08

「なちー? あ、そこにいたんだ」

「うん、水着を着て川で遊んでいたの」


 欲張ったり調子に乗りすぎなければ浅くて冷たくていい場所だった。

 できれば誰かが付き合ってくれることが一番だけど誰もいないなら一人で遊ぶしかないよね。


「最近は一人で来ていることが多いね」

「そうだね、梨菜はいま暑すぎて余裕がないみたいだからあんまり付き合ってくれないんだよ」


 あっちなら涼しいよと言ってみても「戻ってきたときに現実を突きつけられるから嫌」と聞いてくれない繰り返しだった。


「それなら私が付き合うよ」

「ほんと? ありがとう」

「……一人で遊ぶ前に声をかけてほしかったけどね」

「はは、ごめんね」


 ロウには挨拶ができたけどアンは寝ているとのことだったから声をかけずにここにいた形になる。


「なんかあれだね、なちらしくない水着だけど」

「このときのために買ってきたんだ、ここなら他の誰にも見られないから少し私らしくない水着でも恥ずかしくないかなって」


 地味に高かったけど付き合ってもらえない寂しさをどこかにやるにはこういうことで発散が一番よかったのだ。


「か、可愛いよ」

「ありがとう」

「私も真似する」

「うん――おお、便利だね、あとアンも可愛いよ」


 ああ、四千円ぐらい出して買った水着がこうもあっさり……。


「すーすーするね」

「そうだね」


 でも、冷えてしまうとかそういうこともなくて絶妙な気温で落ち着ける。

 あれからあまりハイテンションではなくなってしまったものの、アンがいるのもいい。


「そ、そういえばさっ、静がお盆に驚かせようとしているみたいでさ」

「帰ったときぐらいは見えるといいけど……無理なんだよね?」

「うん、家族でも見えたら怖いんじゃないかな」

「こう、ご家族に聞いて大丈夫そうならアンの力で見せてあげたいけどね」


 なんでもアン頼りで申し訳ないけど力を与えられる側ではないから頼るしかない。


「だけどすぐに会えなくなる、だからまた見たいなぐらいのところで終わらせておくのが一番だよ」

「アンの力は永続的ではないとか?」

「ははは、そりゃそうだよ、半年ぐらいは効果を有したままでいられるけどそこからは私がまた力を使わないとね」


 そう上手くはいかないか。

 会話が終わったから川の流れに意識を向けていた。

 気まずいわけではないけど前みたいに一緒に盛り上がれているわけでもない。

 ただ、変に変えようとしても逆効果になりそうだからあくまでフラットな感じを保ち続けている状態だ。


「やあ――なに? お葬式でもあった?」


 幸い、私はまだ誰のお葬式にも参加したことがない。

 このままあと十年ぐらいは未経験のままでいたい、できれば一生と言いたいところだけど生まれたからには死は避けられないから十年ということだ。


「それ、面白くない冗談だよ」

「ははは、ツッコむ元気があるなら十分だね、ここに座るねー」

「な、なんでなちの上に座るの?」

「それはお姉さんだって甘えたいからさ」


 まあ、梨菜が座ってもこれぐらいだろうから大して気にはならなかった。


「あれ? どこからか『私も座りたい』って強い気持ちが伝わってくるなー」

「な、なちの足が疲れちゃうからいいよ」


 アンは素直すぎてからかいがいがないと思う。

 だから静さん的に一番いいのは梨菜かもしれない、逆の一番は私でつまらないことだろう。


「仕方がない、はい」

「わひゃ!?」

「うん、姉妹みたいだねー」


 姉妹か、私がお姉ちゃんで可愛い妹の面倒を見るのでもよかったし、妹で大好きなお姉ちゃんに甘えるというパターンでもよかった。

 それでもこういうのはあくまで妄想で留めておくぐらいがいいのだと思う、実際にどちらかだけでもいたら仲良くはなれていなかっただろうから。


「だけど妹のせいでいまただの姉妹から変わろうとしているんだ」

「……そもそもなちと私は姉妹じゃないし」

「ま、ふざけるのはこれぐらいにしておくけどさ、アンはちゃんと言えただけ偉いよ」

「静は無理だったの?」

「その前に死んじゃったからね。だけど告白をしてからじゃなくてよかったよ、上手くいっていたら未練が凄くて地縛霊になっていたかもしれないんだからね。そうしたら自由に移動できないじゃん、そんなの窮屈じゃん」


