05

「やっほー」

「静さん……」

「あ、連れ戻しに来たとかじゃないから警戒しないでね」


 でも、それ以外に来る理由がない。

 だからなにを言われても変えないつもりで静さんを静かに見ていた。


「ちょっと私のことを語ってもいい?」

「はい」


 話を聞く分には構わない。

 あと、嘘だと言われてしまうかもしれないけど私は人の話を聞く方が好きだった。


「私さ、死んですぐのときはまだ自分の意思で動けるからってことでどうにかしてここへ繋がる道を探していたんだよ。それで、途中でアンと出会ったわけ、すぐに信用はできなかったからなにも言わなかったけど……それがいいような悪いようなという感じでさ」

「曖昧な言い方ですね」

「そう、気が付いたらすっかり仲良くなっていてさ、もうこっちのことなんかどうでもよくなっちゃってね。だから実際、なちちゃんが移動させてくれたときまでは忘れていたんだよ? それでも一瞬でこっちに来られてからはちょっとね」

「すみませんでした」


 やっぱり残酷なことをしているのと同じだった。


「謝る必要はないよ。だけどね、元いた場所にいってみたけどもう私からしたらこっちは退屈な場所だよ。友達を見つけられても、親の目の前までいけても話すことすらできないんだからね」


 あれ? そういえば変な能力はなくなっていないみたいだ。

 霊感もなにもない私なのに静さんが見えている時点でそういうことになる。

 ああ、梨菜ちゃんを使って追い出したようなものだから消すことすらできずに離れることになったのかと今更気が付いたアホがいた。


「……アンは元気ですか?」

「あっ、それがね、ずっとお腹が痛いーって言って本調子じゃないの」

「えっ、だ、大丈夫なんですか?」

「んーわからない、アンは人間じゃないからね、いまの私も同じだけどそれでも元人間と違う生物じゃあさ」

「そ、それならこれを渡してください」


 あの日、ロウが消えたと同時に薬も消えてしまったものだと思っていたけどそうではなかった、翌朝に見てみたら普通にあったうえにロウも横で寝ていたぐらい。

 でも、もしこれが有効的に働くのならいい、少なくとも埃が被っていくだけの物ではなくなる。

 なにより元々アンの物なのだからなにもなくても返したかったのもあった。


「これは?」

「梨菜ちゃんが風邪のときによく効くって言って渡してくれた薬です、もしかしたら効くかも……」

「わかった、ちょっといってくるね――それともなちちゃんもいく?」

「ごめんなさい」

「はは、いってくるね」


 そもそも嘘だったら? いやそれでもあれを返せたのは大きいか。

 今日はお休みで外は雨だ、時間もまだ早いからご飯作りのために動き出さなくていい。

 梨菜ちゃんからも連絡はないし、起きていてもなにかが減っていくだけだからとまた寝ようとしたところで連絡がきたという……。

 こういうことばかりだ、大人しく寝させないように設定でもされているのかな。


「あ、なち? 僕だよ僕」

「それはそうだろうね、お父さん以外だったら梨菜ちゃんの情報しか登録されていないんだから」


 変なノイズが走っているとかでもないからこれもちゃんと本人だ。


「いまから僕の家に来られる? 来られるなら――」

「そういうのは嫌だ、どうせハメようとしているんでしょ?」

「え? あの二人はいないよ。わかったよ、じゃあこっちからいくからちゃんと開けてね」

「……二人きりだったらいいよ」

「だから二人きりだって」


 警戒しつつ待っているとインターホンが鳴った。

 このままお客さんを確認できるから確かめてみても梨菜ちゃんしかいなかったから扉を開ける。


「はあ~雨ばっかで嫌だね~」

「それで……?」

「やれやれ、すっかり疑うようになっちゃって。暇だったから相手をしてほしかっただけ、アンも太郎も来なかったら僕はあっちにいけないからね」

「それならお菓子でも出すよ、ジュースもね」


 自分だけで食べ終えてしまうよりは彼女にも食べてもらった方がいい。


「ありがと、部屋でもいい?」

「うん」

「じゃ、先にいってるね」


 部屋は特になにもないけどリビングでも同じだから気にせずに二階へ。

 遠慮なくベッドに寝転んでいたから私はその前の床に座る。


「ここに置いておくからね」

「んー」

「なにかあったの?」


 もしそうなら言ってほしい、私のことに関することだったらなんとかできるかもしれない。


「ああ、だからアンも太郎もいなくなっちゃったからだよ」

「ごめん、私のせいだよね」

「だけどなちの言う通りだからね、本来は関わることもないままで終わるはずだったんだから慣れていかなきゃね」

「……梨菜ちゃんにまで影響が出るとは思っていなかったんだよ、だから梨菜ちゃんのためになら私は――」

「そんなのいいの、そもそも僕となちの二人きりだったんだから」


