれた蛇のシンボルがあった。それは赤いインクで描かれており、見た瞬間に不気味さを感じさせた。インクはまだ乾ききっておらず、最近描かれたものであることがわかった。
「これは…」彩音は息を吞んだ。
「確かに、夢で見たシンボルと同じだ。」剛志は静かに言った。
「ここが何かの重要な場所かもしれない。」剛志は決意を新たにし、さらに奥へ進むことを決めた。シンボルが示すものを探るため、彼らはさらに深く、廃工場の闇へと足を踏み入れた。
そのとき、突然背後から足音が聞こえた。カツ、カツ、カツ。一人ではない。
「誰だ!」剛志が警戒心を持って叫びざまに振り返ったが、薄暗い工場内には何も見えなかった。
しかし、すぐに足音の正体が姿を現した。数人の紫のローブを纏った人物たちである。彼らは手に武器を持ち、徐々に三人に近づいてきた。
「気をつけて!彼らが襲ってくる!」彩音が叫んだ。
剛志は身構え、ローブの人物たちに対抗しようとした。相手は三人で、剛志に対して円を描くように包囲してきた。一人が短いバトンを振り上げて突進してきたが、剛志は素早く身を翻してかわし、相手の腕を掴んで強く引いた。バトンを持った男はバランスを崩して転倒し、剛志はすかさずもう一人の男に向かって突進した。
しかし、二人目の男は巧妙に剛志の動きを予測し、ひらりと体をずらしざまに側面から打撃を加えてきた。剛志は脇腹に痛みを感じながらも、そのまま相手の胸を強く押し返し、距離を取った。すると、三人目の男が背後から襲いかかり、剛志の背中に打撃を加えた。剛志は苦痛に顔をしかめながらも、そのまま反転して背後の男にエルボーを食らわせたがクリーンヒットとはいかなかった。
「くそっ…!」剛志は息を整えながら、再び構えを取った。相手の連携は見事であり、彼一人では対抗しきれないのは明白だ。
「これまでか…」剛志が心の中で諦めかけたその瞬間、工場の入り口が突然開き、志村率いる捜査チームが現れた。
「警察だ!全員動くな!」志村が名乗りを上げ、捜査員たちが突入してきた。
紫のローブの人物たちは一瞬ひるんだが、すぐに催涙弾を投げて混乱を引き起こした。廃工場内は煙が立ち込め、視界が遮られる。
「剛志さん、危ない!」彩音の叫び声が響く。突然美咲が背後から剛志に襲いかかり、彼を地面に押さえつけたのだ。
「美咲さん、何を…?」剛志が驚きの表情で美咲を見上げた。
「ごめんなさい、剛志さん。でも、これは仕方ないの。」美咲は冷たい目で言い、紫のローブに目配せして、剛志を拘束させた。
「逃がすな!」志村が指示を飛ばし、捜査員たちが美咲を追う。しかし、紫のローブ達が巧妙に捜査員たちを妨害した。紫のローブのうちの一人は捜査官八神が抑え込んだが、そのスキに美咲と残りの紫のローブは剛志を連れて廃工場の奥へと逃げ込んだ。
「剛志さん!」彩音が叫び、必死に追いかけようとするが、捜査員たちに制止される。
「危険だ、今は我々に任せて。」志村が冷静に言った。
混乱の中、美咲は剛志を連れて廃工場の裏口から姿を消した。剛志は紫のローブ二人に拘束されており、抵抗することはできなかった。
「いったいどこに連れて行くつもりだ?」剛志は廃工場のそばに止められた黒いバンに乗せられ、夜の闇に消えていった。
剛志が拉致されたことで、廃工場の調査は中断され、捜査チームと探偵チームは急遽再集結することになった。彼らは剛志を救出し、美咲の真意を探るために、次なる行動を考える必要に迫られていた。
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