09
学校がまた始まっても私達はほとんど変わっていなかった。
梨菜はささっと終わらない夏について不満があるらしくまた付き合ってくれない日々が続いている。
だから大体は一人でいくことになるけどそれは寂しいから無理やり連れていく日もあった。
「はぁ、なちはわがままだね」
「梨菜ともいたいよ」
「アンと過ごしてあげなよ」
アンやロウとは多分向こうが飽きるほど一緒にいるぐらいだから言っているのだ。
「じゃあこれからなちのわがままに付き合う度になにか買ってもらうから」
「アイスでも買ってからいこうか」
何故か呆れられたような顔をされたけどスルーしてコンビニに寄る。
彼女のこれだというアイスはいっぱいあるけど今日は一番最初に意識を持っていかれたアイスにした。
「半分こね」
「なんかけちくさい」
「ちょっと食べられればそれで十分なんだよ」
これを食べて、家に帰って着替えてから移動――となったところでロウの方がこっちに来て少し時間がずれることになった。
「太郎、前々から思っていたんだけどなんかちょっとずつ大きくなってない?」
確かに、いまはもう私達の肩と同じぐらいの高さがある。
でも、アンの方はやっぱり腰ぐらいまでの高さしかないから当たり前だけど個体差というやつがあるらしい。
「うん、僕もそう思うよ、梨菜なんかは簡単に超えてしまうかもしれないね」
ロウもなかなか彼女に対してははっきりと言っていく。
ただ、梨菜はそれを受けて感情的になることもなく「それならそれでいいけど、僕、太郎のこと好きだし」と逆に乗っかっていったぐらいだ。
まあ、女の魅力があるのかどうかわからない私よりも格好いい男の子の方がいいということだろう。
「うん? 好きなのと超えるのと関係あるの?」
「あるよ、だって小さいのに好きだったら僕がやばい思考の持ち主みたいになるからね」
「はは、単純に存在として好きなだけならそれでも問題ないと思うけどね」
ロウは一瞬こちらを見てから「僕はこっちでゆっくりしているからどっちかが相手をしてほしいな」と言った。
「ロウさんは求めていないかもしれないけどそれなら私でもいい?」
「なちでも梨菜でも相手をしてくれるだけありがたいよ、梨菜もそれでいい?」
「いや、そこは僕でいいでしょ、ということでなちはアンのところにいってらっしゃい」
「ちょ、ま――」
あれ、梨菜も使えるようになっていたのか。
この前、私を連れていく前にアンから貰っていたのかもしれない。
あの悲鳴事件のときと違ってへんなところにワープしていたなんてこともなく、あくまで私達の小屋の前だったからアンの小屋まで歩いた。
「あれ、アンも大きくなっているんだ」
「んー……? あ、なち」
「アン、これ見て」
一応これでも女でチェックしなければならないときがあるから手鏡はいつも持ち歩いている。
本当は姿見とかの方がいいけどここにはないから大雑把に把握してもらえればそれでよかった。
「おお……やっぱりなんか違和感があると思ったら大きくなっていたんだ、なちとか梨菜からなにか吸っているのかな?」
「寿命とかではないならいくらでも吸ってくれればいいよ」
可愛いより奇麗と言うべきか。
梨菜が同性を好きになる子だとしてもアンが近くにいたらそっちにいくのが自然だった。
それでそのアンは私のことを好きでいるわけだからその相手が幸せになれればそれでいい的な感じで諦めてしまっているだけにも見える。
それか単純に同性をそういう目では見られないだけの可能性もあった。
そもそもの話として、どうして私は梨菜の中に自分への気持ちがあると一瞬でも考えてしまっていたのか。
自惚れすぎていて恥ずかしいね。
「ふむふむ、なちはいま梨菜のことを考えてるね」
「うん、一瞬でも私のことが気になっているみたいに考えたことが恥ずかしいなと思ってね」
「それは間違いじゃないよ」
「はは、アンは優しいんだね。だけどいいんだよ、なにもないならないでしっかりアンに向き合うだけだよ」
梨菜次第だと言って後回しにしたのだから梨菜の中になにもないなら集中するだけだ。
アンのことだって好きだ、ちょっと違うだけでそれ以外はなにも変わらないからそう難しいわけでもない、それどころか私のことを好きになってくれる存在なんてこの先に誰もいないかもしれないからありがたい話だ。
「やっぱり駄目だよ、いきなり現れた私がなちを取っていくとか――なち……?」
「気にしなくていいの」
寧ろここで諦められたら困るのだ。
どこまで続けられるかはわからないものの、人生最後のときに恋人もできない人生だったなんて言葉を吐き出したくない。
