第3章 走査線 :3-6 情報提供者との接触

翌日、神崎は単独で蛇のシンボルについて話していたネット住民との面会に向かうことになった。約束の場所に到着すると、そこには30代後半の男が待っていた。場所は海沿いの開けたカフェで、夜はバーにもなるおしゃれな店だ。見晴らしがよく、周りの様子がよく見えるため、逆に周りからもこちらの様子がよく見えるともいえる。


「初めまして。神崎と言います。」神崎は礼儀正しく挨拶した。


「秋山です。」男は軽く頭を下げた。小太りで眼鏡をかけており、見た目はどこにでもいそうなパッとしない感じだが、その目はどこか鋭さを秘めている。


「早速ですが、掲示板で話していた蛇のシンボルについてお聞きしたいのですが。」神崎が話を切り出すと、秋山は少し警戒した様子を見せた。


「そうですね…。最近、夢の中でそのシンボルをよく見かけるんです。」秋山は静かに話し始めた。「二匹の蛇が絡み合っていて、不気味な感じです。」


「その夢を見るようになったのはいつ頃からですか?」神崎はメモを取りながら尋ねた。


「多分、1ヶ月前からです。」秋山は首を振った。「特に思い当たることはありません。ただ、夢を見る頻度が増えてきているような気がします。」


「ところで、神崎さんはどうしてこのシンボルについて調べているんですか?」秋山が尋ねた。


「ちょっとした興味からです。」神崎は軽く答えたが、秋山の追及は続いた。


「具体的にはどんな興味ですか?個人的な理由ですか?それとも何かの仕事で?」


「まあ、仕事の一環でもありますが、個人的にも興味があって。」


「なるほど…。その仕事っていうのは、どういう関係なんですか?」ねちっこく秋山が食い下がる。


神崎は秋山の態度に違和感を覚え、内心葛藤していた。なんだこの男は、そんなにこちらの動機を執拗に聞きたがるものだろうか。しかし、ここで答えなければ情報を引き出せないかもしれない。神崎は一瞬迷ったが、あいまいに説明することにした。


神崎は警戒心を高めながらも、冷静に答えた。「探偵事務所で働いていて、ちょっとした調査の一環として調べています。」


「探偵事務所ですか…。どういった調査なのでしょう?」秋山が食い下がる。


「実はクライアントの友人が2週間前にある事件に巻き込まれてしまったんです。その現場に例のシンボルが残されていたんです。」


「そうなんですか、それは大変ですね。」秋山はそれ以上の追及はしてこず、神崎の回答に満足したかのように代わりに興味深い情報を話した。「実はうわさで聞いたのですが、町に例のシンボルを残している回っている連中がいるみたいなんです。そいつらは黒いローブを着て現れるらしく...。」


「秋山さん、その話詳しく。」神崎は身を乗り出した。無関係とは思えない二つのキーワードが同時に出てきたのだ。


「いや、うわさを聞いただけなので、そんなに詳しくはないんですけど。ただ、そいつらは今ある若い女性の行方を捜しているらしいんです。ミサキと呼ばれているみたいなんですけど。」


「ミサキですか。」神崎の頭に御堂美咲が連想された。


「どうやら神田町のあたりによく黒いローブは現れるみたいです。もしかしたらミサキもそのあたりにいるのかもしれません。」秋山が小声でささやくように話した。


「情報提供感謝します、秋山さん。」神崎は秋山に礼を告げると、その場を切り上げることにした。会合は20分ほど続いたが、これ以上引き出せる情報はなさそうだった。


「こちら、協力費です。」神崎は秋山に封筒を手渡した。中には約束の金額が入っている。


「ありがとうございます。少しでもお役に立てれば。」秋山は礼を言い、封筒を受け取ると立ち去った。神崎はその後姿を見送りながら、改めて自分が得た情報を整理し始めた。


神崎は夕方には事務所に戻り、すぐに久保田と剛志、彩音に報告を始めた。「今日の面会で得た情報はこれです。」神崎はメモを見せながら話を続けた。


「ミサキ...。御堂美咲でしょうか。」剛志が皆を代弁するように言った。


「そうかもしれない。でもそもそも出所も怪しいうわさ話だからな...。」神崎はうなった。


久保田は腕を組んで少し考え込んだ後、口を開いた。「でも、調べないわけにはいかないでしょう。特に御堂美咲が関わっている可能性があるなら、見過ごすわけにはいかない。」


彩音もその意見に同意し、提案した。「私と剛志さんで明日神田町で聞き込みをしてみます。具体的な手がかりを探す必要がありますから。」


剛志はその提案に頷いた。「もちろん。美咲さんの行方がわかるなら、どんな手がかりでも追いかける価値があります。」


久保田は二人の決意を見て、深く頷いた。「分かりました。二人で気をつけて調査を進めてください。何かあったらすぐに連絡すること。」


こうして次の調査方針が決まり、その日は解散となった。

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