 学校が好きではない人なら色々なところにいけるいまの方が楽しいのかもしれない。

 だけど場所によっては全く同じような存在と出会えずに一人でいなければならないわけだから私からすれば怖くて寂しいことだ。

 たまに面倒くさいなと感じることはあってもやっぱり学校にいけば誰かと話せる、梨菜と会えるというのは大きいのだ。


「いや、静は深く踏み込むタイプじゃないからそれだけはありえないね」

「ん-だけどなちちゃんになら踏み込みたいかな」

「え゛」


 アンからすごい声が出た、急に熊が出てきてもその一言だけで追い払えるぐらいにはすごい声だった。


「あははっ、そんな顔をしなくたっていいじゃん!」

「なちのことがす、好きってこと……?」

「好きだよ? お世話になったアンより好きかな~」

「そ、そう……」


 駄目だ、私以上に素直すぎて真っすぐに受け取りすぎてしまうから静さんには敵いそうにない。

 私と出会う前はずっとこんな感じだったことを想像してみたら少し可哀想になった。


「ね、アンって面白いよね」

「あの、それ以上は……」

「わかった、なちちゃんがそう言うならやめておくよ」


 止められる範囲で止めようと決めた。




「今日は梨菜だけなの?」

「なにか不満でもあるの?」

「特にないけど……なちは?」

「なちは慌ててやり残していた課題をやっているよ」


 まあ、怒られてしょぼんとしているなちは見たくないから付き合ってとも無理は言えない。


「今日までになんかアピールとかしたの?」

「してないよ、梨菜という本命がいるのにできるわけがないでしょ」

「そういうものかな、好きならアピールしないと取れないよ?」


 煽りたいわけじゃない。

 それでも僕がまだ彼女ではない時点でなにをしていてもどうこう言えるようなことではないんだ。

 なのに僕のことを気にしていてなにもしていなかったらしい。


「しょ、勝者の余裕的な感じなの?」

「そう悪い方に考えない、そこに座りなよ」

「まあ、特に疲れるわけじゃないけど座らせてもらうよ」


 こっちにも自室にあるのと同じぐらいいいベッドがあるから寝転んでからアンを見るとやたらと不安そうな顔をしていて笑いそうになってしまった。


「一応聞いておくけどまだなちのことが好きなんだよね?」

「好きだよ、だけど邪魔をするつもりはないから、積極的に邪魔をするならそもそも梨菜が来ていないときにしているからね」

「なるほどね」


 なちか、どうするのか。


「いいよ」

「なにが?」

「なちのこと」


 付き合えなくても僕のやりたいことはできるから問題ない。


「な、なにを言っているのさ、梨菜だってなちのことが好きなくせに」

「好きだよ、だけどアンにはお世話になったからね」

「ふぅ、お世話になったからって譲ろうとしなくていいんだよ。初めて誰かを好きになれて告白をできただけでも十分だよ」

「だったら余計にそれを終わらせたくないんだよ」


 こっちでもできるからなちを連れてきてしまうことにした。

 無理やり連れていこうとしているのになちは暴れたり文句を言ったりしないで大人しく付いてきてくれていた。


「こんにちは」

「こんにちは――じゃなくて聞いてよなち、梨菜が変なことばかり言うんだよ。なちのことが大好きなくせに譲ろうとしてくるの」

「そうなの?」

「そうなんだよ、だからなちが止めてよ」

「梨菜がそう決めたなら私は受け入れるしかないから」


 なちならそう言うと思った。

 ここで無駄に頑張られても困るからありがたい選択だった。

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