06
「なちの浮気者」
結局あれからも一緒にはいるけどさん付けと敬語はやめていなかった。
それでも怒っているわけではないのかまた肩に乗ってきているけど拗ねてはいるみたい。
「どういうことですか?」
「前も言ったけど静に懐きすぎ」
「静さんはいま友達とお出かけしているのでいませんけどね」
「朝だって抱き着いていたでしょ」
「あれは事故ですよ、だけど静さんがいてくれてよかったです」
煽りたいわけではないものの、実際に静さんがいなかったら壁に顔から激突していたわけだからなにも間違ってはいない。
死にたくないのと同じぐらい怪我だってしたくなかった。
「それよりロウさんの相手をしてあげてくださいよ」
窓の外を見つめながらゆっくりしていることが多いから気になっていた。
勝手なあれだけどもう私の中ではアンに相手をしてもらえなくて寂しがっている、ということになっているから背中が寂しげに見えるのだ。
「ロウには梨菜がいるからいいでしょ」
「そうですかね」
気に入っているのは確かなことでも力をくれたご主人様とは友達以上にいたいと思うけどね。
「というか、梨菜の相手をしてあげないといけないのはなちでしょ」
「でも、来ませんよ?」
「いつでも来てもらう前提でいるのは駄目だよ、いまからいこう」
まあ、ここで進まない言い合いをしているよりはいいか。
結局はアンが言っていただけで力は使えてしまえる状態だけど無暗に使ったりはしなかった。
私が一緒にいないときに起きたことの話を聞いたり、お腹を痛めている云々の話が事実だったりと色々と知ることができていい時間ではあった。
「いないみたいですね、出る前に一応連絡をしましたけど反応もありません」
最初からこういうのであまりやり取りをしないのも大きい。
あといまはわからないけど少し前に「休日は反応したくないから電源を落としているんだ」とかなんとか言っていたからその影響が出ている可能性もあった。
「ロウの力を使ってあっちにでもいっているのかな」
「わかりませんが外にいても仕方がないので帰りましょうか」
彼女は私達以外からは見えないのもあって人がいるところではお喋りもできないからお店にいってもつまらない時間になってしまう、あとはなにより本当に必要になったときに困らないようお金を貯めておきたいのもある。
「待ったっ、今日は晴れているんだからお散歩をしよう!」
「それならそうしましょ――わかったからつねらないで」
「敬語なんて使う方が悪いんだよ」
最初なんてこれが当たり前だったのに面白いことを言う。
「よいしょっと、どう?」
「え、それ自由にコントロールできるようになったの?」
向こうにいたときよりも更に大きくなっているから他の人にも見えていたら姉妹だと判断されそうだった。
「うん、なちが返してくれたあの薬を飲んでからこうなったんだ」
「はは、じゃあ私達人間が飲んでいたら不味かったかもしれないね」
「でも、成長しておっぱいが大きくなったかもしれないよ? ほら、なちも梨菜も小さいからさ」
「でも、それで大きくなっても偽物だからね」
うん、そう言っているアンはそのままだったから慌てる必要もない。
体は小さいのに特定の部位だけ大きかったら犯罪的な感じになるから助かった。
「いやこれ、あくまで自分の未来の姿になっているだけだよ?」
「はは、それでそのままだったら悲しくなるだけだよね、だからいま知ることができなくていいんだよ」
というか、もうこの時点でこの状態なのだから大体は想像できてしまうというか。
無駄に大きくてもじろじろ見られて落ち着かないだろうから興味を持たれないぐらいでいいのだ。
「これで静みたいに気にしてもらえるかな」
「え、スタイル抜群だから静さんのことを気に入っているわけじゃないよ、ただ喋りやすい人だからついつい甘えてしまうというかさ」
「んー私には大人の魅力ってやつが足りないよね」
「アンは可愛いよ、肩車でもしようか」
普通に歩けるし、ふわふわ浮くこともできるから必要はないだろうけどまあたまにはこういうのもいい。
昔は妹が欲しかったなんて考えたこともあったからアンのことは妹みたいに見ているところもあった。
「お、おお」
「怖くない?」
「うん、ただ自分で言っておいてあれだけどちょっと物足りないなって、だって私のサイズはニ十センチぐらいしか変わっていないんだからね」
「十分な変化だと思うけどね」
いまの私から二十センチも伸びたら百八十三センチもあることになる。
うん、これでもそれなりには大きい方のはずだった、スポーツ選手とかには敵わないけど大体の女の子には身長で勝てていたぐらい。
まあ、ただ他の大体の子よりは大きいだけで運動能力では負けていたから役に立ったことがあまりないことからは目を逸らしたいところだったりするけど。