 この場合ならそう言うしかない。

 でも、自分から切ってしまっただけに今更なしになんてことはできない。


「大変だよっ」

「おわっ!?」

「あ、ごめん梨菜助――って、そうじゃなくてアン達が!」


 え、梨菜助と呼ばれていたのか。

 だけどこれを見られて安心した、静さんとは仲を深められているようでなによりだ。


「落ち着いてください、なにがあったんですか?」

「ずっと笑い続けていて壊れちゃったんだよ!」

「ちょっと効きすぎちゃうって本人が言っていましたからね」

「とにかく二人とも来て!」


 え……。

 ああ、また来てしまった。

 私もそう変わらないけど静さんの場合は限定的な移動だからあの小屋の目の前だ。

 森なのをいいことに走り去りたいところではあるものの、今度こそなにかにやられそうだったからやめておいた。


「静――なちなんか知らない」


 滅茶苦茶普通の状態でアンが出てきた。


「そういう作戦だったんですね」

「ひえ、こわぁ……アン助けてー!」

「梨菜ちゃんはグルじゃないよね?」

「僕は違うよ、神様に誓ってもいいよ」


 それならいい。

 見えないところに逃げた静さんが「そ、そうだよ、梨菜助はたまたま同じ場所にいたから連れてきただけなんだよ」とぶつけてきたからそうですかと返しておく。


「それならなにも問題はなかったみたいなので帰りますね」

「もう使えないよ、なちは自分から手放したんだよ」

「そうですか」


 なら誰かが戻してくれない限りは一生このままか。

 だったらこの小屋から見えないようなところにそれこそ同じような小屋を建てよう。

 魚とかもいて獲って食べられるみたいだから死ぬことはないだろう。


「ちょ、なんでバチバチしているの、梨菜助もなんとかしてよ」

「でも、今回悪いのは無理やり連れていった静さんだから」

「うっ、は、反省しているからさあ」

「とりあえず今日のところは僕となちをあっちに戻して」

「はーい……」


 すぐに戻るのかと思えばそれをしないで「アンも素直じゃないよねー」と静さんは言う。


「なち」

「ろ、ロウさんも来たんですね」

「うん、アンに止められていたんだけど僕は気にする必要はないと思ってね」


 もうあの能力はなくなっているから終わりでよかったのに二人が来ていたら意味がない。


「もう静さんも太郎もこっちにいれば寂しくなったアンが突撃してくるんじゃない?」

「それ面白そう」


 帰れなんて言っても意味がなさそうだから梨菜ちゃんに全て任せるしかなかった。

 そのまま「今日のところは帰らずにここに泊まらせてもらうよ」と重ねてきたからそれならご飯作りとかを頑張ろうと決める。


「なち、僕は――アンが来たみたいだ」

「「え、はや」」


 関係ない関係ない、二人に用があっただけだ。

 なんか逆に調理に集中することができた。

 捗りすぎて作りすぎてしまって頑張ってもらわないと終わりそうにないレベルになってしまったけど。


「静、流石に自由にしすぎだよ、これ以上自由にやるなら静からも取り上げなきゃいけなくなるよ」

「じゃあ私から取り上げてもいいからなちちゃんと仲直りしてよ」

「……それは別に私が言い出したことじゃないから」


 アン以外のみんなが一斉にこちらを見てきた。

 こうなればなにを聞かれるのかなんて想像できてしまう。


「だってさ、なちちゃんはどうしたいの?」

「私は怖くなったからやめたんです」

「うんうん、幽霊の私が言うのもなんだけど急にあんなところに飛ぶようになったら怖いよね、あとそこで出会った存在が意味不明すぎるもんね」

「でも、アン……さんやロウさん、静さんのことが嫌いになったわけではありません」


 当たり前だ、まあ彼女達からすれば私に嫌われたところで、という話でしかないけど。


「そっかっ」

「そもそもそう考えるようになったきっかけも静さんに連動したからだし、今回の件で悪いのはやっぱり静さんだよ」

「そ、そうだねえ……焦がして悲鳴を上げてごめんねえなちちゃん」


 さっきから梨菜ちゃんは静さんに厳しい。

 それでも確かにそれがきっかけではあるからやっぱり切った身としてはなにも言えなかった。


「せ、静のせいじゃん!」

「アン上手い!」

「そういうことを言っている場合じゃないからっ、あーもー!」


 全部が全部嘘ではなかったのかもしれない。

 なにかを誤魔化したいからだとしても普段よりもハイテンションであることは確かだ。

 あとは全くこっちを見ないでいることがすごいことだった。


「なちのお父さんってもう少しで帰ってくるよね? なにか食べさせれば落ち着くよねアンも」

「なちが作ったご飯なんていらない」

「じゃあ私はいっぱい食べさせてもらうね」

「僕も」


