4つ上の兄が通っていた塾は、授業料が比較的安く、庶民的な雰囲気だった。


昼間は子どもたちが公文式の教材に取り組み、夜になると中学生たちが勉強に励む場所に変わる。



僕も中一の夏休み後に、親に頼んでその塾に通わせてもらった。


塾長は、僕の2つ後輩の女の子のお母さんだった。


塾長は数学の先生でもあり、いつも厳しい表情を崩さなかったが、その美しさには言い知れぬ威厳があった。


僕はそろばんをやっていたこともあり、数学が好きで得意だった。


しかし、本当に数学が好きだったのか、と塾の先生のことも思い出す。



僕は勉強が好きだったが、進学校へ行くことは両親に反対された。


心にぽっかりと穴が開いたようで、何もかもが無意味に思えた。


中学三年生になる頃、僕は塾を辞めることにした。



塾の授業が終わると、僕は冷たい夜風が吹く中、外で先生を待っていた。


友人たちを迎えに来た車のブレーキランプがやけに眩しかった。



「先生、僕、塾、辞めます」


先生はとても驚いていた。


「他の塾に行くの?」


「行きません」


「自分で勉強するの?」


「そうなりますね」


「そうなのね。

いつも一人だけ、早く塾に来てたの知ってたよ」


先生はそう言い、温かく微笑んでくれた。


「あなたならきっと大丈夫だから。

がんばってね」


先生の言葉が心に刺さり、思春期の不安定な感情があふれ出しそうになった。


僕は先生の目を見られないまま、塾を後にした。


いつもとは違う道を、一人ゆっくりと自転車を漕ぎながら帰った。

静かで真っ暗な夜だった。

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