「だってなちの下半身分ぐらいの身長しかないんだよ? これだと妹にしか見られないよ」
「そもそもアンは他の人から見えないでしょ?」
「仮にそうだとしてもだよ、梨菜みたいになちと同じように歩きたいから」
「はは、そっか」
それこそ不思議な能力で見られるようにできないのだろうか。
「で、できるけど恥ずかしい」
「えーアンらしくない」
「ふぅ、静に話しかけるときだって勇気が必要だったんだよ? あとはなちと初めて出会ったときだってドキドキしていたんだからね。そもそも人が来ないようにしていた理由は話すことになったら疲れるからだよ」
こういう話を聞く度に自分とはなんなのかと言いたくなる。
前に梨菜ちゃんが言っていたいまの私は本物のなちなのかというそれでも引っかかる。
ゲームの中のキャラクターのように誰かに操作されているだけだとしたら……。
「あ、でも、私みたいな変人以外は迷い込んでいないよね?」
「実はなちが来る前に一人だけいたんだ、一回だけだったけどそのときは――思い出したくないから言わなくてもいい?」
「うん、それはいいけど」
他にもいるなら大丈夫……ということにしておこう。
「今年は早い段階からやる気を出しすぎ……」
暑い、そう離れていない友達の家まで歩いているだけで汗がどんどん出てくる。
ほとんどは屋内で遊ぶことになるからあまり汗をかきたくないという考えが悪い方に働いた、着いた頃には大袈裟に言ってしまえばびしょ濡れだった。
「わ、すごい汗だね、シャワー浴びる?」
「うん、浴びさせてもらう」
ささっと済ませたら今度は冷房のおかげで最高だ。
一日分ぐらいはなんとかなるように着替えを置いてもらっておいて正解だった。
「アンと太郎はいないの?」
「うん、向こうでなにかしたいことがあるみたい」
「ふーん、じゃあいまはなちと二人きりなんだ」
「そうだね」
どうしよう、今回は二人か片方だけでもいてくれた方がよかったかもしれない。
別になにか変なことをしようと考えていたわけじゃないけど……。
「梨菜ちゃん――」
「それ、前々から思っていたけど梨菜でいいよ」
「そう? じゃあ梨菜って呼ぶね。今回も梨菜のためにお菓子を買っておいたから出すよ」
そこまでお菓子にばかり意識を向ける人間じゃないのにこんなことばかりだ。
「そう、アルバムを見ていたんだけどやっぱり中学生の頃はなちとは違ったよ、笑顔が多くて、僕のことも逆に引っ張ってくれるような存在でさ」
休み時間になったら突っ伏してとにかく時間が経過するように願うしかなかった僕を教室から連れ出してくれたのがなちだった。
「本物じゃなかったらどうする……?」
「え゛……やっぱりそうなの?」
「なんてね、私も同じようなことを考えて不安になったけど私は私だよ」
いやここであの頃と同じように笑うとか……。
「アンとは仲直りしたからまたあそこにいきたくなったら言ってね、私が運んであげるからね」
「そろそろあそこに私達の小屋を作りたい」
これからもっと暑くなって休まらない時間が続くから涼しいあそこでゆっくりと過ごせるようにしたい。
「私達でできるかな?」
「太郎に言ってみたら木の調達とかは任せてくれればいいって言っていたから大丈夫だと思う」
「そっか、じゃあそれを夏休みの自由研究みたいな感じでやろう」
「はは、もうないよそんなの」
「梨菜と一緒に楽しめればいいんだよ」
ほ、ほら、アン達の小屋をさぞ自分達の物ーみたいな感じで使用していたら可哀想だからそうするんだ。
あとは少しの――いや、とにかくエアコンなんかに頼らなくても十分涼しい向こうで楽しめればそれでよかった。
「結局ロウさんがほとんどやってくれたね」
「でも、これって僕達の小屋って言えるの?」
「気にしなくていいよ、それに近い場所だからすぐに遊びにいけるのもいい」
なにを言おうとロウさんに任せてしまったわけだから意味はないか。
「ただちょっとなちと二人きりで話したいんだ、梨菜いい?」
「まあ、太郎は頑張ってくれたからね、僕はちょっと中でも見てゆっくりしているよ」
今日は疲れたのかもうあっちでの姿でいるから可愛い状態だ。
だからこちらも気にしないで持ち上げることができた、ロウさんは「この距離でなちを見ることが好きだ」と大人の対応をしてくれている。
「どうしたんですか――どうしたの?」
目で圧をかけてきたとかでもないのに負けた人間がいる。
「最近はアンの様子がおかしいんだ、なちはなにか知らない?」
「今朝だって普通に楽しく喋ることができたけどこっちだと違うの?」
「うん、ベッドにうつ伏せで寝転んでばかりでいつものアンらしくないんだ」
「あ、仲直りしたのにすぐに帰っちゃうのは寂しかったけど……それぐらいかな」
「喧嘩とかじゃないならいいんだけどね」