 あ、でも、この前は父がいなかったからできただけで一緒に食べるのは駄目か。

 それなら客間にもう運んで三人には食べてもらうことにした、アンは……いらないみたいだから別に意地悪がしたいわけではない。


「やっぱり美味しいっ、んー意地を張ると損をすることになるなー」

「なちは作るのが上手なんだよ」

「こんな感じなんだ」

「大丈夫そうですか? 合わないなら無理をしなくて大丈夫ですからね」


 寧ろ静さんみたいにバクバク食べている方が気になるから。

 少し心臓を慌てさせつつじっと見ていたら「ううん、凄く美味しいよ」と笑みを浮かべられながら言われて余計に落ち着かなくなった。


「そ、そうですか」

「あ、いまちょっとドキッとしたでしょなちちゃん」

「なちはすぐに二人だけで盛り上がろうとするんだから」


 そうだ、そのまま自由に言ってくれればいい。

 そうすれば慌てた心臓もすぐに戻るからありがたいぐらいだった。




「一応布団を敷いておきましたから」

「ありがと――と言いたいところだけどなちちゃんの部屋で寝てもいい?」

「なにもなくていいなら構いませんよ」

「よし、梨菜助はもう寝ちゃっているから起こさないであげよう」


 今日は何回も責められていたから少しは意地悪をしたくなっても仕方がないか。


「僕も――駄目なの?」

「だってロウは男の子だからねー」

「静がよく来るようになるまでは僕も一緒に寝ていたけどね、それにあそこには梨菜がいるんだから一緒に寝たら不味いということになるけど」


 ただアンも梨菜ちゃんに張り付いて寝ている状態だからあっちで寝るのが自然な気がする。

 それでも私の部屋で寝たいと言うのなら連れていけばよかった。


「まあ、苦手だったんじゃなかったのかい? やっぱり格好いいとかなら別なのね……」

「小さいときは凄く可愛いですからね」

「だからよく抱き上げてくれたんだ」

「だ、抱き上げるというか持ち上げていたと言いますか」


 こう……何度も持ち上げて顔を見たくなるような魅力がある。

 アンはよく肩に乗っていて見づらかったから正面にずっといてくれる彼は貴重なのだ。


「まあいいや、三人で寝よ――おかしいな、誰かに見られている気がする」

「私ですかね?」


 いまだって静さん越しにロウさんを見ていたから気になってもおかしくはない。


「いや、じとっとしていて素直になれない感じだからなちちゃんじゃないよ。多分、アから始まる名前の――」

「静はロウを連れてなちの部屋にいってて」

「了解っ」


 いいや、話し合いは大事だからこれもありがたいぐらい。

 すやすやしている梨菜ちゃんを起こさないように外に出ると相変わらずの雨模様だったけど玄関前は屋根があるから特に困ることはない。


「……あの日のことは静から聞いて誤解だってわかったよ、だからごめん」

「はい」


 謝ってくるとは思わなかったからはいと答えつつも驚いている自分がいる。


「で、でもねっ、そこからはなちが悪いんだからね!?」

「そうですね、だから終わりにしようとしたんです」


 だからといってなかったことにはできない、ここで終わらせるのが一番いいのだ。


「そ、そもそもさ、私が力をあげたのに静に懐きすぎじゃないっ?」

「静さんは話しやすい人ですからね」


 静さんは一番危険だ、話しているとつい緩くなってしまう。

 意地を張ってくれるアンとは違って大人の対応をしてしまうから負けることはほぼ確定しているようなものだった。


「あとロウとだっていまでは楽しそうに話していてさあ!」

「こっちの世界だと可愛いですからね」

「な、なんなのこの子は」

「もう終わりでいいです――」

「駄目ー!」


 痛っ、普通に押し倒されて後頭部を打ってしまって涙目になっている人間がいる。

 アンとか関係なくいまのであっちの世界の住人になるところだった。


「あーまだ話し合いは終わらないの?」

「静、責任を取って説得してよ!」

「ん-そんなことどうでもいいから部屋主のなちちゃんを返して欲しいんだけど」

「戻りましょうか」

「戻ろう」


 私にではなくて静さんに不満が沢山みたいで張り付いて耳元で叫んでいた。

 それでもその全てをスルーして「これでやっとゆっくりできるよ」と今回も大人の対応を見せる静さんがいる。


「……僕だけ仲間外れとかありえないから」

「梨菜ちゃんはベッドで寝る?」

「当たり前でしょ?」

「それならアンは私の胸の上で寝なよ、ロウ助はそっちね」

「僕はみんなといられればどこでもいいよ」


 寝る必要もあるのかわからないけどそういう流れになってくれるならなにも言わなかった。

 今回は途中で目が覚めてしまうなんてこともなくて朝までぐっすりだった。

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