いまの私は肉食獣みたいなもので狙った獲物は逃さない状態になっていた。
「は、離してよ、顔を抱きしめられたら喋りづらいよ」
「マイナス発言をやめたら離そうかな」
「や、やめるから」
所詮、口先だけでしかないけどこんなすっとんとんな胸を当てていたところでお互いに虚しい時間になるだけだからすぐに離した。
矛盾しているかもしれないけど拘束したいわけではないからね、あくまで自由に存在していてくれなければね。
「今更だけどアンってなに?」
「はは、本当に今更だね、よくわかっていない存在を抱きしめちゃったりしちゃうんだ」
「うん、だってアンのことが好きだから」
それとこれとは別だ。
あとこちらに害を与えてくるような存在でもなければ人間かそうでないかなんて正直どうでもよかった。
「……それが私もわからないんだよ、気が付いたらここにいたんだ。謎の力が使えるとわかったのはもっと前の話だけど最初は自分でも訳がわからなくて途方にくれていたんだよ? ただ、暗くなりにくいからわかりづらいけど一日が経過したときぐらいにお腹も空かない、眠たくもならないってことがわかってね」
「じゃあやっぱりアンも静さんも我慢をして私が作ったご飯を食べてくれていたんだ」
調子が悪くなってしまっているわけではないから害はないだろうけどこれから頼まれたとき以外はやめておこうと決める。
「それでも味がわからないとかじゃないから、そう不安そうな顔をしなくてもちゃんと美味しかったよ」
「それならいいけど」
間ができたことだからそろそろあっちの小屋にいって休もうか。
ここは涼しいからそんなに意味もないけどまた水着を着て川で遊ぶのもありかもしれない。
「んー興奮気味のロウと話をしていたんだけどお腹が空いちゃったな」
「食べるか食べないかで答えて」
「た、食べたいです」
「それなら水着を取りにいくついでにおにぎりを作ってくるよ、急に食べたくなったんだ」
ただこの急に〇〇が食べたくなる現象は本当に悪いことだった。
自分に甘くしすぎた結果、この夏で二キロも太ってしまっているぐらいだ。
そういう点でもこのままは不味いと判断して歩いて痩せようとしているのが現状だと言える。
「ちょっ、やばいやばい!」
「ひゃっ!?」
慌てすぎて作ったおにぎりを置いてきてしまったぐらいだ。
あとは何故私の家でやっているのかということ、別に私はロウとそういう関係ではないからショックを受けるどころか興奮しているぐらいだけど。
「梨菜がロウさんを抱きしめていたの!」
「え、私のために我慢をしてくれているとかじゃなかったの……?」
「え、梨菜はそんなことしないよ、なにもないから言ってこないだけでね」
ふぅ、聞いてもらえたら落ち着けた。
まあ、好き合っている男女が集まればそういうものでしょと片付けて服を脱ぎ捨てる。
「水着ー」
「その川、もう冷えると思うよ」
「大丈夫大丈夫、私達人間にとっては――滅茶苦茶冷たい!?」
なんてことだ、七月と八月の間にもっと遊んでおくべきだった。
せっかく買ったのにほとんど使用することなく終わってしまって残念だ。
「はははっ、今日のなちはハイテンションだ!」
「風邪を引きそうだからやめておくよ。紅茶でも飲もうか」
「飲む」
お湯が沸くまでの間のこのぼうっとしていられる時間が好きだった。
アンも小屋の中では口数が少ない状態になるからそれはそれでいい雰囲気になる。
「アン、九月――今月が終わるまでにちゃんとはっきり答えるから待ってて」
「うん」
よし、できた。
カップに注いで、熱いから気を付けてねと言って渡したくせに自分がその熱さに負けることになったのはださかった。
勝ち負けを競っているわけではないとしても微塵もお姉さん感が出ないのはどうなのか。
そもそもいつからここにいるのかでアンの方が遥かに年上、なんて可能性もあるからこういう風に考えている時点でアレなのかもしれない。
「今日はこっちに泊まろうかな、それでまたアンと一緒に寝たいの」
「それなら私があっちにいくよ? なちにばっかり動いてもらったりしないよ」
「ううん、今日は完全にアンと二人きりがいいんだ」
今日は思いきりアンを抱き締めながら寝たい。
「な、なんで……?」
「それは夜にしたいことがあるから――」
「なら空気を読んでなちのお父さんにでも相手をしてもらうことにするよ」
戻ってきていたのか。
いまは一人であの家にいる梨菜だけどその内側はどうなっているのか。
心臓が大暴れだったり、乙女らしくソファで暴れたりと自由にやっているのかな。
掃除とかはしているけど流石にそうやって暴れれば埃なんかもすごいだろうから気を付けてほしいところだ。
