第3章 走査線 :3-3 因縁の再会

警視庁捜査一課の会議室にて、志村誠は部下たちを集めて会議を開いていた。部屋の中には重い緊張感が漂っている。翔太の事件についての新たな情報がもたらされることが期待されていた。


「皆、これまでの捜査でわかったことを報告してくれ。」志村はホワイトボードの前に立ち、全員に目を向けた。その目には決意と焦りが入り混じっていた。


田口翔が資料を手に立ち上がった。「まず、翔太君の死亡推定時刻が判明しました。金曜日の夜中です。おそらく深夜2時頃と思われます。」


志村は頷き、メモを取った。「なるほど。では、その時間帯のアリバイや目撃証言についても再確認が必要だな。」彼の声に田口は深くうなずく。志村と田口の間の信頼が垣間見えた。


風間直子が続けて報告した。「また、シンボルが残っていた5件の類似事件の現場近くで、たびたび黒いローブの人影の目撃証言が得られました。これらの証言はすべて独立しており、時間帯も異なるため、同一人物かどうかは断定できませんが、何か関係があるかもしれません。」


「黒いローブの人影…これも重要な手がかりだな。」志村は腕を組んで考え込んだ。部屋の中は静まり返り、捜査員たちの緊張が伝わってくるようだった。


「また、被害者の恋人である御堂美咲がまだ見つかっていません。ここまで見つからないとなると、潜伏しているか、何らかの事件に巻き込まれている可能性が高いです。」風間が引き続き報告する。


「御堂美咲…。この事件において重要なカギを握る存在だ。なんとしても行方を追ってくれ。」志村の期待に風間が深く頷く。


八神真一が資料を見ながら報告を続けた。「現場近くの住民から得られた目撃証言によれば、その人物は夜遅くに現れることが多いようです。また、顔を隠しているため、特定は難しいですが、かなり目立つ存在です。」


杉本洋介が続けて報告した。「既存の暴力団、カルト教団、半グレチームなど反社会的な組織と例のシンボルを照合しましたが、関連が見つかった組織はありませんでした。」


「新興の組織のものかもしれん。引き続き頼む。」志村は杉本の目を見て次の指示を出す。


一通り報告を聞いた後、志村は深く息を吸い込み、部下たちに向かって言った。「皆、焦りは禁物だ。確実に一歩一歩進めていこう。この黒いローブの人物についての情報収集も重要だ。引き続き聞き込みを継続し、何か新しい情報が得られたらすぐに報告してくれ。」


捜査員たちは一斉に頷き、それぞれの任務に戻っていった。志村はデスクに戻り、自分に言い聞かせるように心の中で呟いた。「この事件を解決するためには、どんな小さな手がかりも見逃してはならない。」


志村の元に田口が戻ってきた。「志村さん、実は、今日の昼間、現場の近くで鏑木らしき人物を見かけたんです。」


志村は驚きの表情を浮かべた。「鏑木を?あいつが…」


「確証はないんですが、あの独特の雰囲気と顔つき、間違いないと思います。あいつがまだ潜伏している可能性があります。」


志村は過去の記憶が甦るのを感じた。鏑木との因縁は深く、当時志村が所属していた捜査二課にとっても特別な案件だった。「鏑木が再び姿を現すとは…」志村は複雑な表情で言った。「詐欺グループの件で、多くの人が被害に遭った。お前の同僚も殉職した。あいつには特別な因縁がある。」


田口も当時は志村と同じく捜査二課に所属していた。田口は真剣な眼差しで答えた。「はい、志村さん。俺もそう思います。今回の事件とは直接関係ないかもしれないが、警戒しておくべきです。」


志村は深く頷いた。「そうだな。鏑木が絡んでいるなら、何か大きな陰謀が動いている可能性がある。引き続き情報を集めて、あいつの動きを見張ろう。」


志村と田口は不穏な直感を胸に、捜査を続ける決意を新たにした。その目には、再び鏑木と対峙する覚悟が宿っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る