第3章 走査線 :3-2 探偵事務所での会議
夕方、剛志と彩音は美咲の友人である岡田美紗の家を後にし、久保田探偵事務所に戻った。事務所に入ると、神崎がデスクでパソコンに向かって作業をしていた。キュミちゃんはキャットタワーでうたた寝していたが、二人の帰還に気づいて耳をピクリと動かした。
「ただいま戻りました。」彩音が事務所のドアを開けながら声をかけた。
「おかえり。どうだった?」神崎は手を止め、二人を見上げた。
「少しだけ手がかりがありました。」彩音は手に持っていたメモを神崎に見せた。「美咲さんが最近よく通っていたバーの名前と場所、それから彼女が夢で見ていたというシンボルの話です。」
「夢で見ていたシンボル?」神崎は興味深そうに眉を上げた。
「はい、二匹の蛇が絡み合っているマークだそうです。剛志さんも同じシンボルを夢で見ているんです。」彩音が説明すると、神崎は真剣な表情になった。
「なるほど。実はその間に俺も少し調べてみたんだ。」神崎はパソコンの画面を見せた。「蛇のシンボルについて会話している掲示板があり、その中で蛇のシンボルのイラストが投稿されていたんだ。」
剛志と彩音は画面を覗き込み、そのイラストに注目した。剛志はそのシンボルを見て、心の中に不安が広がるのを感じた。弟の死の真相に一歩近づけるかもしれないが、同時に恐ろしい現実に向き合わなければならないという緊張感が押し寄せた。
「掲示板の住人はそれぞれ夢のディテールは違ったり、記憶の明確さはまちまちだったが、このシンボルについてはみな一様にそれを見たと言っている。」神崎は続けた。
「次はどうするつもりですか?」彩音が尋ねた。
「掲示板の住人に会って話を聞いてみるつもりだ。掲示板に会って話を聞きたいと書き込み、反応があった人と捨てアドレスを経由して詳しく聞かせてもらえないか交渉する。」神崎は冷静に答えた。
剛志は不安そうに神崎を見つめた。「危険じゃないですか?」
「大丈夫だ、こういうのには慣れているから。」神崎は自信を持って答えた。
彩音はふと思い出したように言った。「そうだ、神崎先輩、黒いローブの人物について何か情報はありませんか?」
「美咲さんのアパートの付近で、美紗さんが怪しい人影を見かけたそうなんです。黒いローブに身を包んでいて、明らかに普通じゃない感じだったって。」
神崎は眉をひそめた。「黒いローブの人物か…それは確かに気になるな。今のところ、それらしい情報はまだ見ていないが、調べてみるよ。」そう言うと、神崎は一瞬考え込んだ後、席を立ちベランダに向かった。
剛志と彩音がキュミちゃんの様子を見ながらしばらく待っていると、ベランダから煙草の煙が漂ってきた。神崎は煙草を吸いながら、深く思考を巡らせているようだった。
その後、久保田も交えて情報を整理する会議が始まった。剛志と彩音は、美咲の家で見つけた手がかりや岡田美紗から聞いた話を詳細に報告した。
「さて、次はどうしますか?」久保田が尋ねた。
「夜の開店を待って、バー『ミッドナイトブルー』に行ってみようと思います。」彩音が答えた。
「分かりました。それじゃあ、ちゃんと準備を整えてから向かうのよ。」久保田が言った。
剛志と彩音は、次の調査のために気を引き締め、バー「ミッドナイトブルー」へ向かう準備を始めた。翔太の死の真相に迫るため、彼らは新たな一歩を踏み出す覚悟を決めていた。
「ちょっとお腹がすきましたね。バーに行く前に軽く何か食べましょう」そういうと彩音は探偵事務所の一角にある給湯室に剛志を連れて行った。
「すいません、こんなものでもいいですか?時間もないし」彩音は買い置きされていると思われる段ボールに入ったカップ麺を2つ取り出して言った。
「そんな、もちろん」剛志は慌てて肯定を意思を示した。
二人で来客用のソファーに座って麵をすする。
「剛志さん。絶対この事件解決して見せますからね。」彩音は力を込めていった。「それは...ありがとうございます」剛志はなぜここまで親身になってくれるのか不思議に思った。
「私、兄がいるんです。剛志さんと同じか少し年下の。私、兄と仲いいんですよ」剛志の疑問が伝わったのか彩音は少しはにかんでそう言う。
「だから、兄弟の大切さは分っています。私も、あなたの力になりたいんです。」剛志の顔を見ないまま語った。
「彩音さん…。ありがとう。」何日か前に会ったばかりのこの探偵に剛志は深く感謝した。
「さて、ラーメンも食べちゃったし、準備を続けましょう!」彩音はソファーから立ち上がった。
「次は持ち物。剛志さん、スマートフォンのバッテリーは大丈夫ですか?」彩音が尋ねた。
「ええ、念のために予備のバッテリーも持ってきました。」剛志は答えた。
「よし、それから、もし何かあった時のために連絡方法も確認しておきましょう。」彩音はメモ帳に緊急連絡先を書き込み、剛志にも渡した。
「準備は整ったようね。」久保田が応接室に顔をのぞかせて言った。「気をつけて、何かあったらすぐに連絡するのよ。」
剛志と彩音は事務所を出発し、バー「ミッドナイトブルー」へと向かった。心には新たな決意と共に、不安と期待が交錯していた。
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