「なにか忘れ物でもあったの?」
「なちともいたいからそろそろいいかなと思ったんだけど想像以上に甘い感じで邪魔をするわけにもいかないなって」
「ごめんね」
「わかった、梨菜もなちの家に泊まるみたいだから引き続き付き合ってもらうよ」
これで二人きりになることは確定した。
固まったままだったアンを引き戻し、冷めるともったいないからその前に温かい紅茶を飲んでおいた。
「やるよ?」
「や、優しくね?」
決めていた通り後ろから抱きしめてみたらなんか物凄く安心することができた。
これだけで満足だからこのまま寝ることになってしまっても構わない、いつまでも起きておくのはそもそも現実的ではない。
「うーん、なんかね、抱きしめられているよりも捕まえられている感がすごいよ」
「嫌ならやめるよ?」
「嫌じゃない、ただ寝られるかな……」
多分大丈夫だ。
もし寝られなくて気になったらまた放課後に付き合うからなんでも言ってほしい。
自分だけが満足できればいいなんて悪い考え方をする人間ではない。
だからアンはどうかはわからないけど朝まで寝ていつも通り五時に起きた。
我ながら器用だなと褒めたくなった、それとも抱き枕的な物があればみんな寝返りを打たずに朝までいられるのだろうか。
「うぅ……せ、静が襲ってくる……」
静さんが襲うとしたらいい意味でだろうから気にしなくていいか。
この時間に起こすのも可哀想だから書置きを残して向こうへ戻る、ご飯作りの方は依然として私が頑張らないといけないから朝はそうゆっくりもしていられない。
一応と客間を見てみたらロウだけが寝ていた、ゆっくりもいていられないとか考えておきながら寝顔が可愛くて少し見てしまったぐらい。
それなら梨菜はと探してみると私のベッドで寝ているようだった。
全く嫌ではないし、自由に使ってくれればいいけどよく寝られるなと思う。
「……なちか、おかえり」
「ただいま、いまから洗濯物を干すけどご飯もすぐに作るからね」
「ふぁ……それなら僕が作っておくよ」
「いいの? って、流石にまた甘えるわけにはいかないよ、梨菜は休んでいて」
強い拘りがあって誰かに手を出してほしくないとか、彼女の能力を疑っているわけではない、ただこれは私がやればいいという考えでいるだけだ。
そういうのもあってこの前みたいに二人が早起きをして家事を頑張っていなくてよかったと言える。
「おはよう」
「ロウさんおはよう」
あ、この顔はどうやらバレてしまっているみたいだ。
なにかを言われる前にごめんと謝ると「いくらでも見てくれればいいよ」と柔らかい笑みを浮かべながら言われてしまった。
なんかこれだとあっちもそっちも手を伸ばして獲得しようとしている欲深い人間に見えてしまいそうだ。
「なに? 夜中になにかあったりしたの?」
「寝ているときに僕のことを見ていたんだ」
「ほーなちにしては珍しいね」
「か、可愛くてつい……と、とにかく、ご飯を食べようっ」
「そうだねー」
待った、それなら全く声をかけないできたのは微妙か。
すぐに移動できるから小屋にいってみるとまだ気持ちよさそうに寝ていた。
でも、もう五時というわけではないし、やっぱり寝顔をじっと見ておくのは不味いからアンを起こ――そうとしたときに起きた。
「わひゃあ!?」
「お、落ち着いて、静さんじゃないよ」
「ほ、なちか……」
無理やり寝ようとする弊害なら起きたままの方がいいけどその場合は退屈になるか。
どうしたらいいのか、それこそ私のことが好きなら触れている間は落ち着けるとかそういう風になったらいいのに。
あと、これだと自分だけが満足できればいいみたいになっているのも駄目だった。
「あ、ご飯ができたから一応確認に来たんだ。あと、授業の間にアンには足の上にいてほしいなと思ってね」
「いいの?」
「私が聞きたいかな、ただアンは私のことが好きみたいだし……」
一緒にいられたらお互いにいい時間になりそうだ。
ま、まああれだ、退屈すぎたら自由に戻ってくれればいいわけだからアンとしてもそんなに悪い話ではないと思う。
「いくっ、あとご飯も食べる!」
「はは、そっか、じゃあいこう」
少しアレな言い方をすると滅茶苦茶可愛い。
抱きしめたくて固まっていると「なち? みんなが待ってるよ」と言われて今度は私が引き戻された。
これはやばいかもしれない、これから先はもやもやが溜まっていく毎日かもしれない。
積極的に悪い方に考えるタイプではなくてもいい方には考えづらかった。
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