うん、だからいまも言ったように緩くお喋りをして、大好きなお菓子をあげたり自分も食べたりして過ごしていただけだ。
つまり……そうやって盛り上がっている間にロウは頑張ってくれていたわけで、かなり申し訳ない気持ちになった。
「ロウさん、私はなにをすればいい? ほら、この小屋のことでお世話になったからなにか返したいんだよ」
「それならもう二度と前みたいなことはやめてほしい、僕だってなちといたいんだ」
「はは、ご主人様が一番でしょ?」
「それでもだよ」
あ、危なかった、私が惚れやすい人間ならいまので負けていたかもしれない。
なんだろうな彼は、なんかこう……すっと内側に入ってくるというかなんというか、うん。
「うん、わかった、そもそも結局またここに来ている時点で矛盾しているからね。もう一回あんなことをやったらただの構ってちゃんにしかならないからやめるよ」
「それだけで十分だ。静さんを呼ぼうか?」
「そうだね、ここを見てもらいたい」
それで気に入ってくれればここで休んでくれればよかった。
前の梨菜のときみたいに呼んでみても現れないなんてこともなくて「へー」と言葉を漏らしつつ自由に見て回っていた。
「なにこれ」
「梨菜ですね」
「できたばっかりなのにお昼寝なんてねー」
あっちみたいにちゃんとしたベッドとシーツ、布団なんかもあるからすごい話だ。
どこから持ってきたのか、全てこちらで調達したみたいだけどそこは細かく教えてくれなかったから気になっている。
「あのやかましいアンは?」
「いま同じ状態なんだよ」
「アンが? まだ寝るには早いでしょ、というか私達は最悪寝なくたって全く問題ないんだからさ」
そうなのか、ならご飯を食べるという行為も我慢をしてやってくれたのかな。
なにも味を感じないのに頑張ってくれていただけだったとしたらどうしよう……。
「静、アンの様子がおかしいんだ、見てくれないかな」
「任せて」
言っていた通りうつ伏せで寝転んでいるアンの頭をポカポカ攻撃しつつ「どうしたのさー」と静さんはぶつける。
「きゅ、急襲とはやってくれるじゃないか……」
「ロウに頼まれたんだよ、で、どしたの?」
「なんか最近は変なんだよ、なちと一緒にいたいのにいたくないんだ」
私が原因だったらしい。
こんなことばかりだな、終わらせなかったことを後悔していなければいいけど。
もうこうなってくると同じ選択はできない、なによりロウと約束をしたばかりなのに終わらせようとしたら自分で自分を終わらせたくなる。
死にたくはないけど全く自分の決めたことを守れない人生なんて嫌だ。
「矛盾しているねーロウ、ちょっとなちを連れて梨菜のところにいっておいて」
「うん、なちいこう」
でも、とりあえずいまは任せるだけだ。
ベッドの側面に背を預けて座っていると「あんまり気にしないようにね」とロウさんが言ってくれた。
「前みたいにはっきり言わなくていいの? アンを疲れさせちゃっているんだよ?」
「でも、意地悪をしているとかではないよね、だからなちは堂々としておけばいいんだよ」
「きゅ、急にどうしちゃったの? 私にこっちに来るように言っていたのだってアンといたかったからなんでしょ?」
「最初は確かにそうだった、だけどもう違うんだよ。僕も――」
「はい二人で盛り上がらない。なちも転んでみるといいよ、部屋にあるやつみたいに気持ちがいいから」
よかったのか、最後まで聞くべきだったのか。
こういうのは後々響く場合があるから前のとは別の意味で怖くなった。
「確かに太郎が心配しているようにアンはおかしかったよ、なちを見たと思ったらすぐに違うところを見たりと忙しかったからね」
「え、気づいていないのは私だけ?」
友達が弱ってしまっていても自分だけが気づけないままなんてことになるのは嫌だ。
「なちは鈍感だからね、ま、だからこそ変な男の子に騙されなくて済んだんだけど」
「誰もアピールしてこなかったよ?」
「はぁ、怖いね」
い、いや、中学一年生の頃から一緒にいてその間は男の子の友達なんて一人もいなかったのだから本当にアピールなんて一度もされていない。
「もしかして梨菜が変わってしまったんじゃないの?」
「確かにそうだね、昔の僕とはやっぱり違うよ」
「ちょ、ほ、本物じゃないってこと?」
「紛れもなく僕だよ、だけど内にある物は昔のままじゃないってこと」
こんな質問をした私も悪いけどもう少しぐらいは態度を変えてくれないと困ってしまうわけで……。
「終わったよーはー疲れたー」
「お疲れ様です、この椅子に座ってください」
「ありがとなちちゃん」
いつも誰かしらに助けられている。
だから次はこちらが誰かの役に立ちたかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます