第3章 走査線 :3-1 美咲の捜索
春の風が少しずつ暖かくなり始めた頃、剛志は彩音と一緒に美咲の行方を捜すことになった。翔太の死から2週間ほどが経過していた。
剛志はこれまで自力で美咲の行方を探していたが、成果は得られなかった。
「彩音さん、俺もさんざん探し回ったんです。でも、どこにも彼女の手がかりはないんです。」剛志は焦りと苛立ちを隠せずに訴えた。
「剛志さん、まずは落ち着きましょう。私たち探偵にはプロとしてのやり方があります。まぁ見ててください。」彩音は余裕を見せながら、剛志に優しく微笑んだ。
剛志はその言葉に少し安心し、彩音の指示に従うことにした。二人はまず美咲の家に行くことにした。美咲が最後に目撃された場所や、彼女の知人たちの情報を収集するためだった。
美咲の家は市内の閑静な住宅街にあり、外観は特に変わったところはない普通のアパートだった。剛志は翔太の家でたまたま見つけた住所が書かれた手紙を手がかりにして、既に一度訪れたことがあったが、誰もいなかったため諦めて帰ったことを思い出した。
「この前来たときは誰もいなかったんですけど、今日こそは何か手がかりが見つかるといいですね。」剛志は少し不安そうに言った。
「大丈夫です。私たちが一緒なら、きっと何か見つかるはずです。」彩音は自信満々に答えた。
二人は美咲のアパートの前に立ち、インターホンを押した。しばらくしても返事がなかったため、彩音はピンポンを何度か鳴らしてみたが、やはり誰も出てこなかった。
「また留守みたいですね…。どうしましょうか?」剛志は困ったように言った。
「少し待ってみましょう。もしかしたらすぐに戻ってくるかもしれません。」彩音はアパートの前に立ち、周囲を観察しながら言った。
しばらく待っても美咲は戻ってこなかった。彩音は再びインターホンを押し、今度は少し強めにドアをノックした。しかし、やはり反応はなかった。
彩音は「ふーむ」とうなり、顔をしかめて少し考え込んだ後、共同玄関の方に歩いていった。剛志は何が起こるのかと不安げに彼女を見つめていた。
「ちょっと待っててくださいね。」彩音は小声で言うと、美咲の部屋の郵便受けに手を伸ばした。
バコっと郵便受けの蓋が開く音が響き、剛志は驚いて「え?」と声を上げたが、彩音は構わず中をまさぐり始めた。
「一番古いもので2週間くらい前のものですね」彩音は郵便物の山を見ながら言った。それは翔太が殺された時期と一致していた。
「おっ」彩音は水道料金の請求書やらスーパーのチラシやらに紛れて、個人的な郵便物と思われる手紙を見つけた。差出人は岡田美紗で、住所も書かれていたがそんなに離れてはいない。
「これは友達?」剛志が尋ねた。
「うーん」彩音は考え込みながらも不思議に思った。携帯電話があるのだから、電話でもメールでも連絡は取れるはずだ。今時手紙とは。
「少なくともここでじっとしているよりはマシですね」彩音はそう言うと剛志を伴って記載の住所に向かうことにした。
剛志は内心で彩音の行動力と発想に感心しながら、彼女の後をついて行った。彩音は探偵としてのプロの自信を持ち、冷静に次の手がかりを追い求めていた。剛志も彼女と一緒ならば何か解決の糸口が見つかるのではないかという希望を持ち始めていた。
剛志と彩音は美咲のポストに入っていた手紙の住所を手に、美咲の友人であろう岡田美紗の家に向かった。剛志は心の中で不安と焦りを感じながらも、彩音の冷静な態度に助けられていた。
「ここですね。行ってみましょう。」彩音は住所を確認し、ドアベルを押した。
しばらくしてからドアが開き、金髪で今どき風のファッションに身を包んだ美紗が現れた。彼女の顔には明らかな不安と疲れが見て取れた。
「こんにちは。岡田美紗さんですか?」彩音が優しく声をかけた。
「はい、そうです。あなたたちは?」美紗は警戒しながらも答えた。
「私は久保田探偵事務所の西園寺彩音です。そしてこちらは宮崎剛志さん。美紗さんの友達である御堂美咲さんの行方を捜しています。」彩音は簡潔に説明した。
「探偵事務所…そうなんですね。どうぞ、入ってください。」美紗はドアを開け、二人を中に招き入れた。
部屋の中は整然としていたが、どこか物悲しげな雰囲気が漂っていた。美紗は二人にソファを勧め、彼女自身も向かいに座った。
「美紗さん、あなたも美咲さんを探しているのですか?」剛志が真剣な表情で尋ねた。
「はい、急に連絡が取れなくなってしまって...。最後に会ったのは2週間くらい前で、何か思い詰めた様子でした。でも、何も話してくれなくて…。」美紗は目を伏せ、声を震わせた。
「美紗さん、美咲さんが怯えていた理由について、何か心当たりはありませんか?」剛志が尋ねた。
「うーん…ただ、彼女がよく言っていたのは、夢の中で何かに追われている感じがするとか、奇妙なシンボルを見たとか…。正直、私には理解できない話ばかりでした。」美紗は首を振りながら答えた。
「夢の中のシンボル…」剛志は自分の夢と繋がるものを感じ、さらに関心を持った。
「そのシンボルについて詳しく教えていただけますか?」彩音が質問を続けた。
「二匹の蛇が絡み合っているようなマークだったと言っていました。美咲はそれを何度も夢で見て、怖がっていました。」美紗は説明した。
「それと同じシンボルを、私も夢で見ています…」剛志は驚きの表情で呟いた。
「彼女が何か問題を抱えていたかわかりますか?」彩音が優しく問いかけた。
「実はもう一つ気になることがあります。美咲が最近、よく通うようになったバーがあるんです。彼女はそんなにお酒も強くないですし、これまでバーに通うなんてことはなかったんです。ただ彼氏さんと飲んでいただけなのかもしれませんが」
剛志は翔太と美咲がバーで夜な夜な飲み交わす姿を思い浮かべた。ピンとこない。
「バーですか?それはどこですか?」剛志が食い入るように尋ねた。
「名前は『ミッドナイトブルー』です。場所はここからそれほど遠くないところにあります。」美紗はバーの場所を説明した。
「あなたは訪れたことは?」剛志がさらに尋ねる。
「はい、勇気を出していってみましたが、美咲はいなかったし店の様子も特段変わったところはありませんでした」美紗が申し訳なさそうに言った。
「そうでしたか。それは重要な情報ですね。」彩音はバーの名前と住所をメモに書き入れた。
「美紗さん、彼女の失踪について何か他に気になることがあれば、教えてください。」彩音が再度頼んだ。
「今のところ、これ以上は…。ただ、1週間前に美咲の家に行ったとき、家の近くで変な人を見たんです。黒いローブに身を包んで明らかに異質で。」美紗はおびえながら話した。
「黒いローブ...。」剛志は翔太に着せられていたローブを思い浮かべた。「その人が美咲と関係しているかはわかりませんけど」
「そうですか...。分かりました、ありがとうございます」剛志は答えた。
「あの!」美紗が縋りつくように顔を上げた。「必ず美咲を見つけてください。お願いします」
「はい、もちろんです」剛志は力強く頷いた。
二人は美紗の家を後にした。外に出ると、剛志は深く息を吸い込んだ。
「黒いローブの存在か...。」剛志は呟いた。
彩音は少し考え込むようにしてから言った。「翔太さんにも同じような服が着せられてたと言っていましたね。見覚えありましたか?」
剛志は首を振った。「いや、見たことはない。魔法陣のようなものも覚えがない。」剛志は少し苦々しい表情を浮かべた。「シンボルだけははっきりと覚えていたが。」
「そうですか...。」彩音はしばらく考え込んだ後、決意を固めたように頷いた。「黒いローブの存在、追ってみましょうかね。こういうのは神崎先輩にお願いするのがいいんです。」
剛志は眉をひそめた。「そうなの?」
彩音は自信満々に笑った。「いかがわしー情報が一番集まるところ知ってますか?」
剛志は首を傾げた。「いや、わからないな。」
「ネットですよ。」彩音は携帯電話を取り出して見せた。
剛志は少し驚いた表情で彼女を見つめた。「ネットか…。でも、そんな情報どこで探せばいいんだ?」
彩音は携帯電話を操作しながら微笑んだ。「まぁ見ててください。神崎先輩はこういうの得意なんですよ。」
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